

○戦略目標「神経細胞ネットワークの形成・動作の制御機構の解明」の下の研究領域
脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出
研究総括:小澤 瀞司(群馬大学 理事/副学長)
研究領域の概要
本研究領域は、脳神経回路の発生・発達・再生の分子・細胞メカニズムを解明し、さらに個々の脳領域で多様な構成要素により
組み立てられた神経回路がどのように動作してそれぞれに特有な機能を発現するのか、それらの局所神経回路の活動の統合により、
脳が極めて全体性の高いシステムをどのようにして実現するのかを追求します。また同時に、これらの研究を基盤として、
脳神経回路の形成過程と動作を制御する技術の創出を目指します。
具体的には、神経回路の構成素子である神経細胞及び神経回路の形成・動作に大きな影響を与えるグリア細胞の
発生・分化・再生・標的認識・移動に関する分子機構の解明、特異的発現分子や蛍光タンパク質を用いた特定神経細胞の可視化/多数の
神経細胞の活動の同時記録/ケージド化合物による局所刺激法等の新技術の結集による神経回路の動作様式の解明、モデル動物を用いた
ネットワークレベル/システムレベルの研究と分子・細胞レベルでのシナプス伝達の調節機構との研究の組み合わせにより脳の高次機能と
シナプスの機能変化との関連を明確にする研究、臨界期や障害後の神経回路再編成のメカニズムの解明とそれらの制御法に関する研究、
などが含まれます。
研究総括の募集・選考・研究領域運営にあたっての方針
脳は、多数の神経細胞からなる情報処理装置ですが、個々の細胞が単独に働くのではなく、神経細胞がシナプスを介して連結し、
脳の様々な領野・領域に局所的ネットワーク(神経回路)を形成し、局所的な情報処理を行い、さらにそれらの神経回路の大規模な
集合体として、脳が高次の情報処理を行うという特徴があります。従って、脳の機能と病態の理解には、分子−細胞−神経回路−システム
という複数の階層を包含した研究に基づく統合的理解が必要になります。この階層の中で要の位置にあるのが神経回路であり、神経回路の
研究を中心に据えることにより、階層を下向してその発生・分化・再生の分子機構を解明すること、また上向してシステムレベルでの脳機能の
理解に至ることが可能になります。
近年、分子生物学、細胞生物学、情報科学等の進歩により、脳科学研究は飛躍的に発展し、「脳と社会・教育」、「脳と心身の健康」、
「脳と情報・産業」の3領域において、社会からの脳科学研究に対する期待と関心が急速に高まっています。しかし、神経回路の形成原理の
分子的解明、神経回路の情報処理機構及び神経回路機能の集積システムとしての脳機能の解明は、未だ不十分であり、
これらの研究を深めることにより、上記の3分野の応用的研究の基盤を一段と強固にすることが現時点における重要な課題です。
以上の観点に立ち、本領域では、神経回路の形成・動作原理の解明を目指す分子生物学、細胞生物学、形態学、生理学、生化学、薬理学、
行動科学分野の研究、特にこれらの学問分野の研究手法を組み合わせて、神経回路研究を中心に分子からシステムまでの脳機能の理解を
志向する提案を期待いたします。また、基礎的色彩の強い研究領域であるとはいえ、戦略的創造研究として、脳神経回路の発生・発達・再生・動作を
制御する革新的な技術を創出し、将来的には脳神経疾患の予防技術・治療技術・障害回復技術・欠損機能の補助技術の開発への
ポテンシャルをもつ提案を歓迎いたします。