JSTトップ > トピックス > 詳細記事

最新情報

トピックス

内臓型リーシュマニア症(カラ・アザール)の研究拠点 バングラデシュで落成式
2012年12月2日(日)バングラデシュ・マイメンシン市


SKKRC落成式には100人以上の政府関係者、研究者、地元の医師らが詰め掛けた


SKKRCが設置されたバングラデシュ・マイメンシン市のスルヤ・カンタ病院の元隔離病棟


三條場千寿・特任助教(右)の案内で、次々と原虫の培養フラスコの顕微鏡に見入る見学者


培養した鞭毛型の原虫を染色した顕微鏡写真。右下の尺は10μm(0.01ミリ)

バングラデシュ政府が、SATREPSプロジェクトと協働し、マイメンシン市に設立した内臓型リーシュマニア症(カラ・アザール)克服のため研究拠点「スルヤ・カンタ/カラ・アザール/リサーチセンター(SKKRC)」が、本格的にスタートを切り、現地のメディアに大きく取り上げられました。カラ・アザールの罹患者が多く貧困問題が深刻な地方都市に、カラ・アザールの診断・治療に特化した研究拠点が設置されるのは世界でも珍しく、さまざまな波及効果が期待されています。

このプロジェクトはJICA、JSTが共同出資するSATREPSプログラムの一つで、東京大学医学部附属病院の野入英世・准教授が研究代表者を務める「顧みられない熱帯病対策~特にカラ・アザールの診断体制の確立とベクター対策研究」です。

カラ・アザールはリーシュマニア原虫を病原体とする感染症で、媒介するサシチョウバエに刺されて感染すると、1-2か月の潜伏期間を経て発病。肝臓と脾臓が膨れ上がり、未治療の場合は90%が死亡するとされています。WHO(世界保健機関)によると、少なくとも年30万人が新たに罹患し、スーダン、バングラデシュ、インド、ネパールの4か国で90%を占めるということです。

バングラデシュ、ネパール、インドの保健相とWHOは2005年に、カラ・アザールを2015年までに撲滅する(インド亜大陸の罹患者を年1万人あたり1人に減らす)ことを目標に掲げた覚書を締結しました。治療薬の投与などで死者は順調に減り続けていますが、薬剤に耐性のある病原体が出現するなどの事情で、現在も年間4000~9000人の罹患者が確認されています。

プロジェクトは、バングラデシュに日本の最先端の臨床・研究方法を技術移転、診断や治療、予防のための人材育成などで貢献し、カラ・アザール撲滅運動を強く支援することが目的です。その中心的な役割を担うSKKRCは、同国で最も罹患者が多いとされるマイメンシン地区に設置されました。築120年のスルヤ・カンタ病院の一部の隔離病棟(レンガ造り2階建て約1400平方㍍)にベッド20床の臨床・研究設備を整え、日本から供与した最新の設備を設置。医師2人、看護婦3人が常駐し、2011年12月から無償で診断・治療サービスをスタートしたところ、治療抵抗性の症例を中心に口コミで訪れる患者が増え、1年間で約260人を診断・治療したといいます。

センターの落成式は2012年12月2日、現地で行われ、政府関係者や研究者、地元の医師など約100人が出席しました。現地に駆け付けた地球規模課題国際協力室の水間英城参事役は「これまで地域の問題と国際社会から無視されてきた感染症が世界中に広まる時代となり、各国が協働で取り組む意義は大きくなっています。このセンターが、カラ・アザールに苦しむ人たちに救いの手を差し伸べるものとなることを強く期待します」とあいさつ。また、現地の研究を担う国際下痢症研究センター(icddr,b)のホームページには、保健福祉省の副大臣のMozibur Rahman Fakir, MP博士が「これは画期的な試みで、バングラデシュ政府、icddr,b、日本の強い協働が実を結んだものです」と発言したことが引用されています。

落成式前のラボ見学では、生きたリーシュマニア原虫(写真)が観察できる顕微鏡に人気が集まったということです。野入准教授は「カラ・アザールの罹患者が多い地域に、患者の診断をするための拠点ができたことが重要。適切で簡易な診断による疾患の早期発見や、薬剤耐性モニタリングの充実、ベクターコントロール技術の支援、医師などの人材育成を精力的に進めていきたい」とセンターの意義を強調しています。

  • SATREPS
  • https://www.jst.go.jp/global/
  • 地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)の略語。
    独立行政法人科学技術振興機構(JST)と独立行政法人国際協力機構(JICA)が共同で助成し、
    地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3~5年間のプログラムです。35カ国68のプロジェクトが実施されています。
  • SATREPSプロジェクト
    「顧みられない熱帯病対策~特にカラ・アザールの診断体制の確立とベクター対策研究」
    (研究代表者 野入英世・東京大学医学部附属病院 准教授)
  • https://www.jst.go.jp/global/kadai/h2217_bangladesh.html
  • カラ・アザール(注)は、全世界の貧困層で毎年30万人以上が発病する深刻な感染症である。バングラデシュをはじめとする発生国では、最貧困者の病気として放置されており、健康被害だけでなく社会・経済開発の重大な阻害要因となっている。そこで現地の状況に合わせた遺伝子診断法・免疫診断法・検尿等の診断法確立を目指すとともに、疾患の制御に取り組む。
    :カラ・アザール…黒熱病とも呼ばれる。寄生虫の一種、リーシュマニア原虫を病原体とする人獣共通の内臓型疾患。高熱と重度の貧血、腹部の膨張、皮膚の乾燥・変色(濃灰色になる)等が特徴。