科学技術振興機構(JST),東京大学,日本電子株式会社

令和4年2月10日

科学技術振興機構(JST)
東京大学
日本電子株式会社

世界初の原子分解能電子顕微鏡で磁力の起源をとらえた

~磁石、半導体、量子技術など最先端マテリアル研究開発を加速~

ポイント

JST 先端計測分析技術・機器開発プログラムにおいて、東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 柴田 直哉 機構長・教授と日本電子株式会社 EM事業ユニット 河野 祐二 スペシャリストらの共同開発チームは、新開発の原子分解能磁場フリー電子顕微鏡(MARS)を用いて、磁石(磁力)の起源である原子磁場の直接観察に世界で初めて成功しました。同グループは2012年に原子内部の電場観察に初めて成功しましたが、原子の持つ磁場は電場に比べて極めて弱く、その観察は電子顕微鏡開発以来の未踏技術でした。本成果は、顕微鏡開発の歴史を塗り替える画期的な成果です。

電子顕微鏡は、現在用いられている全ての顕微鏡の中で最も高い空間分解能を持つ顕微鏡です。しかし、原子を直接観察できるほどの超高分解能にするためには、試料を極めて強いレンズ磁場の中に入れて観察する必要があり、そのレンズ磁場の影響を強く受ける磁石や鉄鋼材料などの磁性体の原子観察は長年不可能でした。しかし、2019年に本共同開発チームが全く新しい構造のレンズ開発に成功したことにより、レンズ磁場の影響を受けない磁性材料の原子観察を実現しました。次の目標は、磁石(磁力)の起源ともいえる原子の磁場観察であり、そのための技術開発を続けてきました。

今回、原子分解能磁場フリー電子顕微鏡に新開発の超高感度・高速検出器を搭載することで、鉄鉱石の一種であるヘマタイト結晶中の鉄原子周囲の磁場観察に成功しました。本結果は、鉄原子自体が微小な磁石(原子磁石)であることを直接示すとともに、ヘマタイトが示す磁性(反強磁性)の起源を原子レベルから解き明かすものです。この計測手法は、磁石、鉄鋼、半導体デバイス、量子技術などの最先端マテリアル研究開発を格段に進歩させる画期的な計測技術になると期待されます。

本研究はオーストラリアのモナッシュ大学と共同で行われました。本研究成果は、2022年2月10日(木)(日本時間)に英国科学誌「Nature」のオンライン版で公開されます。

本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。

研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)機器開発タイプ
「原子分解能磁場フリー電子顕微鏡の開発」(JPMJSN14A1)
柴田 直哉(東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 機構長・教授)
河野 祐二(日本電子株式会社 EM事業ユニット スペシャリスト)
平成26~令和2年度
森田 清三(大阪大学 名誉教授)

JSTはこのプログラムで、最先端の研究やものづくり現場でのニーズに応えるため、将来の創造的・独創的な研究開発に資する先端計測分析技術・機器及びその周辺システムの研究開発を推進します。上記研究課題では、従来の常識を打ち破る無磁場下での原子分解能観察を可能にする電子顕微鏡を開発し、先進磁性材料、磁気メモリ、スピントロニクスデバイス、スピン秩序構造などの超高分解能磁性構造解析に革新をもたらすことを目指します。

また、本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金基盤研究(S)「原子スケール局所磁場直接観察手法の開発と磁性材料界面研究への応用(研究代表者:柴田 直哉)」、新学術領域研究(機能コアの材料科学:領域代表 松永 克志)「界面機能コア解析(研究代表者:柴田 直哉)」、特別推進研究「原子・イオンダイナミクスの超高分解能直接観察に基づく新材料創成(研究代表者:幾原 雄一)」、JST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「超低電子ドーズ STEM 法の開発と実空間原子・分子配列構造解析(研究代表者:関 岳人)」による助成を受けて行われました。その他、東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構「次世代電子顕微鏡法社会連携講座」、東京大学・日本電子産学連携室、文部科学省 ナノテクノロジープラットフォーム事業(東京大学微細構造解析プラットフォーム)の支援を受けて実施されました。

<プレスリリース資料>

<論文タイトル>

“Real-space visualization of intrinsic magnetic fields of an antiferromagnet”
DOI:10.1038/s41586-021-04254-z

<お問い合わせ先>

(英文)“Visualization of the Origin of Magnetic Forces by Atomic Resolution Electron Microscopy”

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