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研究セキュリティシンポジウム ~研究の自由、透明性、開放性と研究セキュリティの両立のために~
開催報告
3月12日(水)に、「研究セキュリティシンポジウム ~研究の自由、透明性、開放性と研究セキュリティの両立のために~」を実会場およびオンライン配信にて開催しました。
本シンポジウムは、国内外で研究セキュリティの重要性が高まる中で、研究の自由、透明性、開放性と研究セキュリティ確保を両立するために必要な取組について議論を深める目的で開催されました。内閣府、文部科学省、NSFから登壇者を招き、シンポジウム前半では研究セキュリティを取り巻く国内外の政策動向等の講演、JSTにおける取組の紹介が行われました。シンポジウム後半では、大学関係者や研究者も交えてパネルディスカッションを行い、国際的な要請に応えつついかに現場での負担を低減するか、現場の研究者にいかにセキュリティの重要性に対する理解を醸成するかなどについて議論が行われました。
1.開催概要
開催日時 | 2025年3月12日(水)14:30~17:10 |
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開催形式 | 実開催およびオンライン配信 |
会場 | JST東京本部別館1階ホール(東京都千代田区五番町7 K’s五番町) |
使用言語 | 日本語、英語(同時通訳あり) |
主催 | 科学技術振興機構(JST) |
後援 | 内閣府、文部科学省 |
※イベント概要、各講演の資料等についてはイベントぺージもご参照ください。
2.登壇者・パネリスト
<登壇者> | |
塩崎 正晴 氏 | 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局事務局長補 |
髙谷 浩樹 氏 | 文部科学省 大臣官房審議官(科学技術・学術政策局担当) |
Dr. Rebecca Keiser | Chief of Research Security Strategy and Policy, |
U.S. National Science Foundation (米国NSF) | |
橋本 和仁 | 科学技術振興機構 理事長 |
次田 彰 | 科学技術振興機構 理事 |
<パネリスト> | |
白井 俊 氏 | 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局参事官(研究環境担当、大学改革・ファンド担当) |
髙谷 浩樹 氏 | 文部科学省 大臣官房審議官(科学技術・学術政策局担当) |
永田 恭介 氏 | 国立大学協会 会長/筑波大学 学長 |
塩見 淳一郎 氏 | 東京大学 大学院工学系研究科 教授 |
Dr. Rebecca Keiser | Chief of Research Security Strategy and Policy, |
U.S. National Science Foundation (米国NSF) | |
<モデレーター> | |
橋本 和仁 | 科学技術振興機構 理事長 |
3.参加者
会場 | 約100名 |
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オンライン | 約670名 |
4.各セッションの主な内容
以下に講演、パネルディスカッションの主な内容を掲載します。
各講演の資料についてはイベントぺージもご参照ください。
講演 1.研究セキュリティを取り巻く状況について
研究セキュリティを取り巻く施策動向について(内閣府 塩崎事務局長補)
研究セキュリティを取り巻く動向として、これまで取り組まれてきた研究インテグリティとの違いと関連を整理し、「研究インテグリティの確保は全ての研究者が当然に取るべき行動」であり、一方「研究セキュリティの確保は、インテグリティの確保を前提として、経済安全保障等の観点から特定のリスクが想定される場合に、そのリスクの回避または軽減のために取るべき行動」との説明がなされた。
研究セキュリティについては、内閣官房国家安全保障局のもとにおかれた有識者会議の提言(「経済安全保障上の重要技術に関する技術流出防止策に係る提言(令和6年6月4日)」)が紹介され、この提言を受けた内閣府での今後の対応として、信頼のおける国際協力の構築・維持ができる水準を確保するため、関係機関と連携しながら、具体的な枠組み構築、実効性のある手順書、チェックリストひな型の作成等に取り組むことが説明された。
