気孔は葉の表面に存在する小さな穴で、光合成に必要なガス交換を担う重要な器官であると同時に、植物と細菌が繰り広げる攻防の最前線でもあります。植物は気孔を閉じることで細菌の侵入を防ぎますが、病原細菌は閉じた気孔を再び開かせることが知られていました。しかし、その仕組みの詳細は長らく不明でした。
峯 彰 京都大学 大学院農学研究科 准教授、平田 梨佳子 同 特定研究員、津田 賢一 中国 華中農業大学(Huazhong Agricultural University) 教授らの研究グループは、病原細菌がシロイヌナズナの遺伝子発現制御の仕組みを転用することで、気孔を再び開かせることを発見しました。さらに、この遺伝子発現制御の仕組みは本来、シロイヌナズナが朝の光に応じて素早く気孔を開き、ガス交換を開始するために欠かせないものであることを突き止めました。加えて、シロイヌナズナに近縁のいくつかのアブラナ科植物では、この遺伝子発現制御が起こらない代わりに、病原細菌による気孔開口に対して抵抗性を示すことを発見しました。これは、気孔を速やかに開くための仕組みを犠牲にする一方で、細菌抵抗性が発揮されることを示す例であり、植物の進化における重要な「トレードオフ」を明らかにした成果です。
本研究成果は、2025年11月17日(現地時間)に、国際学術誌「Current Biology」にオンライン掲載されました。
本研究は、JSPS 科研費 若手研究(B)JP17K17802、同 学術変革領域研究(B)「植物超個体の覚醒」JP21H05149およびJP21H05151、JST 革新的GX技術創出事業(GteX)「GXを駆動する微生物・植物「相互作用育種」の基盤構築」JPMJGX23B2、JSPS 科研費 特別研究員奨励費JP24KJ0131などの支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.07MB)
<論文タイトル>
- “Evolutionary trade-off between stomatal defense and gas exchange in Brassicaceae”
- DOI:10.1016/j.cub.2025.10.037
<お問い合わせ>
-
<JST事業に関すること>
波羅 仁(ハラ マサシ)
科学技術振興機構未来創造研究開発推進部GteX推進グループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
Tel:03-3512-3543 Fax:03-3512-3533
E-mail:gtexjst.go.jp
-
<報道に関すること>
京都大学 広報室 国際広報班
Tel:075-753-5729 Fax:075-753-2094
E-mail:commsmail2.adm.kyoto-u.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkohojst.go.jp