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ほっとコラム

「2つのパラダイムシフトがイノベーションを起こす」

岡本  憲之
領域アドバイザー 岡本 憲之
特定非営利活動法人
日本シンクタンク・アカデミー
理事長

高齢化には2つの側面がある。1つは「個人の人生における高齢期が長くなる」側面である。もう1つが「社会の中で高齢者の占める割合が多くなる」側面である。

まず、第1の側面である「個人の長寿化」について考えてみよう。これまで高齢者は、介護や医療を必要とする虚弱者のイメージが強かった。また高齢期の人生についても、余生とか老後といったように否定的に捉えられがちであった。しかし高齢者が虚弱である期間は意外と短く、高齢期の大部分の期間はほぼ健常である。しかも高齢期がここまで長くなってくると、もはやそれを余生とは呼べず、二度目の人生と呼ぶべきである。

ところで二度目の人生とはどのような人生なのか。それは単に定年延長によって従来の会社人生を引き伸ばす。あるいはより長い余生を送ることではない。新たにもう1回の人生を用意するのだ。高齢期の身体や精神の特性に適合し、今まで蓄積してきた知識や経験を活かせる活動を行うことである。社会を支えるための何らかの役割を持ち、生きがいのある新たな人生を始めてこそ二度目の人生といえる。

そのために必要なのは、高齢期の健康や能力の特性を把握し、若いうちから健康長寿を目指すことである。それらを踏まえ、高齢期の新たな職域開発、あるいは学習やキャリア形成はどうあるべきかなど、考えるべき課題は多い。これからの高齢社会では、若者にとっても、将来の「二回の人生」に向けた人生設計の夢と希望が膨らむ。「一度きりの人生」から「二回の人生」へ。これが第1のパラダイムシフトである。

次に、第2の側面である「人口の高齢化」について考えてみる。これまで高齢者は、非健常者として扱われることが多かった。つまり「普通」ではなく支えられるべき「例外的」な存在である。しかしこれからの高齢社会では、身体的能力などは低下するとはいえ、ちょっとした努力と支援があれば、ほぼ健常者の範疇に入る高齢者の数は大幅に増える。別の言い方をすれば、人口の高齢化によって、これまでより「普通」の幅が大きく拡がり、健常者が多様化すると考えるべきではないか。

虚弱者など「普通」でない高齢者に対応する設計思想に、これまでバリアフリー等の概念が用いられてきた。しかしこれからは、ほぼ健常ではあるが、より多様化し範囲の拡がった「普通」の高齢者に幅広く対応できる概念も必要になる。例えば、製品やサービスの設計思想であるユニバーサルデザイン等の概念は、既に様々な分野で導入が始まっている。

住まいや移動手段を含む街づくり、あるいは働く場など活動環境づくりについても同じことがいえる。もちろん高齢社会では、非健常高齢者への配慮は重要である。しかし同時にこれからは、多様な健常高齢者も大幅に増えてくる。したがって従来とは異なる新たな発想が求められるようになる。「例外」から「普通」へ、健常か非健常かの「二者択一」から健常高齢者の「多様化」へ。これが高齢社会における第2のパラダイムシフトである。

以上2つのパラダイムシフトによって何がもたらされるのか。高齢者が虚弱者として健常者から区別され、住み慣れた自宅から介護施設や病院暮らしへと移行する不連続な社会ではない。これからの高齢者は、高齢期でも可能な限り就労など普通の活動を続け、弱ってからも自立のための生活支援や、在宅のまま介護や看護を受けられる。そして最後は家族や知人などに見守られながら、尊厳ある終末期を迎えることができる。そんなシームレスな高齢社会への転換をもたらすであろう。

そのためには当然のことながら、様々な分野で様々な課題を解決する必要に迫られる。そして新たな技術開発、新たな仕組みや制度づくりなどが求められ、そのことが新たなイノベーションを起こし社会を大きく変えることになる。

未来の高齢社会を想像するとき、これまでの社会が衰退していくと考えるのではなく、パラダイムシフトが生み出すイノベーションによって、新たな社会が到来すると考える方が、夢があって楽しいのではないか。


(掲載日:2011年9月20日)

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