大学等における研究セキュリティ確保に向けた取り組みの方向性について(文部科学省 髙谷審議官)
研究インテグリティ・研究セキュリティの確保は、共通の価値観に基づく開かれた研究環境を守り、大学等の国際連携を推進するために重要であるとの説明があり、これまでに文部科学省が実施した研究インテグリティの確保に関する施策について紹介された。
研究セキュリティについては、文部科学省科学技術・学術政策局が取りまとめた「大学等の研究セキュリティ確保に向けた文部科学省関係施策における具体的な取組の方向性(令和6年12月18日)」が紹介された。この中で、大学等の研究インテグリティ確保の取組を前提として、新たに資金配分機関を中心に追加的な研究のリスクマネジメントを行っていくことや、文部科学省内に大学等の研究機関向けの相談窓口設置の準備を進めていることが説明された。その上で、政府と研究コミュニティが一緒になって、あるべき姿を一緒に作り上げていくことが重要との指摘があった。
Research Security at NSF (NSF Dr. Rebecca Keiser)
NSFにおける研究セキュリティの考え方として、米国における研究セキュリティの定義が紹介され、研究者のアイディアを奪われたり悪用されたりすること、また外国政府から干渉を受けることから保護することが重要であるという考え方が説明された。この目的で、ファンディング機関(FA)や研究機関は透明性を重視する必要があり、「研究資金をどこから得ているか、どのような機関に所属を持っているか」「資金源や所属を非開示にしていないか」「研究成果の活用を考慮した際に潜在的に安全保障上の懸念がないか」の観点が確認すべきリスクファクターになるとの説明があった。
具体的なNSFでの取組として、CHIPS・科学法(2022年)や大統領覚書(2021年)を踏まえて立ち上げられた、NSFファンディングプログラムにおけるリスクアセスメントの過程である「TRUST」が紹介された。「TRUST」は現在パイロット段階であり、サイエンスを尊重しリスク低減によって研究支援を続けることを目指すという考え方や、リスク評価を行う基準、具体的なフローが紹介された。また、研究コミュニティが研究セキュリティに関する情報を十分得たうえで必要な判断を下せるよう、コミュニティに対する支援策として「SECURE Program」が紹介された。
講演 2.JSTの取り組みについて
各国の研究セキュリティ対応とJSTの取組(科学技術振興機構 橋本理事長)
基礎研究成果の社会に与える影響の拡大や地政学的緊張の高まりの中で、研究セキュリティ確保は喫緊の課題であるとしつつ、研究セキュリティの確保は、研究成果や研究者を適切に保護し開かれた研究環境を守るためのものであって、これに加えて経済安全保障上の要請に応えるものであるという考え方が示された。また、国際的な政策や研究コミュニティの動向を踏まえて対応することが重要との指摘がなされた。続いて、欧米主要国の認識と取組状況が紹介され、各国の共通の認識として、「アカデミアの自由、透明性、開放性と研究セキュリティのバランスを取って両立すること」「政府とアカデミアの対話により実行可能なルール、取組を策定すること」「研究セキュリティ上のリスクがあると判断された場合には、必要な範囲を絞ってしっかり保護すること(small yard, high fence)」が重視されていることが紹介された。JSTとしては、アカデミアに注意喚起を促し、その上でお互いに信頼感を持って健全に研究に取り組む文化を醸成するため、関係国との連携を進めつつ、研究セキュリティ確保に取り組んでいくとの説明があった。
JSTの研究セキュリティ確保への取組(JST-TRUST)について(科学技術振興機構 次田理事)
JSTが令和7年度から試行的に導入を行うJST-TRUSTについて紹介された。通常の公募採択プロセスの内にプロセスを織り込み、研究者の追加の負担を最低限に抑えるよう留意して制度設計を行っている旨が説明され、実際のフロー、スクリーニングの方法、リスク軽減策の作成方法などの案が示された。また、令和7年度に量子・半導体分野の公募があるプログラム(CREST、ASPIRE、ALCA-Next、次世代エッジAI半導体研究開発事業)で試行的にJST-TRUSTを導入することが説明された。
また、JSTではアカデミアとの対話や理解活動、政府との調整をJST全体で取り組んでいくとともに、令和7年4月にJSTにおける取組の企画立案・総合調整を行う研究セキュリティ戦略室を新規に発足させることが説明された。
