ポイント
- 磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイクスのスピンの集団運動を用いることで、テラヘルツ帯の光を直流電流に変換することに成功しました。
- 古典的な電荷の流れを必要としない、量子幾何効果に由来した全く新しいエネルギー変換の原理を実証することができました。
- 従来の技術では困難であったテラヘルツ光による光起電力効果の実現により、現在でも高速・高感度の光検出技術が欠如しているテラヘルツ・赤外領域での光デバイスへの応用が期待できます。
東京大学 大学院工学系研究科の荻野 槙子 大学院生(研究当時)、森本 高裕 准教授、高橋 陽太郎 准教授らを中心とする研究グループは、理化学研究所 創発物性科学研究センターの永長 直人 グループディレクター、十倉 好紀 グループディレクターらの研究グループと共同で、磁性と強誘電性を持つマルチフェロイクスのスピン励起に注目することで、テラヘルツ領域での光起電力効果の実証を行いました。今回得られた成果は、今まで実現が難しいと考えられていたテラヘルツ領域の光起電力効果が、マルチフェロイクスという磁性材料中の量子幾何効果を介して実現可能であることを示しています。また、テラヘルツ帯でのエネルギー変換の効率が、可視や近赤外の光起電力効果に匹敵する大きさを持つことが分かりました。マルチフェロイクス中のスピンが持つこのユニークなテラヘルツ光機能は、高速通信やさまざまなセンシング技術への利用が期待されているテラヘルツ帯の高機能デバイス開発につながることが期待できます。
本研究成果は、2024年6月6日(英国夏時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「ナノスピン構造とトポロジーがつくる光スピントロニクス(課題番号:JPMJFR212X)」、CREST「トポロジカル非線形光学の新展開(課題番号:JPMJCR19T3)」、日本学術振興会(JSPS) 科研費 基盤研究B「トポロジカルシフト電流機構を用いた高効率テラヘルツ光電荷変換の創出(課題番号:24K00567)」、「強相関電子系におけるトポロジカル非線形機能の開拓(課題番号:23H01119)」、基盤研究S「磁性伝導体における新しい創発電磁誘導(課題番号:23H05431)」の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(382KB)
<論文タイトル>
- “Terahertz photon to dc current conversion via magnetic excitations of multiferroics”
- DOI:10.1038/s41467-024-49056-9
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