戦略的創造研究推進事業

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募集要項

IV.戦略目標

「細胞リプログラミングに立脚した幹細胞作製・制御による革新的医療基盤技術の創出」
(平成20年度設定)

1.戦略目標名

 細胞リプログラミングに立脚した幹細胞作製・制御による革新的医療基盤技術の創出

2.本戦略目標の具体的な内容

 分化した細胞を再び多能性幹細胞に戻すリプログラミングは、これまでにない革新的な医療を可能とする技術として注目されている。2006年、続いて2007年に我が国の研究者が本技術に大きなブレークスルーをもたらしたことをうけ、本戦略目標では、細胞のリプログラム過程における分子生物学的機構に基づき、リプログラミング技術の高度化・簡便化を目指す。また、本技術を用いて、患者あるいは健常人由来の体細胞などから幹細胞を作製し、疾患の発症機構の解明を行い、これに基づく革新的治療戦略、薬剤副作用の検証技術などの基盤技術を確立する。

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3.政策上の位置付け(科学技術基本計画、戦略重点科学技術等との関係)

 ライフサイエンス分野の戦略重点科学技術「生命プログラム再現科学技術」に該当し、具体的には、研究開発内容として挙げられている、"生体の高次調節機構のシステムを理解する研究"にあたる。

4.当該研究分野における研究振興方策の中での本研究事業の位置づけ、他の関連施策との切り分け、政策効果の違い

 本戦略目標は、体細胞リプログラミング技術の高度化、および、これを応用した先天性疾患の発症機構の解明や、薬剤副作用の検証技術などを目指す研究に重点をおくものである。一方、「再生医療の実現化プロジェクト」(文部科学省 平成15年〜)は、幹細胞などを用いて細胞治療、組織移植の確立を目標とする取り組みであり、本目標とは研究対象が異なる。また、科学研究費補助金(特別推進研究「細胞核初期化の分子基盤」)は、4因子によるリプログラミングの分子的機構の解明に重点をおく取り組みであり、本目標とは研究段階が異なる。

5.この目標の下、将来実現しうる成果等のイメージ、他の戦略重点科学技術等に比して優先して実施しなければならない理由、緊急性、専門家や産業界のニーズ

 本目標は細胞リプログラミングの高度化・簡便化を行い、患者など由来の体細胞からモデル細胞を構築し、疾患発症機構の解明や、新規治療戦略、薬剤副作用の検証法などの基盤技術を構築する。具体的な成果のイメージを以下に挙げる。
【短期的成果目標例】
・因子導入の精密制御により細胞負荷を低減化した、あるいは化合物による簡便な、リプログラミング技術の確立
・患者あるいは健常人由来の体細胞から作製したモデル細胞を用いた疾患発症機構の解明
【中期的成果目標例】
・上記の疾患モデル細胞を用いた創薬候補物質の同定や遺伝子治療の基盤技術の確立
・健常人由来の多能性幹細胞を用いた不整脈などの薬剤副作用の検出方法の創出

 2006年時点で、世界中で132の幹細胞研究所が設立されている。現在、これらの機関の研究者が我が国の成果に追随して次々とヒトiPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell)を樹立しており、リプログラミング研究は熾烈な競争となっている。本目標の着実な実施によって、世界をリードする我が国発のリプログラミング技術の優位性を保つ必要がある。

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6.本研究事業実施期間中に達成を目指す研究対象の科学的裏付け

 従来から、臨床研究に先立つ基礎研究段階においても、ヒト疾患モデル細胞の重要性が認識されている。幹細胞生物学の進展を受けて、患者自身の疾患モデル細胞を作製するリプログラミング技術が欧米で研究開発されている。しかし、この研究には、ヒトES細胞(Embryonic Stem cells)を材料として用いる倫理的課題、また核移植あるいは細胞融合による作製効率の低さなどの課題があった。
 2006年、我が国の研究者が、4因子導入によりマウス線維芽細胞からのES細胞に匹敵する多能性幹細胞、iPS細胞の樹立に成功し、2007年にはヒトiPS細胞も樹立した。これらの成果は倫理的課題を大きく解消し、リプログラミング研究に大きなブレークスルーをもたらした。また、大学等を中心に展開されている我が国の幹細胞研究は、科学研究費補助金および「再生医療の実現化プロジェクト」等によって、研究人材、設備、論文業績など国際的に高い研究レベルとなっている。
 本目標においては、このような我が国の幹細胞研究のポテンシャルを活かしつつ、細胞リプログラミングに立脚した基盤的研究の推進によって、高齢化社会において求められる根治療法や予防医療の進展を促進する。また、幹細胞研究自体も、幹細胞という視座に立った、発生・再生現象から疾患発症や老化に伴う組織機能低下機構の解明までの総合研究分野として更なる発展が期待される。

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7.この目標の下での研究実施にあたり、特に研究開発目標を達成するための留意点(研究体制等)

 本戦略目標の達成には、疾患に対する豊富な臨床知見とフローサイトメトリーなどを活用できる十分な細胞解析技術を有するチーム型研究による推進が望ましい。また、分子生物学的機構に基づくリプログラミング技術の開発には、皮膚細胞や組織幹細胞から、多能性幹細胞を経由せず、直接、他組織の幹細胞や前駆細胞を誘導するなど、斬新なアイデアをもつ若手研究者を中心とした個人研究も効果的推進に必要である。
 なお、世界的に幹細胞研究は日進月歩で進められており、知的財産権取得は激しい競争となっている。日本は米国に次いで第2位の幹細胞関連特許を有するも、取得数が近年低下傾向にあるとされている。本戦略目標の下、推進される研究においては、米国などの幹細胞関連の特許出願状況に照らして、特許取得ならびにその質についても十分に留意するべきである。また、この目標の達成には、ヒト細胞を取り扱うことから、研究の内容に応じた生命倫理への配慮をすることが必要である。

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(参考)本研究事業実施期間中に達成を目指す政策的な目標

 最新の知見では、ヒト体細胞に対して、Oct3/4、Sox2、Klf4の3因子をレトロウイルスベクターにより導入し、リプログラムを生じさせ、多能性幹細胞を得ている。
 本戦略目標では、まず、リプログラム機構のゲノミクス、染色体構造や、特にエピジェネティクス解析を通じて、遺伝子の標的導入、あるいは単一細胞あたりの導入遺伝子数制御などの研究を行う。そして、リプログラミングを誘導する化合物等のハイスループットスクリーニングも行う。これにより、因子導入の精密制御・手法簡便化を達成する。また、高度化されたリプログラミング技術を駆使し、先天性疾患の患者の体細胞から、多能性幹細胞などを得て、疾患モデル細胞に分化させて疾患発症機構を解明する。こうして得られた知見を元に、疾患を制御する創薬候補物質の同定や、健常人由来の多能性幹細胞などを用いた薬剤副作用の検出方法の基盤技術を開発する。

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