ポイント
- ウレタン結合を水素分子(H2)によって分解する水素化分解に有効な触媒を新たに開発しました。従来の水素化分解では再利用に際しての汎用性が高い部位(カルボニル基)が分解されてしまいますが、本手法ではカルボニル基を保持したままホルムアミドとして回収できます。
- ウレタン結合は一般にエステルやアミドよりも反応しにくいことが知られていますが、本水素化分解ではエステルやアミドなどが混在してもウレタンを選択的に分解します。
- 合成樹脂の中でも汎用されており大量に生産されているポリウレタンのリサイクルは重要な社会課題です。本触媒を用いることで、汎用のポリウレタンフォームを分解できることが明らかとなり、廃棄物のケミカルリサイクルへの応用が期待されます。
東京大学 大学院工学系研究科の野崎 京子 教授、岩﨑 孝紀 准教授、山田 悠斗 大学院生、内藤 直樹 技術補佐員(研究当時、現:ハーバード大学 大学院生)の研究グループは、独自に開発した触媒により、水素分子を用いてウレタンを選択的に分解できることを明らかにしました。従来の水素化分解ではウレタンのカルボニル基はメタノールまで水素化分解されるのに対して、カルボニル基を含む分解生成物(ホルムアミド)が得られる点で新規性があり、ポリウレタンの新たなケミカルリサイクル手法になると期待されます。
実際に、今回開発した触媒をポリウレタンの分解へと応用したところ、水素分子の付加によってウレタン結合を切断し、リサイクルが容易な化合物へと分解できることを明らかにしました。
なお、本研究成果は、日本時間2024年8月9日にアメリカ化学会が発行する「Journal of the American Chemical Society」の速報版としてジャーナルHPに公開されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO「野崎樹脂分解触媒プロジェクト(課題番号:JPMJER2103)」(研究総括:野崎 京子)、日本学術振興会(JSPS) 科研費 基盤研究(B)「触媒機能を有するアニオン性分子の創成と静電的相互作用による触媒機能の集積化(課題番号:JP23H01955、JP24K26648)」(代表:岩﨑 孝紀)、学術変革領域研究A:デジタル化による高度精密有機合成の新展開(JP21A204)「触媒制御によるカルボニル基の水素化の化学選択性逆転と反応機構の解明(課題番号:JP22H05340)」、「触媒制御によるカルボニル化合物の反応性の逆転(課題番号:JP24H01061)」(代表:岩﨑 孝紀)、住友財団(代表:岩﨑 孝紀)、藤森科学技術振興財団(代表:岩﨑 孝紀)などの支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(444KB)
<論文タイトル>
- “Chemoselective Hydrogenolysis of Urethanes to Formamides and Alcohols in the Presence of More Electrophilic Carbonyl Compounds”
- DOI:10.1021/jacs.4c06553
<お問い合わせ先>
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野崎 京子(ノザキ キョウコ)
東京大学 大学院工学系研究科 教授
Tel:03-5841-7261
E-mail:nozakichembio.t.u-tokyo.ac.jp岩﨑 孝紀(イワサキ タカノリ)
東京大学 大学院工学系研究科 准教授
Tel:03-5841-7262
E-mail:iwasakichembio.t.u-tokyo.ac.jp -
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永井 諭子(ナガイ サトコ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 グリーンイノベーショングループ
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<報道担当>
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
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