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SATREPS:美しいサンゴ礁と星砂が支える島ツバルのスタディーツアー参加報告
2012年3月18日~31日ツバル
JSTとJICAの支援の下、日本と途上国が二人三脚で研究する国際科学技術協力プログラム「SATREPS(サトレップス)」※では、昨年度、幾つかのプロジェクトで、プロジェクトの取組や相手国の現状を広く知ってもらい、SATREPSの理解者・協力者として今後のつながりを持ってもらうために、学生や一般の方などを対象に、スタディーツアーを実施しました。日本から同行した研究者や相手国の研究者たちも現場に随行し、現地視察のみならず、活発な意見交換や参加者の方々からの素朴な質問に丁寧に答え、有意義なスタディーツアーとなりました。その中で、地球温暖化の影響による海面上昇で水没の危機に瀕しているといわれるツバルで、有孔虫(ホシズナ)とサンゴの増殖により国土の維持に取り組むプロジェクト「海面上昇に対するツバル国の生態工学的維持」(平成20年度採択)のスタディーツアーに参加した学生たちからのレポートが届きました。
ツバルの人々の笑顔の秘密
慶應義塾大学文学部 人文社会学科4年 牧田侑子
滑走路脇で遊ぶ子どもたち(少年たちの後ろには海水が地面に湧き出している)
ゴミ捨て場で遊ぶ子どもたち(おもちゃを探して遊んでいるようだった)
2012年3月18日から31日の期間、ツバル・スタディーツアーに参加させていただきました。首都フォンガファレ島での巡検や島の人々へのインタビュー調査を通して、最も私の印象に残ったものは人々の笑顔でした。例えば、道を歩いていれば “Where are you going?”などと笑顔で尋ねられました。
その笑顔の背景には①地球温暖化の被害者として世界各国から援助の手が差し伸べられている経済的背景、②ツバルで起こる犯罪の多くが軽犯罪であるというほど大変平和な社会的背景があるのではないかと考えられます。
現在、ツバルは気候変動、ゴミ問題など様々な問題を抱えています。しかし、ツバルの人々にとってこれらの問題は他国が支援してくれるものであり、ツバル自身が深刻に考えるべき問題とは受け止めていないように感じられました。さらに、日本とは比較できないほどの治安のよさが人々の心に余裕を生んでいた場面も数多く見られました。
ツバルの人々の笑顔の背景にあるものを考えたとき、日本とツバルの置かれた状況があまりにも違うことを改めて感じました。それぞれの国の状況があり、それが持ち味でもあります。だからツバルが先進国に近付くべきであるとは思いません。しかし、ツバルの人々からは諸問題に対峙しようとしている姿勢は感じられませんでした。他国に被害を訴えるだけでなく、ツバル国民の一人一人がもう少し国全体の問題に向き合う必要があるのではないかと考えさせられるツアーとなりました。
国土沈降の危機を救う―未来への鍵を握る有孔虫
東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 修士1年 伊藤理彩
破壊された護岸の跡地に建設中のステージ
有孔虫の飼育実験について協議する研究者たち
ツバル・スタディーツアーは3月18日~28日の11日間に渡って開催されました。
現地では、大潮時に浸水するとして有名なフォンガファレの集会場や、現在ツバルで最も注目されているプロジェクトの1つである有孔虫の飼育実験を行っている大型水槽の他、各地点の浸食状態を調べるため、フォンガファレのビーチを北端から南端まで、さらには島を形成する有孔虫の割合が非常に高いと言われている離島のフアゲアなどの巡検を行いました。
ツバルはもともと生物から造られた環礁という島です。島の基盤となっている造礁サンゴは、紀元前の海面上昇により海水面ぎりぎりまで上方成長を続けましたが、その後の海面低下により、かつて伸びた部分は海水面上に顔を出す形となりました。サンゴ礁の周りには、有孔虫をはじめとする石灰質を含んだ生物が多数生息しており、それらの遺骸が波や風により、顔を出したサンゴの上にどんどん積もり、今のような形にまで拡大したのです。ですから、将来の海水面の上昇による島の沈降に対する対策を考えるとき、島が「生物によって造られた」ということは重要なポイントとなるのです。
現在ツバルでは、人口増加、食生活の変化によって周囲の海の汚染が深刻化しています。生活排水による海水の富栄養化は、もともと貧栄養環境を好む有孔虫の生態に大きなダメージをもたらし、その数は年々減少傾向にあります。海水面の上昇に加え、島の主要構成要素である有孔虫まで数が減ってしまっては、ツバルの国土は沈没という危機的状況にさらされることとなります。そこで、その有孔虫を人工的に養殖することでその数を大幅に増やし、迫りくる海面上昇に対して対策を打ち立てることが、現在行われているプロジェクトの概要となります。
本ツアーでは、そのプロジェクトにおいて具体的にどのようなことが行われているのか、実際に自分たちの目で、その現場を観察してきました。
そして、そこで学び得たものを以下のレポートにまとめました。ぜひご覧ください。
※SATREPSとは・・・地球規模課題対応国際科学技術協力(Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)の略称
近年、地球温暖化などの一国では解決できない地球全体の問題が注目されています。特に途上国はその影響を強く受けてしまいます。解決のためには、途上国における科学技術の発展が不可欠です。そこで、日本の優れた科学技術と政府開発援助(ODA)を組み合わせて、地球規模課題の解決につながる新たな知見の獲得と科学技術水準の向上のためにSATREPSプログラムが行われています。この枠組みの下、現在、34カ国で66プロジェクトが「地球のために未来のために」日夜、研究を続けています。
- SATREPSプロジェクトページ
https://www.jst.go.jp/global/kadai/h2002_tsuvalu.html
- 登録制SNS「Friends of SATREPS」プロジェクトコミュニティ
https://fos.jst.go.jp/community/147
- KAYANNE LABORATORY - 茅根研究室
http://www-sys.eps.s.u-tokyo.ac.jp/~coral/
- Facebook公式ページ
http://ja-jp.facebook.com/Friends.of.SATREPS
- Twitter
http://twitter.com/satreps/
- SATREPSパンフレット
https://www.jst.go.jp/global/pdf/brochure2011_j.pdf