別紙1

採択課題一覧・運営統括総評

探索加速型

「超スマート社会の実現」領域

運営統括:前田 章(国立研究開発法人 科学技術振興機構 運営統括)
研究開発課題名 代表者氏名 所属機関・役職
重点公募テーマ
「サイバーとフィジカルの高度な融合に向けたAI技術の革新」注1)
AI計算リソースとしての実交通ダイナミクスの活用技術の開発 安東 弘泰 筑波大学 システム情報系 准教授
分散型匿名化処理によるプライバシープリザーブドAI基盤構築 斎藤 英雄 慶應義塾大学 理工学部 教授
複雑事象のモデリングによる知的支援システムの開発 櫻井 保志 大阪大学 産業科学研究所 教授
AI-人間共生の持続的発展に資する権限委譲システム 高橋 信 東北大学 大学院工学研究科 教授
社会シミュレーション・分析技術によるモビリティサービス設計 野田 五十樹 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター  総括研究主幹
エッジAIのハードウェアセキュリティに関する研究 藤野 毅 立命館大学 理工学部 教授
  • 注1)探索研究実施期間:最大2年半、探索研究開発費総額 3,500万円上限(直接経費)
<総評>

本領域では「超スマート社会」「Society5.0」の実現に向けて、次の2つに着目して研究開発を推進しています。

  • (1)サービスプラットフォームの構築:実世界のモノにソフトウェアが組み込まれて高機能化(スマート化)し、連携協調することで新たなサービス・ビジネスを継続的に創出するサービスプラットフォームの構築
  • (2)AI技術の革新:AIを実世界で適用する際に顕在化するさまざまな課題を解決するための技術

今年度は(2)に焦点を当てて、新規重点公募テーマ「サイバーとフィジカルの高度な融合に向けたAI技術の革新」を設定しました。

選考は、「社会的インパクトの大きさ」「技術の先進性・独創性」を重視して進め、AIそのものの技術開発に加え、「AI技術を実用化する際に必要不可欠な周辺技術」も、社会実装を目指す上で重要であると考えて選考を進めました。その結果、AIの技術開発を目指す提案は4件、AIの周辺技術は2件を採択しました。

今回、幅広い分野への応用を目指す提案が集まりましたが、既存のAI技術を特定のドメインに実装するという提案が目立ち、サイバー・フィジカル融合を目指す上でのAI技術の本質的な課題を捉え、その解決を目指す提案は必ずしも多くはありませんでした。

次年度の公募に向けて、未来社会創造事業の趣旨であるハイリスク・ハイインパクトな研究提案を促すため、ワークショップなどの開催で研究コミュニティーでの議論を活性化したいと考えています。

「持続可能な社会の実現」領域

運営統括:國枝 秀世(国立研究開発法人 科学技術振興機構 参与/名古屋大学 参与)
研究開発課題名 代表者氏名 所属機関・役職
重点公募テーマ
「将来の環境変化に対応する革新的な食料生産技術の創出」注2)
ゲノム編集・移植技術による早期養殖魚品種の系統化 木下 政人 京都大学 大学院農学研究科 助教
将来の動物性たんぱく質供給を支える次世代養魚飼料の開発 佐藤 秀一 東京海洋大学 学術研究院 教授
重点公募テーマ
「モノの寿命の解明と延伸による使い続けられるものづくり」注2)
CFRPの長期信頼性向上を目的とした材料設計・評価システムの開発 荒井 政大 名古屋大学 大学院工学研究科 教授
先進的複合材料の因子分類による疲労負荷時の複合劣化機構の解明と寿命予測 後藤 健 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 准教授
エントロピー損傷に基づく熱可塑CFRPの寿命定量化 小柳 潤 東京理科大学 基礎工学部 准教授
5Dデジタルツイン技術による複合材料の長期持続使用 横関 智弘 東京大学 大学院工学系研究科  准教授
  • 注2)探索研究実施期間:最大2年半、探索研究開発費総額 4,000万円上限(直接経費)
<総評>

本領域では、科学技術を最大限に活用して「環境」「社会」「経済」の変容に対してしなやかに対応し、より質の高い成熟した社会の実現を目指しています。今年度は2つのテーマについて公募を行い、重点公募テーマの目標との合致性を大前提に、萌芽的で技術的にチャレンジングであるが未来世代への大きな貢献が見込まれるものを積極的に評価しました。

