JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「道路橋用アルミニウム床版」の開発結果を成功と認定しました。
この開発課題は、大阪大学 大学院工学研究科 大倉 一郎 准教授らの研究成果を基に、平成20年3月から平成22年9月にかけて日本軽金属 株式会社(代表取締役社長 石山 喬、本社住所 東京都品川区東品川2丁目2番20号、資本金391億円)に委託して、企業化開発(開発費 約1億円)を進めていたものです。
現在、高速道路などの、車や人などの荷重が直接かかる床部分(道路橋床版)には鉄筋コンクリート床版や鋼床版が使用されています。しかし、道路橋の高齢化・老朽化に伴い(20年後には、50%以上の橋が建設後50年を超えると予想)、道路橋の上を車などが繰り返し走ることで発生する疲労損傷や腐食などによる劣化が社会的な問題になっており、高い耐久性をもつ道路橋床版が望まれています。
従来の道路橋は、鋼などでできた橋桁(鋼桁:こうげた)の上に平らな床版を載せ、その上をアスファルトなどで舗装する構造となっています。
今回の新技術は、道路橋用に開発した疲労耐久性の高いアルミニウム合金注1)の床版です(図1)。開発した床版は、棒状のアルミニウム合金の部材同士を接合して床版を製作する際、疲労亀裂の発生しやすい接合部に、ロケットや最新の新幹線などでも利用されている摩擦攪拌接合(図2)を使用し、接合条件を最適化することで高い疲労耐久性を実現しました。また、アルミニウム床版と鋼桁の連結では、異種金属の接触により起こる腐食を防止するために、鋼桁の上に樹脂繊維入りのモルタル注2)の台座を設けました。さらに、連結を強固にするために、アルミニウム床版の中空部に無収縮モルタル注3)を充填する連結法を確立しました(図3)。この連結法により、腐食を防止し、かつ衝撃に強く、疲労耐久性が高い連結を実現できました。
実寸大のアルミニウム床版を製作したところ、重さは従来の鉄筋コンクリートの1/5と軽量で、さらに、道路で想定される最大の荷重(約14トン)を与えたトラックタイヤを移動させる試験(図4)を行った結果、疲労亀裂が発生せず、道路橋床版として実用可能な疲労耐久性が実証されました。エポキシ樹脂を添加して改良したアスファルト(エポキシアスファルト注4))による舗装の耐久性試験においても、鋼床版の場合と同等の疲労寿命を確認しました。
本新技術であるアルミニウム床版は、鋼床版や鉄筋コンクリート床版に比べて非常に軽量であり、老朽化した床版の取り替えに利用した場合、鋼桁・橋脚・橋台などへの負荷が軽減されるため道路橋の延命・再生に効果的です。また、軽量・高耐久性・高耐食性などの利点から新設橋へ適用することで耐用年数が長い道路橋を実現し、かつ維持・管理コストの削減、さらに道路橋の安全性に貢献することが期待されます。
独創的シーズ展開事業・委託開発は、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。本事業は、現在、「研究成果最適展開事業【A-STEP】」に発展的に再編しています。
詳細情報 https://www.jst.go.jp/a-step/
本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。
(背景) 現在、道路橋の高齢化・老朽化による劣化や疲労亀裂が社会問題になっています。そのため、疲労耐久性が高く、軽量な道路橋床版が望まれています。
国土交通省による2009年の調査では、長さ15m以上の橋梁は約15万橋あり、そのうち建設後50年に達したものは約1万2900橋(8%)で、これが10年後には26%、20年後には53%に達すると予想されています(出典:道路施設現況調査「橋梁現況調査」H21.4.1)。そのため、多くの道路橋が高齢化・老朽化し、鉄筋コンクリート床版の劣化や鋼床版の疲労亀裂が社会問題となっており、今後補修・補強や床版の取り替えの必要性が増してくるものと予想されます。
また、1993年の道路構造令の改正で道路設計の際に考慮すべき自動車荷重が増加したことで、老朽化して基準に適合しない床版を取り替える場合は、床版を厚くしなければならないなどの対策が必要となります。床版を厚くすると鋼桁・橋脚・橋台などへの負荷が増加するため、補強が必要となる場合があり、維持・管理コストの増加につながります。このような問題に対応するために、疲労耐久性が高く、下部構造への負荷が少ない軽量な道路橋床版が望まれていました。
(内容) 今回、疲労耐久性が高く、軽量なアルミニウム床版の開発に成功しました。
