2016年(平成28年)3月31日をもちまして、領域の活動は終了致しました。

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高齢社会領域について

領域総括から

領域総括 秋山 弘子
東京大学高齢社会総合研究機構 特任教授
秋山 弘子

「長寿社会に生きる」

 日本は世界の最長寿国です。20世紀後半だけで平均寿命の30年延長という驚異的な「寿命革命」を達成して、人生90年といわれる時代になりました。これからほんの20年先の2030年には、65歳以上の高齢者が人口の3分の1になります。そのうちでも急速に増加しているのが75歳以上の人口で、倍増します。そして2030年には4割の高齢者が一人暮らしをしていると予測されています。つまり、80歳、90歳代の一人暮らしが一般的になります。世界のどの国も経験したことのない超高齢社会が日本に到来します。人口高齢化の影響は医療や福祉の領域にとどまらず、経済・産業・文化の広い領域で相互に関連する複雑な課題を提起しており、解決するためには社会の高齢化に応じた新たな価値観の創造と社会システムの抜本的見直しが必要です。


 日本全国で約6、000人の高齢者を20数年にわたって追跡調査した結果、約8割の人が70歳半ばまで一人暮らしができる程度に元気ですが、それ以降自立度の低下が始まることがわかりました。この70歳半ば以降の人口が今後20年で倍増することを考えると、今、私たちが急いで何をしなければならないかは明白です。ひとつは、下降の始まる年齢を2年でも3年でも先に延ばすこと、すなわち、自立して生活できる期間、健康寿命の延長です。人生50年時代と人生90年時代の生き方はおのずと異なります。90年の人生を健康で、個々人がもてる能力を最大限に発揮して生きることは、長寿社会に生まれた私たちに与えられた特典であり、チャレンジでもあります。もう一つは、高齢者人口の高齢化により、確実に増加が予測される助けが必要な高齢者の生活を支援する社会のインフラ整備です。多くの高齢者がピンピンコロリ(PPK)を望みますが、実際にはなかなかそうはいきません。誰もが住み慣れたところで安心して自分らしく年をとることができる生活環境を整備するために、ハードとソフトの両面のインフラ構築に取り組む必要があります。


 私たちは、まだどの国も解決したことのない高齢社会の課題に挑戦し、世界に先駆けてモデルをつくっていかなければなりません。多くの課題は、日常、私たちが生活する場にあるため、私たちが生活するコミュニティの課題を解決し新たな可能性を追求する具体策を考案して、実際にやってみる社会実験はひとつの有効なアプローチです。このような取り組みには、従来の縦割りの学術分野に閉じこもらず、他の分野と連携する柔軟性が必要です。さらに、学術の世界を超えて、自治体や企業、住民と協働し、創造力を駆使して粘り強く現場の課題に取り組んでいく新たな形の研究体制と研究方法が求められます。志を同じくする産学官民のメンバーが、それぞれの役割をしっかり担って新たな高齢社会のデザインに取り組み、長寿を心から喜ぶことのできる社会を実現しましょう。


プロフィール

 イリノイ大学でPh.D(心理学)取得、米国の国立老化研究機構(National Institute on Aging) フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、東京大学大学院人文社会系研究科教授(社会心理学)などを経て、2006年東京大学高齢社会総合研究機構特任教授。日本学術会議会員。
 専門はジェロントロジー(老年学)。高齢者の心身の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を20年にわたる全国高齢者調査で追跡研究。近年は超高齢社会のニーズに対応するまちづくりにも取り組むなど超高齢社会におけるよりよい生のあり方を追求している。


関連リンク

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