取材レポート

アジア太平洋研究公正ネットワークミーティング 2025(APRI2025 BANGKOK) 報告

APRI
 アジア太平洋研究公正ネットワークミーティング 2025 (Asia and Pacific Rim Research Integrity Network Meeting 2025、APRI2025)が、2025年12月1日にタイ・バンコクで開催され、12ヶ国・地域から130名の参加がありました。本会のテーマとして、人工知能 (AI)、データ利用、オープンサイエンス、アジア太平洋地域の相互協力といったものが設定され、各セッションにおいて意見交換が行われました。このレポートでは、本会議の概要及びセッション等について紹介します。

アジア太平洋研究公正ネットワークミーティング(APRI)2025
 APRIは、アジア・太平洋地区の研究公正(Research Integrity)に関する国際会議として、研究公正の強化に向けた、多国間の相互理解の促進、持続可能で強固な国際的パートナーシップ構築等に向けて開催されています。
 研究公正に関する世界会議(WCRI)との関連もあり、2016年にサンフランシスコで初めて開催され、2017年の第2回はアジア地域で初めて香港での開催、2021年の第3回は韓国の主催によりオンラインで開催されました。また、前回の2023年には、日本の公正研究推進協会(APRIN)の主催により東京で開催されました。(【参考】第5回アジア太平洋研究公正ネットワークミーティング (APRI2023 TOKYO) 報告)

 APRI2025は、タイ・マヒドン大学熱帯医学部(Faculty of Tropical Medicine, Mahidol University)の主催、タイ・国家研究評議会(NRCT)の支援のもと、熱帯医学合同国際会議(JITMM)2025のプレイベントとして、タイ・バンコク・Eastin Grand Hotel Phayathaiで開催されました。以下にあげたテーマの6つのプレナリー/セッション、17のポスター発表が行われました。

プレナリー/セッションのテーマ(仮訳)
  • プレナリー      :AI・オープンサイエンス時代における研究公正
  • セッション1     :研究におけるAI利用の責任あるふるまい
  • セッション2     :精密医療及びゲノミクスにおける責任ある研究行為
  • セッション3     :オープンサイエンスの推進・支援に向けた地域的な取り組み
  • セッション4     :研究公正の促進に向けた地域的な取り組み・アプローチ
  • パネルディスカッション :研究公正教育と研究公正促進に向けた地域的なアプローチ

ポスターセッションの様子
ポスターセッションの様子
AI・オープンサイエンス時代における研究公正の必要性について
Yuthavong氏
講演されるYuthavong氏
 プレナリーにおいて、タイ・研究公正ネットワークを代表し、タイ・国立科学技術開発機構(NSTDA)のYongyuth Yuthavong氏は、本会の趣旨について説明されました。「科学には光と影とも言うべき、オープンとクローズのバランスが必要だが、オープンサイエンスの潮流や特許戦略などもあり、そのバランスは絶えず変化している」とされ、情報技術(ICT)の発達により研究成果の共有が容易になるとともに、コロナ禍ではワクチンなどの重要技術に途上国がアクセスできないといった課題も顕在化しつつ、一方でゲノム研究などグローバルなデータが必要な研究もあると述べられました。また、2021年のUNESCOによるオープンサイエンス勧告などオープンサイエンスの潮流があるとされました。



 AIとオープンデータが組み合わされば新たな知識の生成が可能となるが、倫理的な問題を引き起こす可能性もあることを踏まえ、「人間は、データや知識を適切に選定し、研究実施する責任がある」とされました。こうした時代において、研究組織には、ポリシーやガイドラインの制定、インフラ・協力体制の整備等、研究者個人には、AIとオープンアクセスの発展をフォローしつつ、AIをドライバー(導くもの)でなく支援ツールとして利用し、研究成果については人間による検討と議論を行うこと等が求められるとして、発表をまとめられました。

責任ある、生成AI利用・データ管理・オープンサイエンスの取組
 生成AIに関するセッションでは、AI利用時の課題点やどのようなガバナンスが必要であるかが紹介されました。
 富士通研究所のYu Shanshan氏は、企業での生成AIの利用においては信頼性の観点から解決すべき課題が存在するとし、『透明性・説明可能性』、『ハルシネーション』、『バイアス・公平性』、『セキュリティ』、『法令適合性』、『知財・著作権侵害』を挙げられ、同研究所での開発状況が紹介されました。
 韓国・ソウル国立大学のJieun Shin氏は、反復的な作業にはAIを多用するものの、中核的な学術活動では一定の制限が必要であるとされました。また、教育の一環として、学生のディスカッションにより生成AIのガバナンスモデルを検討し、『利用可否基準の明確化』、『透明性の確保』、『人間による確認』、『組織的支援・教育』といった結論があったことを報告されました。

 続いてのセッションでは、アジア・太平洋地域での、責任あるデータ管理・オープンサイエンスに関する取組が紹介されました。
 香港・香港中文大学のMai Har Sham氏は、信頼されうる研究につながる行動とその評価に向けた「香港宣言:研究者評価のための原則」に触れられつつ、研究の再現性確保に向け、研究データと管理に関して、正確で完全性のある信頼できるデータが必要であることや、論文出版に際してはデータの所在自体やそのポテンシャルについて説明していく必要があることなどを述べられました。また、大学におけるデータ管理教育プラットフォームの取組を紹介され、データエクセレンス週間やワークショップの開催を通じて『責任あるAI利用』『国外データ移動』『オープンアクセス』といった学内ガイドラインの教育・周知を進めていることが紹介されました。
 シンガポール・南洋理工大学のSu Nee Goh氏は、オープンサイエンスにかかる課題をその推進に向けた触媒に転換していきたいとされ、データ管理に関する研究公正面の問題としては、信頼できないデータの存在やオリジナルデータの非開示、二重データ・データ操作といったことがあり、それらは論文の撤回につながることを強調されました。また、オープンサイエンスに関するスキルを向上させていく必要性に言及し、大学の取組として、「Open Research Checklist」を紹介されました。

研究公正に関するアジア・太平洋地域の連携した取り組み
 後半のセッションにおいては、各国・地域における研究公正推進にかかる取組・課題、アジア・太平洋地域での比較調査等が紹介されました。
 台湾・国立陽明交通大学のChien Chou氏からは、APRI2023 TOKYOの会議をきっかけに、6か国・地域の研究者の国際協働による比較研究が進められ、各国・地域の政策やガイドラインの在り方、研究倫理教育の内容や方式などが意見交換されたとの報告がされました。各国の共通的な課題として、研究倫理教育の実効性の向上があることに加え、生成AIやオープンサイエンスといった新興課題への対応が必要であると述べられました。

 最後に、早稲田大学の札野順氏から、研究公正に係るアジア・太平洋地域の連携として、持続的なネットワーク組織の創設、研究不正等にかかる定義の共通化と『アジア・太平洋地域における責任ある研究行為に関する行動規範』の策定、共通的な教材・教育手法の開発、研究倫理教育にかかる人材育成等といった提案がされ、今後の取組に向けたディスカッションが行われました。
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今後の連携にかかる提案を行う札野氏

前回の第5回アジア太平洋研究公正ネットワークミーティング (APRI2023 TOKYO) 報告