パネルディスカッション
大学における研究セキュリティの現状と課題(国立大学協会 永田会長より話題提供)
先端科学研究の発展のために、研究セキュリティ確保に向けた体制整備は急務であるが、国際的な進展状況と比較して、日本では研究セキュリティに関する議論が遅れている状況が説明された。早急に検討を進め、大学ができること、政府ができることをそれぞれ認識しなければならないとの指摘がなされた。JST-TRUSTには各大学で対応可能であると考えられる一方、大学においては企業や外国の大学等との共同研究の際に相手側の要求を満たせず、結局研究を実施できない事例も生じてきているとの説明があった。研究セキュリティに関しては、法的規制はなくガイドラインが整備されつつある段階の中、大学ではこれまで個別の努力で対応を行ってきたが、現場は厳しく、どのような形であれば学問の自由が確保できる状況になるのかが見えにくい状況であり、政府やJSTに対しては、このレベルなら良いなど国同士のつなぎをお願いしたいとコメントがなされた。
大学研究者からの見た研究セキュリティ(東京大学 塩見教授より話題提供)
国際交流の多い研究室を運営する「一研究者」の立場から、研究セキュリティの現場での対応として懸念され得る点として、「過度な規制による研究力の低下」「作業の負担」「研究者目線での実効性」の3点が挙げられた。1,2点目の懸念についてはJST-TRUSTで一定の配慮がなされているとしたうえで、絞り込まれた課題における対応になるとはいえ、全体の課題数が多ければ対応が必要になる課題も少なくはない点、該当する研究者は採択の度に対応が求められることが想定される点が指摘された。3点目の懸念については、ただ事務的に研究セキュリティの対応を行う形となると、研究者コミュニティ全体としての意識向上やコンセンサスが育まれず、広い意味でのリスクの低減につながるかは分からない点が指摘された。
また、NSFのSECURE Centerについて、「実感として何が怖いのか分からないところがあるので、研究者からすればその部分がクリアになることは助かるのではないか」とのコメントがあった。
パネルディスカッションにおいては、主な論点として以下の内容が挙げられた。
- •政治的な要請と学問の自由、研究の進展とのバランスについて:諸外国も含め、重要技術を保護し有害な使用を避ける観点から、政治側からの研究セキュリティ確保の要求は高いものになる傾向がある。しかしながら政府としても学問の自由や研究の進展を阻害しないように、研究者と政府が良くコミュニケーションを取って、実効的な対応方法の検討を進める必要があるのではないかとの考えが示された。
- •国際共同研究における調整について:国際共同研究を実施する際には相手側の国や研究機関の要請にも対応する必要がある。FA間での調整に加え、アカデミアにおいても政府においてもグローバルに議論を行っていくことが重要ではないかとの指摘がなされた。
- •法的規制やガイドラインの設計:国内における統一的な基準が示されない中では、個々の大学や研究機関が個別で対応の検討を求められることとなる。アカデミア側からは統一的な基準の設定を求める意見があった一方、政府側からは、国が法的な規制を設けることで大学現場に過度な負担をかけることは避けるべきと考えているとのコメントがあった。ガイドラインや手順書を早急に作成していきたい考えが示された。
- •研究セキュリティの取組に対する研究者の意識醸成について:研究インテグリティが守られていないことが、研究セキュリティ上の問題になることも多く両者の関係は深いと考えられること、その例示として研究費やポストなど、研究活動の透明性確保の重要性が挙げられた。研究セキュリティの取組を実効あるものにし、透明性を確保するためには研究者の協力が不可欠であり、研究者のリテラシー向上も重要になる。ただ、研究インテグリティの重要性は研究者に浸透していると考えられる一方で、現状では研究者への研究セキュリティに関する意識づけはあまり進んでおらず、意識向上の取組が今後重要となることが指摘された。
- •研究セキュリティに関する人材育成について: 国外の状況と同様に研究セキュリティ対応に適した人材が不足している点が指摘された。また、日本の研究コミュニティの状況を踏まえると、研究セキュリティの専門家を外部から大学に受け入れるのではなく、大学内において研究セキュリティに関する知識を持った人を育成することが現実的ではないかとの指摘や政府側でも必要な体制整備の検討が重要との指摘がなされた。
以上
掲載日:2025年04月07日