近年の高度情報化社会では、情報を保存するメモリーデバイスの低消費電力化や高速化・小型化が大きな課題となっています。こうした課題を解決する次世代メモリーの1つとして、物質内部の電気の偏り(分極)を利用する強誘電体メモリーの開発が進められています。中でも、従来材料と比べて飛躍的に薄い膜厚でも分極を安定して保持できる蛍石型強誘電体が注目されています。
しかし、この蛍石型強誘電体では、情報の保存や読み書きの根幹を担う分極反転(スイッチング)がどのような過程を経て進行しているのか、また構成する元素によってどのように分極の振る舞いをコントロールできるのかという点について未解明の点が数多くありました。さらに、従来型の強誘電体と異なり蛍石型強誘電体は軽い元素である酸素イオンの動きが分極を引き起こすものの、軽元素は検出信号が得づらく、特にその動的な振る舞いを捉えることは困難でした。
ファインセラミックスセンターは、オーストラリアのモナッシュ大学、京都大学、大阪大学 大学院工学研究科と共同で、超高感度に物質内部の原子の並びを可視化できる最適明視野走査透過電子顕微鏡(OBF STEM)法を活用し、蛍石型強誘電体であるZrO2(酸化ジルコニウム)においてわずか0.1秒程度で生じる分極反転中の一連の原子の動きを捉えることに成功しました。その結果、分極反転は中間的な原子構造を経由することが分かり、さらにZrO2にHf(ハフニウム)を添加したHf0.5Zr0.5O2における計測との比較から、Hf添加が原子の動き方を大きく変えることを明らかにしました。この結果に第一原理計算を組み合わせた結果、添加元素によって分極反転の起きやすさをコントロールできることが示されました。
本研究は、原子の並びを超高感度に可視化する最先端の電子顕微鏡法を次世代メモリーデバイス材料に応用し、分極反転のダイナミクスを直接明らかにした点で大きなブレークスルーです。そして、どの元素をどの程度添加することが分極特性の制御に有効であるかを理解するための第一歩となり、次世代強誘電体材料の設計指針に大きな道筋を示すものとなります。
本成果は、2026年3月30日(現地時間)にSpringer Nature刊行の科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科研費(JP22KJ3209JP、JP23K13553、JP21H01810、JP23KJ1239、JP23H05457、JP24H01190、JP23H00241)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR24H3)、JST 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)(JPMJAP2312、JPMJAP2314)、文部科学省 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業(JPMXP1122683430)、スーパーコンピュータ「富岳」成果創出加速プログラム(JPMXP1020230325、JPMXP1020230327)、サムコ科学技術振興財団、池谷科学技術振興財団、村田学術振興・教育財団、Australian Research Council(ARC) Australian Laureate Fellowship(FL220100202)の支援を受けて実施されました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “Direct observation of cation-dependent polarisation switching dynamics in fluorite ferroelectrics”
- DOI:10.1038/s41467-026-70593-y
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