ケアが根づく社会システム
ケアが根づく社会システム
RISTEX

プログラム

Program

本領域は、ケアを基盤として社会の仕組みを見直し、自然と人びとがつながり支え合い、生きがいを得られる社会の礎を築くことを目指し、2025年に発足しました。ケアとその価値を可視化し、可視化されたケアの価値を踏まえた、相互依存的な人間観に基づいた社会システムの見直しの方向性や改善策を実社会の現場で実践し、検証・改善(PoC:Proof of Concept)まで一体的に推進します。

総括メッセージ

領域総括
西村 ユミ
東京都立大学 健康福祉学部 教授

近年、人口減少、少子高齢化及び人口偏在、さらには激甚化する自然災害等は、現代、そして未来社会の課題としてさかんに論じられています。これらはいずれも、私たちが暮らしてきたコミュニティの機能を大きく変え、ともすれば弱体化させるものであると考えられます。これらの急激な変化に対して、私たち人間は、これまでの振る舞いを顧みながら、他者や地球環境との向き合い方を捉えなおすことで、危機的な状況にあってもしなやかに回復し、生き抜くことのできる社会を築く力が求められているように思います。こうした事態を振り返ると、私たちが他者や環境を気にかけ、それを大切にしたり配慮したりする「ケア」という営みが不足していることに、根本的な課題があるように思えてなりません。

今まさに私たちは、世界の維持が難しい現実を突きつけられています。どうしたらこの世界を維持し、あるいは回復することへと向わせることができるのでしょうか。やはり、多様ないのちと地球環境と「共にある」こと、共存や相互依存を自覚し価値づけをする、ケアの態度が必要なのではないかと思います。

他方で、何かを配慮し、大事にするというケアは、ときに暴力となったり、差別を生み出したりすることがあります。ケアが、一方から他方に行われるものと考えると、受ける他方は弱者として位置づけられかねません。また、家庭内の分業によってケア労働ともいわれる家事や育児、介護を、皆で分けもつのではなく、限られた人びとが担ってきたこともたびたび指摘されます。これが差別や格差という問題になったとき、ケアは重荷という意味をもつことになります。ケアが、こうした社会的課題を孕んでしまうのはなぜなのでしょうか。これらの「ケア」とかかわる事象について改めて問いなおし、価値づけなおし、ケアする身体や場所、環境に学び、「共にある」ことを復活させる斬新なアイデアとデザインが、今求められています。本研究開発領域では、こうしたケアを生み出す研究開発を推進し、ケアを基盤とした社会の構築を目指します。

概要

「他者や環境を気にかけ、共にある」コミュニティの実現を目指して

人口減少・少子高齢化が加速するなか、人びとが互いの暮らしを支え合える自発的・機能的なコミュニティや、取り巻く環境と互恵的に作用できるインフラの実現が求められています。そのためには、介護・育児に限らず、家事・見守り・人助け・教育・まちづくり・地域活動等をはじめとして、他者、自身、さらには外的環境を意識することから自然に発せられるケアの価値を科学的に示し、それを実社会のコミュニティや生活環境に波及させていくことが必要です。

本研究開発領域全体としては、「私たち人間は、相互にケアし、ケアされることが必要な弱い存在である」という相互依存的な観点に立ち、ケアが社会に根づいていくための研究開発活動を推進し、「互いを自然に気にかけながら助け合えるコミュニティ形成や、人びとが環境と互恵的に関わり合えるインフラ等の生活基盤の自発的な実証が複数地域で始まっていること」を本研究開発領域の達成目標とします。

本研究開発領域で採択された研究開発プロジェクトに対しては、実際の社会における現場(フィールド)を定めたうえで研究開発の成果を検証し、互いに助け合えるケアコミュニティの実証、もしくは人びとが環境と互恵的に関わりあえるインフラ等の生活基盤の実証に目途をつけることを達成目標としていただきます。

2つの研究開発要素を一体的に推進

本研究開発領域の研究開発は、「ケアとその価値の可視化及び実践」を対象とします。「可視化」とは、ケアがなされている現場を分析することにより、ケアとその価値を見えるようにする研究開発に限りません。歴史・社会・芸術・文化・教育等の観点から、人間にとってのケアの価値を再定義しながらケアのあるべき姿を解明する研究開発や、そのようなケアが根づいた社会システムの概念を構築する研究開発も「可視化」の対象に含めます。

「実践」とは、見出されたケアの価値が人びとに浸透していくためのモデル等を構築し、それを実社会の現場に導入し、検証・改善を行うことを指します。

研究開発プロジェクトに対しては、「可視化」「実践」の両方の研究開発要素の一体的な推進を求めます。

研究開発要素①
ケアとその価値の可視化

可視化されにくいケアとその価値を、以下①―1または①―2の研究開発要素の実施により明らかにします。

研究開発要素①―1
ケア当事者等の分析によるケアとその価値の可視

不可視化されやすいケアとその価値を、ケアがなされている現場の当事者ならびにその背景をつぶさに観察・分析する研究開発

研究開発要素①―2
歴史・社会・芸術・文化・教育等の視点からのケアとその価値の可視化

歴史・社会・芸術・文化・教育等、「人間としての営み」という広範な視点から分析する研究開発

研究開発要素②
可視化されたケアの価値に基づく社会システムの実践研究開発要素

①で可視化されたケアの価値を踏まえた、相互依存的な人間観に基づいた社会システムの見直しの方向性や改善策を実社会の現場で実践し、検証・改善を行います(PoC:Proof of Concept)。これに加えて、ワークショップ・住民対話等の機会を通じて、研究開発プロジェクトの成果がもたらす「ケアが根づく社会」のあり方を問いながら、住民をはじめステークホルダーが徐々に主体的にその実践活動に携わる状況に繋げていく活動も実施します。