ポイント
- 私たちの細胞内では多くの酵素が電子をやり取りしながら協力して働いていますが、酵素の働きを直接観察することは難しい課題でした。本研究では、電極から電子を注入することで複雑に相互作用する呼吸関連の酵素を駆動し、その機能を詳しく分析する新技術を開発しました。
私たちが呼吸する際には、特定の酵素間で電子のやり取りが起こり、酸化や還元といった重要な化学反応がとても効率的に進行します。このような複雑な細胞内の酵素の働きを理解することは、科学の発展や新薬の開発などの幅広い分野で重要です。これまで、細胞内で単独で機能する限られた酵素の研究はなされてきましたが、呼吸に関わる酵素のように複雑に相互作用する酵素の働きを詳しく調べることはできませんでした。
本研究では、微生物細胞内に電極を使って高速に電子を注入することで呼吸酵素を駆動し、その働きを電流で測定、解析する新しい手法を開発しました。微生物の細胞膜は電気を通さない性質を持っていますが、本研究では細胞内への電子移動を加速させる電子ミディエーターという分子を用いることでこの問題を解決しました。この手法により、酵素反応を電流として測定・解析することが可能になります。さらに、多数のサンプルの同時測定ができる独自開発した電気化学装置と組み合わせ、細胞内の酵素の働きを効率的に分析する技術の開発にも成功しました。
これまで、細胞内は多くの生体高分子で混み合っているために、酵素反応がその影響を大きく受けるとされていました。本研究では、酵素反応はそのような高分子混雑効果による影響よりも、細胞内の異なる酵素との電子伝達作用による影響をより大きく受けていることを初めて示しました。
この技術を使えば、呼吸に関連したさまざまな酵素の細胞内での働きを明らかにできる可能性があり、今後、複雑な細胞内の酵素間の相互作用を理解するための基盤技術としての活用が見込まれます。また、酵素をターゲットとする新規薬剤の開発などにも役立つと考えられるため、病原性細菌の殺菌剤の開発や酵素に関連する疾患の治療法開発など医療分野への展開も期待されます。
本研究成果は、2025年3月21日(現地時間)付で「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United Statesof America」に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 革新的GX技術創出事業 (GteX)(JPMJGX23B4、JPMJGX23B2)の一環として実施されました。また、同 戦略的創造研究推進事業 ACT-X(JPMJAX211C)、同 創発的研究支援事業(JPMJFR231H)、科研費(20K15428、22KK0242、23K23532)、筑波大学(幸多き人生100年時代を創る『知』活用プログラム)の支援を得て行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(1.4MB)
<論文タイトル>
- “Decoding in-cell respiratory enzyme dynamics by label-free in situ electrochemistry”
- DOI:10.1073/pnas.2418926122
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