選考の結果、「食料生産」のテーマでは、魚の養殖の課題解決に異なるアプローチで挑む2件を採択しました。「モノの寿命」のテーマについては、複合材のうちCFRP/CMCについて、原理に基づいた機構解明をベースにした余寿命推定技術の確立を目指し、革新的な技術の研究開発に取り組む4課題を採択しました。

領域運営にあたっては、領域の目標に向かって、大学等の研究機関、企業など外部からのチーム編入も想定し、オールジャパンのチーム形成を目指します。社会への情報発信を含め、オープンな運営・活動を展開していきたいと考えていますので、皆様の積極的な参画をお願いします。

「世界一の安全・安心社会の実現」領域

運営統括:田中 健一(三菱電機株式会社 技術統轄)
研究開発課題名 代表者氏名 所属機関・役職
重点公募テーマ
「生活環境に潜む微量な危険物から解放された安全・安心・快適な
まちの実現」注3)
ウイルスを気相で特異的に検出する基盤技術の開発 池袋 一典 東京農工大学 大学院工学研究院 教授
大気中のインフルエンザウイルスを無力化する革新的感染予防システムの開発 一二三 恵美 大分大学 全学研究推進機構 教授
グラフェンによるインフルエンザ世界流行阻止の基盤構築 松本 和彦 大阪大学 産業科学研究所 特任教授

重点公募テーマ
「食・運動・睡眠等日常行動の作用機序解明に基づくセルフマネジメント」注3)

快適生活をマネジメントする脳フィットネス戦略 征矢 英昭 筑波大学 体育系ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP) センター長/教授
高齢社会を支える若年成人の生活習慣リスク 藤原 浩 金沢大学 医薬保健研究域医学系 教授
体内時計と生活時間の不適合による恒常性破綻 八木田 和弘 京都府立医科大学 大学院医学研究科 教授
睡眠脳波を指標とする睡眠と運動の自己管理による健康寿命延伸 柳沢 正史 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 機構長/教授
  • 注3)探索研究実施期間:最大2年半、探索研究開発費総額 3,000万円上限(直接経費)
<総評>

本領域では、いずれの重点公募テーマにおいても、困難な技術的ボトルネックを明確にし、その解決に取り組もうとしているか、また、社会にどれだけ大きな価値が与えられるか(ハイインパクトかどうか)を重視して選考を実施しました。選考にはアカデミアと産業界の有識者に協力を求め、学術的な挑戦性や技術的難易度、実現可能性および産業界の観点(POCの引き取り可能性)を総合的に判断し、採否を決定しました。

「まち」のテーマについては大気中に含まれる(浮遊する)危険物に関する提案を重点的に募集したため応募数は減少しましたが、社会課題としてニーズの高いインフルエンザウイルスを対象に、高度な技術を活用して検出・対応を行う3件を選定しました。また、初回の公募となった「セルフマネジメント」のテーマでは多くの応募があったことから関心の高さがうかがわれ、さまざまな日常行動の作用機序解明から、健康維持のためのセルフマネジメントが広く普及することを目指す4件を選定しました。今回は重点公募テーマにある「食」と「運動」について、ほかの日常行動との相互関係も考慮しつつ、生体内の恒常性維持にどう影響しているかを解明する研究は十分に採択ができませんでした。本テーマの目標達成に向けてオールジャパンの体制を構築できるよう、次年度以降の公募に際しては、複数の日常行動を対象とするなどの挑戦的な提案がさらに増えることを期待しています。

