ポイント
- 細胞が増殖するためには、細胞を構成する全ての成分(DNA、RNA、たんぱく質など)を再生産する必要があるが、この能力を持つ人工物はいまだ作られていない。
- 本研究では、たんぱく質の翻訳にかかわる20種類のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)をDNAから再生産させながら、短期間ではあるがDNAの複製を続けることに世界で初めて成功した。
- このシステムに遺伝子を追加することで、将来的には増殖する人工細胞の構築が可能となり、効率的な有用物質生産への貢献が期待される。
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻の萩野 勝己 大学院生、市橋 伯一 教授(同研究科 附属先進科学研究機構/同大学 生物普遍性連携研究機構)らは、核酸やたんぱく質といった無生物材料のみを用いて、生物の特徴である「DNAとたんぱく質の再生産の仕組み」を部分的に持つ人工分子システムの構築に世界で初めて成功しました。
生物のように栄養を与えるだけで増え続ける人工物はいまだ作られていません。それは、細胞を構成する全ての成分を再生産できる反応系を作ることができていないためです。本研究グループは、Phi29 DNA複製酵素を用いた人工DNA複製系と大腸菌由来の無細胞翻訳系を組み合わせることで、たんぱく質の翻訳に必要な20種類のアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)とそれをコードしたDNAを4世代にわたり再生産し続けることに成功しました。
今回開発した人工分子システムに転写翻訳に必要な遺伝子をさらに追加していくことで、将来的にはアミノ酸や塩基などの低分子化合物を与えるだけで自律的に増殖する人工細胞へと発展させることができます。そのような人工細胞ができれば、現在行われている医薬品開発や食料生産のような生物を使った有用物質生産がより安定で制御しやすいものになると期待できます。
本研究成果は、2023年4月14日(日本時間)に「ACS Synthetic Biology」に掲載されます。
本研究は、戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」研究課題名:「自己再生産し進化する人工ゲノム複製・転写・翻訳システムの開発」(研究代表者:市橋 伯一、課題番号:JPMJCR20S1)の支援により実施されました。
<プレスリリース資料>
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<論文タイトル>
- “In vitro transcription/translation-coupled DNA replication through partial regeneration of 20 aminoacyl-tRNA synthetases”
- DOI:10.1021/acssynbio.3c00014
<お問い合わせ先>
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東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 教授
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