科学技術振興機構(JST),京都大学

令和5年3月14日

科学技術振興機構(JST)
京都大学

クリックケミストリーにより細胞内脂質を超高速で解析

~代謝異常の原因遺伝子を同定する技術開発に成功~

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、京都大学 大学院工学研究科の浜地 格 教授・田村 朋則 講師・土谷 正樹 助教らは、2022年ノーベル化学賞のクリックケミストリーを独自に発展させて、細胞における脂質の代謝状態を超高速に解析できる新技術「O-ClickFC」を開発しました。

従来型の細胞の脂質分析では、大量に集めた細胞抽出物の放射線分析や質量分析を行う方法が主流でした。この方法には多大な時間と労力がかかり、多数のサンプルを解析する際の課題となっています。2万種類にも及ぶ人の遺伝子と脂質代謝の関わりを突き止めるためには、本課題の解決が重要です。

本研究グループは、生きている細胞の中で脂質に蛍光色素を標識できる独自のクリック反応を利用して、細胞内における脂質の「存在量」と「空間分布」を、単純な蛍光シグナル情報へと変換し、超高速(1万細胞/1秒)に解析する技術「O-ClickFC」を開発しました。本技術と2020年にノーベル化学賞を受賞した「ゲノム編集」を組み合わせることで、人の全遺伝子の変異を持つ細胞集団から、脂質の代謝が異常な細胞を選別し、その原因遺伝子を同定することができます。本研究グループは実証実験として、人の脂質の主要成分であるホスファチジルコリン(PC)の代謝に重要な遺伝子49個を同定し、FLVCR1など多数の新規遺伝子を発見しました。詳細な解析から、FLVCR1は生命維持に必須の栄養素コリンを細胞内に取り込ませる役割を持つことを見いだしました。さらに、遺伝性神経疾患の原因となる変異型FLVCR1は、コリン取り込み活性を喪失するという病態発現メカニズムの一端を解明しました。

がん・肥満・糖尿病などの病気の背後には、代謝の異常があることが明らかになっています。本技術を、脂質だけでなく、糖やアミノ酸などのさまざまな代謝物の解析に応用することで、病態発現と代謝異常を結びつけている遺伝的要因の解明や、創薬標的の候補分子の発見が加速していくと期待されます。

本研究成果は、2023年3月13日(米国東部時間)発行の国際科学誌「Cell Metabolism」に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)

「浜地ニューロ分子技術プロジェクト」(JPMJER1802)
浜地 格(京都大学 大学院工学研究科 教授)
平成30年10月~令和6年3月

上記研究課題では、独創的な「ケミカルバイオロジー分子技術」の創製により、神経系や脳内での情報伝達や細胞間ネットワーク形成を個々のたんぱく質分子レベルで精密に解明することを目的としています。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

「細胞の動的高次構造体」
(研究総括:野地 博行 東京大学 大学院工学系研究科 教授)
「ゲノムレベルで細胞内脂質ダイナミクスを解明するラベル化戦略」
(JPMJPR20EA)
土谷 正樹(京都大学 大学院工学研究科 助教(青藍プログラム))
令和2年12月~令和6年3月

上記研究課題では、脂質を定量的に捉える細胞測定技術の構築と、網羅的な遺伝子探索法との融合により、脂質動態の遺伝子基盤を解明する新技術の創出を目的としています。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Organelle-selective click labeling coupled with flow cytometry allows pooled CRISPR screening of genes involved in phosphatidylcholine metabolism”
DOI:10.1016/j.cmet.2023.02.014

<お問い合わせ先>

(英文)“Novel Click chemistry technology for ultrafast analysis of intracellular lipids”

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