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効率的で効果的な救急搬送システム構築

コール・トリアージ・アルゴリズム ―今後の展開-

はじめに

 平成20年10月1日より、横浜市において、119番受信時の緊急度・重症度識別(コール・トリアージ)が始まった。本稿では、同年10月から12月に実施されたコール・トリアージの結果を踏まえながら、今後の方向性について述べる。

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トリアージ・アルゴリズムの条件

 コール・トリアージの結果を見る前に、まず、アルゴリズム構築上の条件について整理する。横浜市のコール・トリアージは、「救える命は救う」ことが目的である。海外で実際に行われているコール・トリアージも、救命が目的であることには変わりがないが、そのスタンスは多少異なる。海外においては、トリアージを行う方が、トリアージを行わない場合に較べて社会的メリットが大きいという判断が、システム導入の根拠になっている。従って、ある程度のアンダートリアージ(実際の重症度と比較して軽く識別すること)は、仕方がないこととして許容されている。
  一方、コール・トリアージのアルゴリズムに対する、横浜市の要求水準は、かなり高い。すなわち、トリアージを行うことによって生じるデメリットを、限りなくゼロに近づけた上で、トリアージによるメリットを最大化せよ、というものである。その具体的条件は、
(1)表1に示す赤い部分(aとb: 搬送先病院にて、死亡もしくは重篤と判断された症例をカテゴリーCと判定すること)に該当する事例を 0 とする、
(2)表1に示すオレンジの部分(c: 搬送先病院にて、重症と判断された症例をカテゴリーCと判定すること)に該当する事例を、救急搬送されたトリアージ事例の 0.13% 以下とする、の2つである。


表1
死亡:初診時死亡が確認されたもの
重篤:生命の危険が切迫しているもの
重症:生命の危険の可能性があるもの
中等症:生命の危険はないが入院を要するもの
軽症:入院を要しないもの


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コール・トリアージ実施結果

 平成20年10月1日から12月31日までの、コール・トリアージ実施の結果は、表2に示すとおりである1)。同期間の救急搬送患者数は33,503名、うち28,625名がトリアージの対象となった。
  新聞報道等もなされたように、搬送先病院にて、重篤と判断された症例をカテゴリーCと判定する事例が1件発生した。食物アレルギーによって、救急搬送された方である。コール・トリアージは119番通報時の情報をもとに行われるので、時間の経過によって、病態が大きく変化する事例を、どのようにすくい上げるかは大きな課題である。本件の発生を踏まえ、トリアージ・アルゴリズムの変更を実施し、また、情報の聞き取り法の検討を行っている。
  搬送先病院にて、重症と判断された症例をカテゴリーCと判定する事例は、5件であった。救急搬送されたトリアージ事例の 0.0175%であり、条件②の0.13%よりもかなり良い水準での結果を残している。条件②も0.13%ではなく、全くのゼロにできないかという議論もあろうかと思うが、ここをゼロにするようにアルゴリズムを構築した場合、オーバートリアージが多くなりすぎて、コール・トリアージのメリットが消失してしまうことになる。

表2
(横浜市安全管理局記者発表資料より作成)

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今後の展開

 平成21年3月31日で、横浜におけるコール・トリアージがスタートしてから半年となる。この半年間で、約6~7万件の精度の高いデジタルデータが蓄積されることになる。このデータを得て展開される今後は、次の3つのミッションとして表わすことができる。

1. オーバートリアージを最小化せよ。

2. トリアージ不可事例のCPA(心肺停止)症例を救え。

3. 脳卒中発生確率、虚血性心疾患発生確率を計算せよ。

1. オーバートリアージを最小化せよ

  現在、コール・トリアージのスタート段階であること、また、データを蓄積している段階であることから、慎重な判定を第一としており、C判定をなかなか出さないアルゴリズムとなっている。その為、オーバートリアージ(軽症・中等症症例のカテゴリーA判定およびB判定)が多くなっているが、オーバートリアージがあまりに多いと、コール・トリアージの利益が失われることになってしまう。従って、蓄積された精度の高いデータを用いて、死亡・重篤のC判定を0,重症のC判定をトリアージ事例の0.13%以下という条件を満たした上で、可能な限り、オーバートリアージを少なくするよう、アルゴリズムの精度を高めていく必要がある。

2. トリアージ不可事例のCPA症例を救え

  現在、コール・トリアージのアルゴリズムにおいては、119番通報からの情報が必要最低限揃わない場合、トリアージを行わないことになっている。トリアージを行わない場合、横浜市では、救急隊出動レベルは2(救急車と救命活動車が出動)となる。トリアージ不可事例は、全体の9.8%を占めるが、そのトリアージ不可事例のうち、3.2%はCPA症例である。
  現在トリアージ不可となっているような事例に対して、救急隊出動レベルを3(救急車のみが出動)とするようなトリアージはすべきではないが、救急隊出動レベルを1(救急車、救命活動車および消防車が出動)とするようなトリアージは必要と考える。

3. 脳卒中発生確率、虚血性心疾患発生確率を計算せよ

  現在、脳卒中発生の確率のみ、トリアージ画面に表示されるようになっている。ただし、これは、過去の少ないデータで暫定的に確率計算を行ったものである。119番受信段階における脳卒中発生確率および虚血性心疾患発生確率を、半年分のデータを用いて計算する。疾病発生確率を求めることにより、搬送病院選定に役立てるためである。具体的には、
(1)119番受信直後に、疾病発生を、その確率とともにあらかじめ指定された専門病院に情報として流す、
(2)情報が届いた病院は、受け入れ可能か否かを、早い段階で司令本部に伝える、
(3)受け入れ病院は、発生確率に応じた準備体制を整える、という流れを想定している。

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おわりに

 以上、平成20年度の報告として、現状を踏まえての、今後の展開について述べた。

 本稿は、第2回横浜テレトリアージ研究会(平成21年3月5日、横浜開催)での講演内容を報告書の形にまとめたものである。このコール・トリアージのためのコンピュータプログラムの研究・開発は、横浜市、日本学術振興会科学研究費補助金、および科学技術振興機構(JST)研究開発成果実装支援プログラムより、支援を受けている。

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