「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域

運営統括:橋本 和仁(国立研究開発法人 物質・材料研究機構 理事長)
研究開発課題名 代表者氏名 所属機関・役職
重点公募テーマ
「『ゲームチェンジングテクノロジー』による低炭素社会の実現」注4)
低交流損失と高ロバスト性を両立させる高温超伝導技術 雨宮 尚之 京都大学 大学院工学研究科 教授
リグニンからの芳香族ポリマー原料の選択的生産 園木 和典 弘前大学 農学生命科学部 准教授
液相反応分離プロセスによるフラン誘導体の高効率合成 中島 清隆 北海道大学 触媒科学研究所 准教授
細胞分裂制御技術による物質生産特化型ラン藻の創製と光合成的芳香族生産への応用 蓮沼 誠久 神戸大学 先端バイオ工学研究センター 教授
難接合材料を逆活用した接合/分離統合技術の確立 藤井 英俊 大阪大学 接合科学研究所 教授
ゴム廃棄物を原料とした生分解性プラスチック生産 笠井 大輔 長岡技術科学大学 技学研究院 准教授
プラスチック微生物叢構造制御による分解速度制御 粕谷 健一 群馬大学 大学院理工学府 教授
植物をきれいに分けて使って還す~植物循環型利用 敷中 一洋 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 化学プロセス研究部門 主任研究員
高分子材料におけるベンゼン環からビフラン骨格への転換 橘 熊野 群馬大学 大学院理工学府 准教授
環境別の分解制御が付与されたプラスチックの開発 平石 知裕 国立研究開発法人 理化学研究所 開拓研究本部 専任研究員
配列制御技術に基づく生分解性エラストマーの生合成 松本 謙一郎 北海道大学 大学院工学研究院 教授
  • 注4)探索研究実施期間:最大4年半、探索研究開発費総額 1.3億円上限(直接経費)
    異分野シーズの融合運用:最大4年半、探索研究開発費総額 2,500万円上限(直接経費)
  • ※)異分野シーズの融合運用としての採択課題
<総評>

本領域は、2050年に想定されるサービス需要を満足しつつCOを抜本的に削減する「ゲームチェンジングテクノロジー」を創出し、社会実装につなげることで、低炭素社会の実現に貢献することを目指します。

本領域では、低炭素社会の実現に向けて解決しなければならない技術課題を「ボトルネック課題」として具体的に提示することで、専門の研究者のみならず、異分野の研究者が持つこれまでとは異なった視点や手段による全く新しい提案を誘導する、という取り組みを行っています。今年度も、昨年度に続き多くの研究開発提案がありました。これらの提案について、2050年の低炭素社会の実現にどれだけ貢献するか(地球規模でのCO排出削減に大きく貢献し得るか)、ゲームチェンジング性(全く新しい概念や科学に基づいた革新的な技術か)、という観点から厳正かつ公平に書類選考および面接選考を実施し、最終的に11件のチャレンジングな研究開発提案を採択しました。

結果として、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」などの政策ニーズに合致する提案や、CO排出削減に向けてエネルギー・環境分野が長年直面してきた課題の解決を目指す提案など、多様なアプローチから低炭素化に貢献する挑戦的な提案を採択することができました。低炭素社会の実現に向け、研究者の意欲的な取り組みと今後の可能性に強く期待します。

また、今年度から開始した「異分野シーズの融合運用」では、現在社会的課題となっている高分子材料の容易な再生産によるCO排出削減やプラスチック汚染の解決に貢献する提案を募り、異分野・他制度で創出されたさまざまな技術シーズを採択することができました。来年度は新たな分野も取り入れて募集を行う予定です。皆様からのご提案をお待ちしております。特に、自身の技術シーズを育て、低炭素社会の実現に貢献したいという若手研究者には是非挑戦していただきたいと考えています。

なお、今回不採択とせざるを得なかった提案の中には、独自性の高いアイデアに基づく優れた提案も数多くありました。しかしながら、大規模なCO排出削減にどのように貢献するのかの説明や、技術が社会実装された場合の社会・経済的なインパクトが十分に書ききれていないなどの理由により、採択には至りませんでした。今回不採択となった提案者には、CO排出削減への貢献の道筋や不採択理由を踏まえて提案を練り直し、是非来年度に再応募してもらいたいと思います。

