ポイント
- 循環経済などの観点から、自己修復性や易リサイクル性を示す光学樹脂の開発が期待されている。
- ポリジチオウレタンが、光学特性、自己修復性、易リサイクル性に優れていることを明らかにした。
- 自己修復とリサイクルがともに可能な光学樹脂の新しい設計指針を示すことができた。
九州工業大学 大学院工学研究院 吉田 嘉晃 准教授、フランス・ロレーヌ大学 Dimitrios Meimaroglou 准教授らの共同研究グループは、ポリジチオウレタン(PDTU)と呼ばれる光学特性に優れた樹脂を用いて、常温常圧で傷や破断が自然に修復するプラスチックフィルムを開発しました。また、同グループは、そのプラスチックフィルムを加熱することで原料に分解し、その分解した原料からプラスチックフィルムを再生することに成功しました。この成果は、スマートフォンのディスプレーやメガネレンズの表面の傷が自然に治る保護フィルムなどへの応用が期待でき、また、それらを廃棄する際、熱で簡単に分解してリサイクルすることができるため、プラスチックごみの削減や資源循環に貢献できます。
従来、光学フィルムに用いられる樹脂と、傷の修復が可能な樹脂、リサイクルしやすい樹脂のそれぞれの分子構造は異なる設計指針で合成されることが多く、それらすべての特徴を持つ樹脂はこれまで開発されていませんでした。今回、本研究グループは、光学特性、自己修復性、易リサイクル性の全てに優れたポリジチオウレタンを開発し、その設計指針とともに自己修復性や易リサイクル性のメカニズムも明らかにしました。
この成果は、「傷ついても修復し、壊れても再生できる光学フィルム」という新しいジャンルの材料創出に寄与するものと考えられます。ポリジチオウレタンは屈折率とアッベ数がともに高いことも特徴です。メガネレンズの素材に屈折率が高いプラスチックを使うことで度数が強い薄型レンズを作ることができます。しかし、多くの屈折率が高いプラスチック素材はアッベ数が低くなる性質があるため、色のにじみが出やすくなります。高屈折率かつ高アッベ数のプラスチック素材を使うことで、度数が強く、薄型で、色のにじみが少ないメガネレンズを作ることができます。また、メガネレンズやディスプレーなどの保護フィルムは、それらの素材と同程度の屈折率とアッベ数を持つことが望ましいとされています。ポリジチオウレタンは、高屈折率(1.65以上)かつ高アッベ数(28以上)として実用されているチオウレア樹脂やエピスルフィド樹脂と同程度の物性値を示すため、一般用途のメガネレンズやスマートフォンのディスプレーだけでなく、今後の発展が期待されるARグラスやウェアラブルデバイスなどの高性能なレンズやディスプレーの保護フィルムとしての利用も期待されます。
なお、本研究成果は、2025年6月12日(日本時間)に「Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR23NA)、文部科学省 科学研究費助成事業(JP22K05241)、北九州産業学術推進機構(FAIS) 次世代産業イノベーション創出事業の支援を受けて実施しました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.48MB)
<論文タイトル>
- “Self-Healing and Recycling Properties of Networked Polydithiourethanes with Reversible Crosslinked Moieties via Hydrogen and Dynamic Covalent Bonding”
- DOI:10.1002/pol.20250263
<お問い合わせ先>
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吉田 嘉晃(ヨシダ ヨシアキ)
九州工業大学 大学院工学研究院 物質工学研究系 准教授
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