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「高齢社会の可能性」

井上 剛伸
領域アドバイザー 井上 剛伸
国立障害者リハビリテーション
センター研究所
福祉機器開発部 部長

先日、90近くになる叔母が亡くなりました。臨終に立ち会った母の話では、それはそれは、安らかな最期だったとのこと。息がだんだん小さくなり、すーっと、本当に静かに眠りについたのだそうです。子供の頃、”寿限無寿限無”を私に教えてくれた優しい叔母でした。ゴールデンウィークに見舞ったときには、胃瘻で食事を口にすることはできないものの、まだまだ元気で、ベッドの上で”寿限無寿限無・・”を最後まで二人で唱え、”にこっ”。とても良い笑顔を見せてくれていたのですが。その後、様態が悪くなり、一ヶ月あまりで、逝ってしまいました。

そんな叔母を思いながら、ふと”福祉機器は何ができただろうか?”、と考えてしまいました。ベッドは確かに福祉機器。”病院の近所の桜を車いすを押してもらって見に行った。”、と言っていましたので、車いすも使っていたのでしょう。しかし、そこに福祉機器にはつきものの、”自立・自律”というキーワードは成り立つのでしょうか?その安らかな眠りと、一ヶ月という短すぎる期間。考えさせられるものがあります。

私の父は、当然のごとく補聴器の使用を拒否しています。”もう、どうせ死んじゃうんだから”といって、福祉機器の使用を受け入れないのです。めんどくさい。そこまでして、聴きたくない。”最近すこしぼけが入ってきた”、と母はこぼします。

平成21年度にテクノエイド協会が実施した介護保険による福祉用具サービスの満足度評価の結果では、利用者および家族のいずれにおいても、殆どの福祉用具で高い満足度が示されていました。使ってみると福祉機器は良いのです。ただ、その導入には壁があることも、これまでの研究から示されています。そこには、身体機能の維持・向上と生活の向上の間に生じるジレンマが存在するのです。

もう少し当たり前に、自然に福祉機器を導入・使用することはできないのでしょうか?一つには、社会の考え方や仕組みの変革が必要でしょう。同時に、機器自体にも、もう一工夫、二工夫が必要ではないでしょうか?高齢社会を支える新しい福祉機器をみんなで考えようではありませんか?日本には世界に誇れる高度な技術がいっぱいです。それを持ってすれば、いろいろな解決策が提供できるはずです。手段を選ばず、最後まで生き生きと、生き抜く。そんな新しい高齢者像に、科学技術はなくてはならないものだと思います。技術をうまく活用する社会、そして、うまく活用できる技術を、みんなで考えて創りあげていく社会。世界に誇れる高齢社会の一つの可能性なのだと思います。


日本が誇るセラピーロボット “パロ” ©AIST

高齢者への記憶と情報支援を目指して“パペロ”( NEC製 )


(掲載日:2011年7月15日)

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