理化学研究所(小林俊一理事長)と科学技術振興事業団(沖村憲樹理事長)は、筋収縮の調節に重要な役割を果たしているタンパク質の立体構造を決定し、その分子メカニズムを解明することに世界で初めて成功しました。
心臓の筋肉および骨格筋の収縮は細胞内カルシウムイオン濃度の変化によって調節されています。この現象は1960年代に東京大学医学部の江橋節郎(東京大学名誉教授)らによって発見されました。この発見は、細胞内でカルシウムイオンが重要な多くの調節機能を担っていることの最初の発見であり、細胞一般についての大発見でした。今回解明したタンパク質トロポニンも、カルシウム調節メカニズムを担う中心タンパク質として、江橋らによってこの時発見されました。カルシウム調節のメカニズムを解明するにはこのトロポニンの詳細な立体構造を知ることがどうしても必要です。今回の成果は、トロポニン発見以来40年近く待たれていた快挙と言えます。
本研究では、ヒト心筋トロポニンの機能に必要な中核部分の立体構造を、カルシウムイオンが結合した状態で解明しました。本研究ではよい結晶を得ることが困難であったため、成功まで13年の年月が必要でした。得られた構造から、カルシウム結合によってトロポニン分子内で大きな構造変化が引き起こされることがはっきりしました。また、その構造変化がさらにトロポニンが結合する他の筋タンパク質(特にトロポミオシン、アクチン)にも伝わっていくことが示唆されました。トロポニンの中核部分はさらに複数の部分構造(サブドメイン)に分かれ、それら同士は柔軟に連結されています。この柔らかい連結は、トロポニンと他のタンパク質との結合が大きく変化するために都合がよいと思われます。
今回解明されたトロポニンの結晶構造を基にして、「筋収縮のカルシウム調節」のメカニズムの研究は大きく進展し、遺伝性心疾患などの疾病の研究、および心不全治療薬、診断材の開発研究を加速するものと期待されます。
本研究成果の詳細は、英国の科学雑誌「Nature」(7月3日号)に掲載されます。
本研究は、理研播磨研究所構造生物化学研究室の武田壮一研究員(現・国立循環器病センター研究所心臓生理部室長)、山下敦子研究員、前田佳代研究員、前田雄一郎主任研究員の研究チームによる成果であり、理化学研究所と科学技術振興事業団の研究契約に基づき行われた事業団の戦略的創造研究推進事業の研究領域「形とはたらき」(研究総括:丸山工作)における研究テーマ「横紋筋収縮調節タンパク質複合体の構造解析」の研究成果、および文部科学省科学技術振興調整費総合研究「アクチンフィラメントの構造と動態の解析による筋収縮・調節機構の解明」(代表:前田雄一郎)の研究成果を含みます。
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<本研究の遂行を可能にした研究資金>
理化学研究所(平成10年(1998)度―現在)
科学技術振興事業団・さきがけ研究21・「形とはたらき」領域(統括・丸山工作)
"横紋筋収縮調節タンパク質複合体の構造解析"
(武田壮一、平成10年(1998)度-平成13年(2001)度) |
文部科学省・科学技術振興調整費・総合研究
"アクチンフィラメントの構造と動態の解析による筋収縮・調節機構の解明"
(代表者、前田雄一郎;平成11年(1999)度―平成16年(2004)度の予定) |
松下電器産業(平成5年(1993)―平成11年(1999)) |
欧州分子生物学研究所(EMBL)(1990-1993) |
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<本研究についての問い合わせ先>
理化学研究所 播磨研究所
構造生物化学研究室 主任研究員 前田 雄一郎
TEL:0791-58-2822 FAX:0791-58-2836 |
国立循環器病センター研究所
心臓生理部 室長 武田 壮一
TEL:06-6833-5012(内)2530 FAX:06-6835-5416 |
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<報道担当>
理化学研究所 広報室 駒井 秀宏
TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715 |
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<本研究の意義について意見を聞くことのできる第三者>
丸山 工作
独立行政法人・大学入試センター所長、千葉大学名誉教授
勤務先電話:03-3468-3311(大学入試センター) |
大槻 磐男
東京慈恵会医科大学客員教授、九州大学名誉教授
勤務先電話:03-3433-1111(東京慈恵会医科大学 生理学第二講座) |
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<戦略的創造研究推進事業「さきがけ研究21」についての照会先>
科学技術振興事業団 研究推進部
研究第二課課長 瀬谷 元秀
TEL :048-226-5641
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