今回開発した新技術のアルミニウム床版は、アルミニウム合金の部材同士を摩擦攪拌接合することで高い疲労耐久性をもち、かつ従来の鉄筋コンクリート床版と比較して床版重量が約1/5と軽量です。
本新技術では、アルミニウム合金の部材同士を接合して床版を製作する際、疲労亀裂の発生しやすい接合部に摩擦攪拌接合を使用することで従来の溶接に比べて高い疲労耐久性を確保しました。また、アルミニウム床版と鋼桁の間には樹脂繊維入りのモルタル台座を設け、アルミニウム床版と鋼桁との異種金属の接触により起こる腐食を回避しています。さらに、鋼桁に溶接されたスタッド(ずれ止め)をモルタル台座から上に突き出し、アルミニウム床版の中空部に挿入して無収縮モルタルで充填することで衝撃に強く、疲労耐久性が高い連結を実現できました。
実寸大のアルミニウム床版を製作し、道路で想定される最大の荷重(約14トン)を与えたトラックタイヤを移動させる試験を行った結果、疲労亀裂が発生せず、道路橋床版として実用可能な疲労耐久性を実証しました。エポキシ樹脂を添加して改良したアスファルト(エポキシアスファルト)による舗装の耐久性試験においても、鋼床版の場合と同等の疲労寿命を確認しました。
(効果) 本新技術により、道路橋の老朽化問題の解決や、耐久性が高く、維持・管理コストが低い道路橋の実現が期待されます。
本新技術による道路橋用アルミニウム床版は、以下のような特徴があります。
- ○鋼桁・橋脚・橋台などへの負荷軽減
- ○橋の軽量化による地震時の慣性力の低減
- ○建設重機の小型化による工期短縮
- ○耐腐食性が高いため、塩風にさらされる海浜地区への適用が可能
- ○塗装を必要としないため、維持管理の省力化およびライフサイクルコスト低減が可能
このような利点を生かし、劣化した鉄筋コンクリート床版を有する既設橋の取り替え用床版として利用することで道路橋の延命・再生に効果的です。また、新規にアルミニウム床版-鋼桁橋として利用することで耐用年数が長く、維持・管理コストが低い道路橋を実現し、道路橋の安全性に貢献することが期待されます。
<参考図>
図1 アルミニウム床版を用いた鋼桁橋
鋼桁の上に、アルミニウム押出形材をつなげた床版を敷き、その上を舗装する。この鋼桁+床版を橋台や橋脚で支える。
図2 摩擦攪拌接合の方法と開発したアルミニウム床版の摩擦攪拌接合部
摩擦撹拌接合は、まず、互いに突き合わされた一対の母材の突き合わせ面に、筒状で回転するツールと呼ばれる鋼製の工具を挿入する。次に、ツールの回転により発生した摩擦熱によって母材を軟化させ、突き合せ面に沿ってツールを移動させることによって部材を一体化させる。この接合は、溶融溶接とは異なり固相接合(金属が溶ける前の熱で柔らかくなった状態での接合)のため、金属組織が微細化し、機械的強度が優れている。
図3 連結構造
図4 移動トラックタイヤ載荷疲労試験
<用語解説>
- 注1) アルミニウム合金
- アルミニウムを主成分とし、複数の金属元素を添加して機械的強度(引張りや圧縮などの外力に対しての強度)、耐食性(腐食しにくい性質)などを向上させた金属材料。
- 注2) 樹脂繊維入りモルタル
- 樹脂製の短い繊維により補強されたモルタル。引っ張られた時において、引張終局ひずみが数%にも達する極めて高い靭性(材料の粘り強さ)と延性挙動性(物体が破壊されずに引き伸ばされる性質)を示す材料。モルタルは、水にセメントと細かい砂を混ぜ合わせて作るもので、建物の外壁の仕上げやレンガなどの接合材料として利用される。
- 注3) 無収縮モルタル
- モルタルが乾燥収縮によって体積が減少するのを防ぐために、鉄粉、アルミニウム粉末などを入れることにより、収縮せず、多少の膨張を起こさせるようにしたモルタル。
- 注4) エポキシアスファルト
- 舗装に凹凸やひび割れを起こしにくくするためにエポキシ樹脂を添加した改質アスファルト。
<お問い合わせ先>
日本軽金属 株式会社 名古屋支店 商品化事業化戦略プロジェクト室 エネルギー運輸グループ
豊田 英治(トヨタ エイジ)
〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦1丁目19番24号 名古屋第一ビル
Tel:052-231-0899 Fax:052-203-5096
独立行政法人 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 産学連携展開部
平尾 孝憲(ヒラオ タカノリ)、室賀 薫(ムロガ カオル)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999