別紙1

「STI for SDGs」アワード受賞取り組み

○文部科学大臣賞

団体名:北陸先端科学技術大学院大学、山梨県立大学

取り組み名:染色排水の無害化を切り拓く最先端の草木染め

<取り組み概要>

化学染料の染色廃液による水質汚染は世界的に解決すべき社会課題である。他方、天然染料は化学染料とは異なり、環境負荷がない一方、染色工程の所要時間や耐光性などが実用上の障壁となっていた。

本取り組みでは、量子電磁力学的学理に基づき、天然色素と繊維間に働く分子間力を最大化する技術を創出したことにより、染色時間を短縮化し、高耐光性を持つ実用性の高い染色技術へとつなげた。この技術を応用し、地元石川県の廃棄農作物を用いた天然染料を創出する他、地域の伝統産業「加賀友禅」の総天然染料化、染色排水の無害化を実現。40組織、100名超の協力者と共創関係を構築し、新たな地域共創の枠組みとビジネスモデルを生み出している。

さらに国際会議での発表などを積極的に行い、国際的プレゼンスを向上させるとともに、事業推進のための組織づくりなどを国内外で進めている。

<受賞理由>

本取り組みは選考委員会において、150年続く化学染料に基づく染色文化・産業を実用性の高い天然染料への移行により、水質汚染の制約から解放する、という新たな潮流を生み出している革新性、独創性、展開性が高く評価された。また、天然染料への移行による染色排水の無害化が環境問題の解決に貢献するだけでなく、草木染めという伝統産業の復活・拡張や地元農家との協力など、新たな地域共創の枠組み創出が伝統文化や農業の衰退という地域の社会課題の解決、ひいてはSDGsの目標6、7、8、12、13、15など複数の目標達成につながる活動として、文部科学大臣賞にふさわしいと判断した。

○科学技術振興機構理事長賞

団体名:みんな電力株式会社

取り組み名:「応援」やブロックチェーンを通じて再生可能エネルギーの生産者と消費者をつなぐ「顔の見える電力」

<取り組み概要>

地球温暖化対策、地球環境の保全、エネルギー供給の安定確保の観点から再生可能エネルギーの普及をより進める必要がある。

本取り組みでは、暗号通貨NEMのパブリックブロックチェーン上に電力のやり取りを記録する独自システムを構築。世界初のブロックチェーンによる電力トレーサビリティーシステムにより、福島や長野など全国各地の企業などの再生可能エネルギー発電所と消費者をマッチングし供給を行うトラッキングシステムを構築。「顔の見える電力」というサービスを実現。選択の自由という新たな価値を創造して再生可能エネルギーの振興に努めるとともに、電力の売買を通して楽しみながら発電所と消費者をつなぎ、地域の振興へも貢献している。

<受賞理由>

本取り組みは選考委員会において、ブロックチェーンを活用した電力の可視化および電力選択の自由という新たな価値を創造した点が科学技術イノベーションの活用やストーリー性の項目において評価された。また、再生可能エネルギーの普及・振興による環境問題の解決への貢献や電力の売買を通じた地域振興がSDGsの目標7や13への達成にとどまらず、持続可能性という付加価値を与える取り組みであることから、科学技術振興機構理事長賞にふさわしいと判断した。

○優秀賞

①団体名:農業・食品産業技術総合研究機構

取り組み名:農業に起因する温室効果ガスの排出緩和と気候変動適応技術による食糧安定生産への取組

<取り組み概要>

日本において、農業に起因する温室効果ガスは総排出量の45パーセントを占めており、中でも水田からのメタン排出はその主要排出源の1つである。また、近年の夏季の高温傾向は水稲の収量や品質低下に悪影響を及ぼす問題となっている。

本取り組みでは、農業に起因する温室効果ガスの排出をリアルタイムに測定する技術を用いて、水田を乾かす「中干し」の最適な期間を解明することで、水田から排出されるメタンを平均で30パーセント削減する技術を確立。また、ゲノム情報やDNAマーカー選抜技術を活用し、高温年でも品質や収量が安定し病害虫に強い「高温障害適応水稲品種」を開発。

本取り組みにおける技術により、農業由来温室効果ガスの排出削減に貢献しているのに加えて、開発品種を地域ブランド化することにより、地域振興にも貢献している。

<受賞理由>

本取り組みは選考委員会において、日本全国、さらには世界への展開可能性を持つことが高く評価された。今後、さらなる水平展開が実現されれば温室効果ガスの排出削減、地域における農業の持続可能性への貢献が期待できることから、優秀賞にふさわしいと判断した。

②団体名:アイ‐コンポロジー株式会社

取り組み名:バイオプラスチック複合材の活用によるSDGsの推進

<取り組み概要>

近時、焼却時の温室効果ガスの排出といった石油由来のプラスチックの使用に係る環境負荷が問題視されている。

本取り組みでは、中山間地域の資源(間伐材、もみ殻、稲わらなどのバイオマス)を活用してバイオプラスチック複合材を開発し、木質プラスチック、バイオマスプラスチック、生分解性プラスチックの製造を行い、従来のプラスチックの代替材料として市場展開している。