「共通基盤」領域

運営統括:長我部 信行(株式会社日立製作所 ライフ事業統括本部 企画本部長 兼 ヘルスケアビジネスユニット チーフエグゼクティブ)
研究開発課題名 代表者氏名 所属機関・役職
重点公募テーマ
「革新的な知や製品を創出する共通基盤システム・装置の実現」注5)
数理科学を活用したマルチスケール・マルチモーダル構造解析システム 小野 寛太 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 准教授
生細胞の分子機能をとらえる量子顕微鏡の開発 重川 秀実 筑波大学 数理物質系 教授
粉体成膜プロセス研究のハイスループット化のためのデータ駆動型プロセス・インフォマティクス 長藤 圭介 東京大学 大学院工学系研究科 准教授
マテリアルズロボティクスによる新材料開発 一杉 太郎 東京工業大学 物質理工学院 教授
超解像蛍光抗体法による共変動ネットワーク解析法の開発 村田 昌之 東京大学 大学院総合文化研究科 教授
細胞資源を活用する細胞間相互作用の精密創成技術 山口 哲志 東京大学 先端科学技術研究センター 准教授
創薬を加速する細胞モデリング基盤の構築 岡田 眞里子 大阪大学 蛋白質研究所 教授
質的な知を客体化するドキュメンテーション基盤技術 香川 璃奈 筑波大学 医学医療系 講師
AIの学習と数理から解き明かす熟練者の技 水藤 寛 東北大学 材料科学高等研究所 教授
  • 注5)探索研究実施期間:最大2年半、探索研究開発費総額 3,500万円上限(直接経費)
    要素技術タイプ:最大2年半、探索研究開発費総額 2,300万円上限(直接経費)
  • ※)探索研究(要素技術タイプ)としての採択課題
<総評>

今年2年目を迎えた本領域では、研究現場のニーズに応える技術分野に基づき設定された10サブテーマの上に、昨年度の採択実績を踏まえつつ、2つの「優先的に提案を求める課題(優先課題)」を設定しました。

採択にあたっては、本領域が目指す研究現場の環境の革新による「日本の研究力向上」、ひいては「産業競争力の強化」という明確なビジョンの下、実現可能性を示せているか、という点を積極的に評価しました。加えて、これまでの研究実績や将来的なポテンシャル、昨年度の採択課題との相乗効果のバランスを勘案しました。その結果、生命科学や材料開発に寄与するような機器開発、またそれを支える数理技術のバランスが取れた9件を採択しました。

本年設定した優先課題に類する提案を半数以上、「要素技術タイプ」としては全て数理の提案を採択し、若手(40代未満)と女性を代表者とする課題も2課題ずつ採択しました。

また、採択課題の共同研究・参画機関などで11社の企業が参画予定です。既存課題も含め、本格研究に向けては企業との連携を一層強化し、密に連動した研究開発の推進を支援していきます。

今年度の優先課題の設定により、領域の目指す目標がより具体化され、ハイレベルな提案に集約されましたが、一方で世界のフラッグシップを目指せる全く新しい原理の計測機器の提案はあまり見受けられませんでした。本格研究への発展を見据え、新たな計測機器や数理課題との融合を始めとしたさらなる発展を図るべく、来年度の優先課題を設計していく予定です。

日本発の技術が世界の研究潮流へインパクトを与えることを目標に、研究者の皆様のバックグランドの強みを生かした新規の発想や技術導入で挑む果敢な提案に期待します。

大規模プロジェクト型

運営統括:大石 善啓(株式会社三菱総合研究所 常務研究理事/研究開発部門長)
研究開発課題名 代表者氏名 所属機関・役職
技術テーマ「センサ用独立電源として活用可能な革新的熱電変換技術」注6)
磁性を活用した革新的熱電材料・デバイスの開発 森 孝雄 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 熱環境発電グループ グループリーダー
  • 注6)研究実施期間:最大9年半、研究開発費総額 31億円上限(直接経費)
<総評>

今年度はSociety5.0の実現に貢献するセンサ用独立電源としての活用が可能な革新的熱電変換技術の公募を実施し、大学、国立研究開発法人、企業などから構成される複数のチームから学術的観点や産業展開の構想にそれぞれ特色がある提案がありました。POC目標の妥当性、産学連携など社会実装に向けた推進体制、申請者の資質・実績などを総合的に勘案して、採択課題を選定しました。

採択課題以外にも、独自に発見した現象や新たな技術的視点を取り入れた意欲的な提案がありました。大規模プロジェクト型で取り上げることは残念ながらできませんでしたが、今後もアイデアをブラッシュアップして研究開発を進められることを期待しています。

本事業はハイリスクな研究開発に挑戦し、ハイインパクトなアウトカム目標を目指したものです。研究項目の重点化や研究体制の見直しなどといった柔軟な運営と出口を見据えたマネジメントを心がけて、未来社会の創造に向けて進めていきます。

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