ポイント
- 高品質な酸化物半導体である酸化亜鉛の電子密度を極限まで減らすことで、強い電気的な反発の影響が顕著に表れる電子の本質的な相図を見いだすことに成功しました。
- これまで電子相図の研究には化合物半導体であるヒ化ガリウムが用いられてきましたが、高品質酸化亜鉛を用いてより希薄な電子を作ることに成功し、初めて電子の相図の観測に至りました。
- 電気的な反発を考慮した電子の相図は1930年代頃より研究されており、物理学では根本的かつ実験が困難な問題でした。本成果により、高品質酸化亜鉛は電子相図の基礎理論を検証する最適な材料であることが示されました。
東京大学 大学院工学系研究科 附属量子相エレクトロニクス研究センター・物理工学専攻の川﨑 雅司 教授(理化学研究所 創発物性科学研究センター 強相関界面研究グループ グループディレクター)が率いる研究グループは、東北大学 金属材料研究所の塚﨑 敦 教授、カリフォルニア工科大学のJoseph Falson(ジョセフ・フォルソン) 博士のグループおよびマックス・プランク固体研究所のJurgen H.Smet(ヨルグン・シメット) 博士のグループと共同で、高品質酸化亜鉛を用いることで、電気的な反発が強い電子集団の本質的な相図を解明することに成功しました。
多数の原子から成る物質は温度や圧力などの外部環境によって気体・液体・固体と変化し、その関係を示す「相図」は物質を特徴付ける上で最も基本的な情報です。同様に電子の集団に対しても相図を作ることは可能であり、1930年代頃から多くの物理学者が、電子理論的・実験的側面からこの問題を研究してきました。しかし、物質と異なり、電子の集団を物質中から取り出すことはできないため、これまでは電子の散乱が極めて少ない高純度の化合物半導体であるヒ化ガリウム中の電子が調べられてきました。特に、電子の相図を決定する上で最も重要な要素は、電子は原子と違いマイナスに帯電し互いに反発する影響を考慮することです。しかし、電気的反発の影響が強くなる希薄密度の電子を作り出すことは、ヒ化ガリウムでは電子散乱が大きくなってしまい、これまで不可能でした。
今回の研究では、電子間の反発の力が顕著になる希薄な電子を純度が高く、結晶品質の良い酸化亜鉛中に形成することに成功し、初めてこの領域の電子相図を実験的に明らかにすることに成功しました。このことにより、高品質酸化亜鉛は電子相図という電子の基本的な性質を調べるのに最も適した材料であることが示されました。
本研究成果は英国科学雑誌「Nature Materials」に2021年12月23日(英国時間)に掲載されます。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「量子計算のための高品質酸化亜鉛を用いた材料基盤創出」(No.JPMJPR1763)、戦略的創造研究推進事業 CREST「トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成」(No.JPMJCR16F1)、ドイツ研究振興協会(FA 1392/2-1)、米国国立科学財団(NSF Grant PHY-1733907)の支援を受けて行われました。
<プレスリリース資料>
- 本文 PDF(351KB)
<論文タイトル>
- “Competing correlated states around the zero-field Wigner crystallization transition of electrons in two dimensions”
- DOI:10.1038/s41563-021-01166-1
<お問い合わせ先>
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東京大学 大学院工学系研究科 附属量子相エレクトロニクス研究センター 教授
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