取材レポート
文部科学省 研究公正推進事業 研究公正シンポジウム「オープンサイエンス時代における責任ある研究活動について」報告
本シンポジウムでは、オープンサイエンスの動向、それに関わる研究データ管理(RDM)や研究評価改革の最新状況、生成AIやデータサイエンスが研究公正にもたらす影響、これらの変化する環境における研究倫理教育について講演が行われました。機関と研究者が協働してガバナンスを構築する必要性や、AI時代に求められる研究公正・再現性の確保、今後の研究機関に求められる姿などが議論されました。このレポートでは、各講演の主要な論点を中心にその内容をご紹介します。
来賓挨拶・講演:「公正な研究活動の推進に向けて~研究倫理教育・研究不正の状況等~」
須藤 正幸 氏 (文部科学省 科学技術・学術政策局 参事官(研究環境担当)研究公正推進室長)
講演後半では、文部科学省が日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST)、日本医療研究開発機構(AMED)とともに実施している研究公正推進事業に触れられた後、昨今の動向としてオープンサイエンスやFAIR原則の進展について紹介されました。大学、研究機関においては不正行為防止に取り組みつつ、これらの状況変化を踏まえ、研究倫理教育に取り組んでいくことが重要であると話されました。
講演1:「オープンサイエンス、生成AI、データサイエンスで研究公正はどう変わるのか」
林 和弘 氏 (文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP) 上席フェロー /データ解析政策研究室長)
研究評価と研究公正の変容
続いて、研究活動がデジタル化され、ネットワーク上で多面的に把握できるようになっている現状が説明されました。DOI、ORCID、研究機関識別子(RoR)などを通じて、研究者、研究費、論文、特許などの関連情報を結び付けた分析が可能になり、研究プロセスの見える化が進んでいるとの紹介がありました。このようにできた研究活動プラットフォームは、平時には研究者を褒め称える(評価する)ことに使えるだけでなく、研究のトレーサビリティが確保されることにより、研究公正の面でも有効であるとされました。
また、出版社がAI利用の種類や信頼性を整理しようとする動きにも触れられ、研究のどの部分でAIを使ったかを明らかにすることの重要性を示されました。
AI時代に求められる研究公正と今後の展望
一方、長期的には、研究者の定義の拡張、倫理とアルゴリズムの融合、科学の社会契約の再構築など、研究文化そのものの進化が求められるとの展望が示されました。
講演の最後には、研究公正の観点では今まで通り健全な活動が求められる(Behave yourself as ever, someone(AI) is watching you)と述べられ、研究公正は研究者を守り、研究の健全な発展のためにあるとまとめられました。
講演2:「オープンサイエンスと研究データ管理-広がる研究公正の範囲」
船守 美穂 氏(国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授/鹿児島大学 附属図書館 オープンサイエンス研究開発部門 部門長)
オープンサイエンスの潮流と研究評価の変化
研究データ管理と支援体制の整備
中盤では、国内政策の動向として第6期科学技術・イノベーション基本計画、NII Research Data Cloud の整備、ならびに、2024年に統合イノベーション戦略推進会議において策定された「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」について説明されました。FAIR原則(FAIR Principle)やDMP(データマネジメントプラン:Data Management Plan)の役割が示される一方で、助成機関ごとの要件の差異が研究現場に負荷を生じさせている状況が述べられ、標準化や機関内支援の整備の必要性が示唆されました。さらに、「研究データ管理は誰がする?」という観点から、研究者、事務部門、職員・全学委員会・部局が役割を分担して協働すること、リポジトリ運用や人材育成など機関レベルの取り組みが求められる点も説明されました。DMP/DMRを用いた機関内の研究データ管理
日本型の機関側のデータ管理として DMP に加え実運用の記録 DMR(Data Management Record) を用いてガバナンスを実装していく考えが示されました。データの一律な機関帰属は避ける一方、研究者を機関の一員と位置づけ、最低限のレポーティングと緊急時の研究データの提供を担保しつつ、機関側は環境整備やコンプライアンス対応を引き受けるイメージとのことです。これにより、再現性・透明性の確保や証跡の長期保存(10年)、権利処理やセキュリティ、機微情報の取扱いがエビデンスに基づき進めやすくなるとされました。あわせて、集約した DMP/DMR 情報を用いて全学のストレージや需要を見通すことが可能になるとしました。研究評価改革との連動を視野に、機関と研究者の協働によるデータガバナンスを段階的に実現する方向性を示されました。
講演3:オープンサイエンスが拓く研究の公正と未来 ― 透明性・再現性・信頼性の新時代
札野 順 氏(早稲田大学 大学総合研究センター 教授)
オープンサイエンスの潮流と研究文化の広がり
国際的なオープンサイエンスに関する枠組みとしては、UNESCO勧告(2021採択)や EU研究公正行動規範(2023改訂、The European Code of Conduct for Research Integrity)を紹介されました。
その後、オープンサイエンスがどのような形で研究公正の推進に寄与するのかについてお話しされました。まず、研究プロセスの可視化を通じて不正抑止と検証を促す点を取り上げられました。オランダの不正事案を契機としたデータ共有ルール整備を例として紹介されました。
次に、事前登録や Registered Reports について、研究成果におけるバイアスを縮減することにより再現性の底上げにつながる手法として説明され、米国心・肺・血液研究所(NHLBI)の臨床試験での導入事例などに言及されました。そして、オープンサイエンスの実践により一般市民の理解や参画が増え、社会的信頼の醸成に繋がることにも意義があると伝えられました。
最後に、OSに関する「できるだけオープン、必要に応じてクローズ」といった原則にどのように対応していくかが重要とされ、個人情報、国家安全保障、プライバシーに直結する情報をどう守るかを考えつつ、『責任ある公開』のメリットを考えていかなければならないと話されました。そして、抑止(予防)・品質保証(再現性)・社会的信頼(透明性)の3つの観点で、三位一体のメカニズムとしてOSを推進することが、研究公正の推進に繋がっていくと結論付けられました。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは水本哲弥氏(日本学術振興会 上席参与)がモデレーターとなり、講演された講師が参加してディスカッションや参加者からの質疑回答が行われ活発な議論がなされました。
当日のシンポジウム開催情報・講義資料はこちら(JSPSのサイト)
前回のシンポジウム 文部科学省 研究公正推進事業 研究公正シンポジウム「新たな研究不正行為への対応と科学の公正性の確保に向けて」報告
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