ポイント
- 超小型X線光源を用いて、1画像900ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)での高速連続撮影を実現し、機械学習解析から試料内部の高分子ミクロ動態の検出に成功しました。本計測法を、透過X線明滅法(Transmitted X-ray Blinking:TXB)と命名しました。
- レントゲン(透過X線)撮影では識別できない物質の構造動態の差異を、実験室サイズのX線光源を用いて、世界で初めてナノ秒スケールで捉えました。
- 今後、経時変化する全ての物質系に対する3次元動態計測の実現や臨床検査法としての利用が期待されます。
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻の佐々木 裕次 教授と茨城大学 学術研究院 応用理工学野 物質科学工学領域の倉持 昌弘 講師(兼:東京大学 大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻 講師)らの研究グループは、X線動画で高分子樹脂内のミクロ分子運動を捉える新たな動態計測手法「透過X線明滅法(Transmitted X-ray Blinking:TXB)」を開発しました。本手法では、X線強度のわずかな時間的揺らぎを解析することで、従来のレントゲン(透過X線)撮影では区別ができなかったミクロ分子動態の違いを明確に検出することに成功しました。
同研究グループは、手のひらサイズの超小型X線光源を自作し、X線光源発生点と試料位置、そして検出器までの距離を数ミリレベルまで接近させることで、X線輝度を上昇させ、900ナノ秒という極めて短い時間で1枚の画像を撮影することに成功しました。本手法で、従来のX線技術では区別できなかった2つの高分子樹脂(結晶性高分子樹脂ポリエーテルエーテルケトン:PEEKと非結晶性高分子樹脂ポリエーテルイミド:PEI)のX線動画に機械学習を新規に取り入れ解析した結果、90パーセント超の精度で両者を判別することに成功しました。つまり、X線透過静止画像情報への時間軸の取り入れ(動画撮影)と機械学習により、両者の区別が可能となる動態像を得ることに成功しました。本成果は、X線透過画像情報に時間軸を取り入れることで実現した世界初の試みで、材料評価に加えて、照射時間が短く被ばく量を抑えられる臨床検査としての利用も期待されます。
本研究成果は、2025年11月26日(米国東部標準時間)付で、「Optics Express」に掲載されました。
本研究は、国家戦略分野である次世代AI分野への挑戦を志す若手研究者を支援する「JST 国家戦略分野の若手研究者及び博士後期課程学生の育成事業(BOOST) 次世代AI人材育成プログラム(若手研究者支援)(課題番号:JPMJBY24C4)」、「JST 戦略的創造研究推進事業 ACT-X(JPMJAX22B7)」の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(696KB)
<論文タイトル>
- “Sub-microsecond Molecular Motion Analysis of Polymer Resins via Transmitted X-ray Blinking”
- DOI:10.1364/OE.573497
<お問い合わせ>
-
<JST事業に関すること>
吉益 雅俊(ヨシマス マサトシ)
科学技術振興機構 創発的研究推進部
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-7276 Fax:03-6268-9413
E-mail:boost-yr-inquiryjst.go.jp
原田 千夏子(ハラダ チカコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 先進融合研究グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
Tel:03-6380-9130 Fax:03-3222-2066
E-mail:act-xjst.go.jp
-
<報道に関すること>
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 広報室
Tel:04-7136-5450
E-mail:pressk.u-tokyo.ac.jp
茨城大学 広報・アウトリーチ支援室
Tel:029-228-8008
E-mail:koho-prgml.ibaraki.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp