ポイント
- 短いペプチドと金属イオンを溶液中で自己組織化させ、60回の絡まり交点数を持つ球殻分子構造を構築
- 自己組織化現象に働く「絡まり」と「多面体」の両幾何学に基づいた構造予測と分子合成を実現
- 人工ウイルスキャプシドや新たな機能性ペプチドの開発につながる可能性
東京科学大学(Science Tokyo)総合研究院 化学生命科学研究所の澤田 知久 准教授と東京大学の藤田 誠 卓越教授(兼 分子科学研究所 卓越教授)、お茶の水女子大学の下川 航也 教授らの研究チームは、ペプチドを金属イオンと自己組織化させることによって、正十二面体リンクの幾何構造を持つ球殻分子構造の構築に初めて成功しました。
ウイルスキャプシドなどに見られる球殻分子構造は、分子を内包し運搬できる機能を持ちます。本研究グループは、幾何学に基づく構造予測と化学合成により、その人工構築を目指してきました。これまでに、短いペプチドが金属イオンとの自己組織化によって絡まり合いながら多面体状に集合する性質を発見し、正四面体リンクや立方体リンクの分子構造の構築に成功しています。しかし、さらに高度な正十二面体リンクの構築は未達成でした。
今回の研究では新たに、ペプチド配列に配位性側鎖を1つ導入することで、正十二面体リンクの構築に成功しました。X線結晶構造解析によって、その構造は外径6.3ナノメートルの巨大球殻分子構造であり、60の交点数を持つ複雑な絡まりに基づくことを明らかにしました。さらに、球殻構造を構成する60個の金属イオンの配置は切頂二十面体であり、ウイルスキャプシドに見られるゴールドバーグ多面体の特徴も併せ持つことが分かりました。このような「絡まり方」と「多面体」という2つの幾何学的要素に基づいた構造予測により、さまざまなウイルスキャプシド状構造の人工構築が可能になると期待できます。
本研究は、東京科学大学の澤田 知久 准教授、東京大学の藤田 誠 卓越教授(兼 分子科学研究所 卓越教授)、猪俣 祐貴 大学院生(当時、東京大学 博士課程学生)、小熊 蒼汰 大学院生(当時、東京大学 博士課程学生)、佐柄 直 大学院生(当時、東京科学大学 修士課程学生)、お茶の水女子大学の下川 航也 教授らによって行われ、「Chem」(Cell姉妹誌)のオンライン版(現地時間2025年5月1日付、オープンアクセス)に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ(課題番号:JPMJPR20A7)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(課題番号:JP19H05461、JP24K01465)などの支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.73MB)
<論文タイトル>
- “An M60L60 metal–peptide capsid with a 60-crossing woven network”
- DOI:10.1016/j.chempr.2025.102555
<お問い合わせ先>
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<研究に関すること>
澤田 知久(サワダ トモヒサ)
東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所 准教授
Tel:045-924-5230
E-mail:sawada.t.akm.titech.ac.jp
藤田 誠(フジタ マコト)
東京大学 国際高等研究所 東京カレッジ 卓越教授
自然科学研究機構 分子科学研究所 卓越教授
Tel:04-7131-0801
E-mail:mfujitaappchem.t.u-tokyo.ac.jp
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<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>
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