本取り組みの技術を用いて、プラスチック焼却時の温室効果ガス削減に貢献するとともに地方自治体との協働の検討を進めている。

<受賞理由>

本取り組みは選考委員会において、単なる脱プラスチックに向けた技術開発・商品開発にとどまらず、地方自治体と連携して、中山間地において再生可能エネルギーを活用した製造工程の構築を目指す点が展開性、包摂性の項目において評価された。

また、本取り組みは企業、地方自治体、研究機関との共創を通じて、環境負荷の低減のみならず、中山間地域という「取り残され」ることの多い地域における持続可能な産業創出や未利用バイオマスの有効活用を促進している点が評価でき、優秀賞にふさわしいと判断した。

③団体名:高知大学、香南市、高知県、前澤工業株式会社、日本下水道事業団

取り組み名:汚水処理の持続性向上に向けた高知家(こうちけ)の挑戦~産官学による新技術開発と全国への展開~

<取り組み概要>

高知県は汚水処理人口普及率が全国ワースト3位であり、さらに人口減少や厳しい財政状況に直面しており、地域の都市基盤としての汚水処理施設の普及および持続性向上が課題となっている。

本取り組みでは、高知大学の研究シーズをもとに、反応タンク内に設置した溶存酸素濃度計を用いて、送風量と循環流速を自動制御する汚水処理新技術「オキシデーションディッチ法における二点DO制御システム」を産官学の連携により開発した。同技術は香南市野市浄化センターで電力を3分の1、処理時間を半分に減少し、処理コストも削減できることを実証。この結果を踏まえ、同市内で本技術を2ヵ所に導入した他、さらに他の自治体へも水平展開を行っている。これにより、人口減少が進む地方都市における汚水処理の持続性を向上させた。

<受賞理由>

本取り組みは選考委員会において、開発された新技術の成果が実証されており、日本各地への展開も開始していることから、科学技術イノベーションの活用、展開性の項目において、評価された。

また、本取り組みは地道な研究による確立された基盤技術を、産官学の共創により実用化につなげ、汚水処理能力の向上、持続可能なまちづくりを実現した好事例として高く評価でき、優秀賞にふさわしいと判断した。

④団体名:株式会社スマイリーアース

取り組み名:循環型環境ストレスフリーを実現したタオル生産プロセスの構築で「日本タオル製造発祥の地」の地場産業を未来へ繋ぐ

<取り組み概要>

タオル製造が盛んな大阪・泉州地域では、タオル製造における化学薬剤が近隣河川の汚染の一因となっており、過去には同地域を流れる河川が全国河川水質調査でワースト1位になるなど、問題視されている。

本取り組みでは、河川汚染を解決するため、脱化学薬剤依存を掲げ、10年余りの研究開発により、綿と水のみの使用によって「綿の自浄作用」を促し、綿繊維から油分や不純物を取り除く、化学薬剤に頼らない特許技術「自浄清綿法」を開発。産業廃水の無害化を実現。また、同技術とバイオマスエネルギーの利用により、タオル製造の脱石油化とする、循環型環境ストレスフリーを実現したタオル生産プロセスを構築した。

<受賞理由>

本取り組みは選考委員会において、自社の生産プロセス内において、環境、水、産業革新、つくる責任など、SDGsに関連する複数の課題にしっかりと向き合い、独自の技術を確立して実績を積んでいる点が包摂性の項目において評価された。

また、地域の地場産業であるタオル製造が引き起こす河川汚染という社会課題へのアプローチに事業の持続可能性を見いだした点が優秀賞にふさわしいと判断した。

○次世代賞

団体名:熊本県立天草高等学校 科学部 海水準班

取り組み名:あなたの地域は何cm?~高校生が主導して行う、地球温暖化による海面上昇量を推定する取組み~

<取り組み概要>

近年、地球温暖化が引き起こす海面上昇が問題視されているものの、海面上昇の程度については地域差があり、地域ごとの上昇値が推定できなければ、具体的な対策を講ずることはできない。

本取り組みでは、上天草市でのボーリングコアからの試料を用い、珪藻分析と花粉分析を実施。珪藻分析では、塩分濃度および海水面高度を明らかにする一方、花粉分析では、モダンアナログ法により気温や降水量を明らかにした。2つの分析からの結果をベースにした堆積当時の海面の高さと気温により、1度上昇時の海面上昇量を特定。これにIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が公表した気温上昇予測値を合わせて、未来の海水面を推定した。年代測定や研究発表の指導、試料採取などで、東京大学や熊本大学、地元博物館や企業など外部組織と連携し、小中学生に向けた分析体験会を実施。

これらの分析については、今後、有明海対岸の島原の高校とも連携し、有明海全体の海面上昇およびそれによって生じる農業や漁業など、地場産業への影響を明らかにし、自治体や地域住民を巻き込んだ課題解決を目指している。

<受賞理由>

本取り組みは委員会において、高校生による活動でありながら、その活動の自主性、自分達よりさらに先の世代まで意識した活動を行っている点が継続性の項目において評価された。

また、海面上昇が地場産業に及ぼす影響を訴え、自治体や地域住民を巻き込んで課題の解決を目指している姿勢が高く評価でき、次世代賞にふさわしいと判断した。

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