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「長寿社会に生きる」

秋山 弘子
領域総括 秋山 弘子
東京大学高齢社会総合
研究機構 特任教授

5月13日に世界保健機関(WHO)が「世界保健統計2011」を発表した。日本女性の平均寿命は86歳、男性の平均寿命もついに80歳を突破し、冠たる世界最長寿国となった。日本では織田信長の時代から人生50年と言われた時代が20世紀半ばまで続いたが、いよいよ人生90年時代が到来したのである。人生50年時代と人生90年時代の生き方はおのずと異なる。


短期間に人生が倍近く長くなっただけでなく、元気で長生きするようになった。通常の歩行スピードは老化の簡便な指標と言われているが、本研究開発領域の研究代表者の一人である鈴木隆雄先生の調査報告によると、2002年に75歳だった人の歩行スピードは1992年(10年前)の64歳の人と同程度であったという。10歳くらい若返ったことになる。また、身体機能や認知機能の生涯発達研究から、ひとの能力は高齢期になると一様に低下するのでなく、高齢になっても低下しない能力は多々あり、伸びる能力もあることが明らかになっている。


他方、20歳前後に就職、そして結婚、子どもの誕生と続き・・・60歳で退職、といった画一的な人生モデルは社会規範としての力を失いつつある。人生を自ら設計する時代になったのである。たとえば、人生90年あれば全く異なる2つのキャリアをもつことも可能で、1つの仕事を終えて、人生半ばで次のキャリアのために学校で勉強しなおすという人生設計もありえる。多毛作人生が可能な時代になった。人それぞれ多様な人生設計が可能である。すべてはその人次第になった分、人生設計のあり方が問われる。しかし、私たちはいまだ人生50年時代の価値観とライフスタイルで人生90年を生きている。定年退職後の人生設計がなく、長くなった人生をもてあましている人は多い。


自分で設計した90年の人生を生き抜くには、幼い頃からの準備とたゆまぬ努力が必要である。足腰が弱って自立した生活ができなくなる高齢者が実に多い。90歳まで自由に動き回るためには、若い時から骨や筋肉をしっかり鍛えておく必要がある。お金のことを心配しないで高齢期を生きるためには、早くから年金などの経済的な計画を立てて、それを実行していかねばならない。また、人との繋がりは自然にできるものではない。人と積極的に交わり、関係を維持する努力をすることによって高齢期の孤立を防ぐことができる。個々人の多様な人生設計を実現するためには、こうした個人の努力と共に、社会保障、教育、就労機会、地域における活躍や楽しみの場づくりなど社会のインフラ整備が必要であることは言うまでもない。90年の人生を健康で、もてる能力を最大限に活用し、自分らしく生きることは、豊かな長寿社会に生れた私たちに与えられた特典であり、チャレンジでもある。


(掲載日:2011年6月22日)

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