東京大学,科学技術振興機構(JST)

令和5年3月17日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

病気の変異を持ったままでも光明が見えてきた

~tRNA修飾酵素でミトコンドリア病の治療を目指す~

ポイント

東京大学 大学院工学系研究科の友田 愛奈 大学院生、長尾 翌手可 助教、鈴木 勉 教授の研究グループは、ミトコンドリア病患者の細胞内でtRNA修飾酵素であるMTO1を過剰に発現させ、MELAS(mitochondrial myopathy,encephalopathy,lactic acidosis and stroke-like episodes)変異のために失われていたtRNA上のタウリン修飾(5-タウリノメチルウリジン、τmU)を導入することに成功し、低下していたミトコンドリアの機能を回復できることを明らかにしました。

ミトコンドリアは細胞内に存在する小器官であり、呼吸することでATPを合成し、生体エネルギーの大半を供給する重要な役割を担っています。ミトコンドリア病は、ミトコンドリアDNAの変異が原因でミトコンドリアの機能が低下して生じる重篤なヒトの疾患です。ミトコンドリア病の代表病型であるMELASは、ミトコンドリアtRNAに変異があり、tRNAの機能に不可欠なタウリン修飾が形成されず、たんぱく質合成が低下し、ミトコンドリアの機能が著しく損なわれ、エネルギー需要の高い脳や筋肉に重篤な障害が生じます。タウリンを過剰に摂取することで脳卒中の発生を抑える治療法が開発されましたが、脳の萎縮を止めることができず、効果的な治療法の開発が求められています。

ミトコンドリアtRNAのタウリン修飾を復活させることが、治療の鍵を握っていますが、ミトコンドリアtRNAはごく微量であり、タウリン修飾の解析は困難でした。本研究グループは、まず、少ない試料を用いてミトコンドリアtRNAのタウリン修飾を高感度で検出し定量するタウリン修飾の新しい解析法(CMC-PE法)を開発しました。実際にこの手法を用い、MELAS患者の細胞で、変異を持つtRNAのタウリン修飾率を定量することに成功しました。さらに、tRNA修飾酵素であるMTO1を過剰に発現させることで、MELAS変異tRNAのタウリン修飾率をほぼ完全に回復させることに成功しました。MTO1を過剰に発現させた細胞では、ミトコンドリアたんぱく質合成能が向上すること、さらに呼吸活性が上昇することを見いだしました。本研究は、ゲノム編集による治療が困難なミトコンドリア病において、tRNA修飾を導入することで、ミトコンドリア機能を改善した初めての例であり、将来的にMELASの治療法の開発に大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、2023年3月17日(英国時間)に「Nucleic Acids Research」に掲載されます。

本研究は、日本学術振興会 JSPSの基盤研究(S)「RNAエピジェネティックスと高次生命現象」(代表:鈴木 勉、26220205)、基盤研究(S)「RNA修飾の変動と生命現象」(代表:鈴木 勉、18H05272)、新学術領域研究 研究領域提案型「ncRNAのケミカルタクソノミ」(代表:鈴木 勉、26113003)、および科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「鈴木RNA修飾生命機能プロジェクト」(研究総括:鈴木 勉、JPMJER2002)などの支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Restoration of mitochondrial function through activation of hypomodified tRNAs with pathogenic mutations associated with mitochondrial diseases”
DOI:10.1093/nar/gkad139

<お問い合わせ先>

(英文)“Restoration of mitochondrial function through activation of hypomodified tRNAs with pathogenic mutations associated with mitochondrial diseases”

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