戦略的創造研究推進事業

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募集要項

IV.戦略目標

「花粉症をはじめとするアレルギー性疾患・自己免疫疾患等を克服する免疫制御療法の開発」
(平成20年度設定)

1.戦略目標名

 花粉症をはじめとするアレルギー性疾患・自己免疫疾患等を克服する免疫制御療法の開発

2.本戦略目標の具体的な内容

 本戦略目標は、国民を悩ます花粉症等のアレルギー性疾患やリウマチ等の自己免疫疾患をはじめとする免疫システムの過剰応答に由来する疾患に対応した革新的医療技術を構築するものである。技術の根幹は、免疫応答の全体バランスを正常かつ安定に保持させる機能をもつことが解明された制御性T細胞などの免疫制御細胞の量と働きを、体内または体外で自由に操作することにある。上記疾病以外にも、多くの難治性疾患(臓器移植に伴う移植片拒絶反応など)を予防、診断、治療する技術基盤となり、国民医療費の軽減にも貢献できる。

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3.政策上の位置付け

 戦略重点科学技術の中の「生命プログラム再現科学技術」における研究開発課題のうち、免疫機構などの生体の高次調節機構のシステムを理解する研究に位置づけられる。その成果は、「臨床研究・臨床への橋渡し研究」へと引き継がれ、同重点科学技術の研究開発課題である、免疫・アレルギー疾患に対応した疾患診断法、創薬等に繋げることを狙いとする。

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4.当該研究分野における研究振興方策の中での本研究事業の位置づけ、他の関連施策との切り分け、政策効果の違い

 関連する施策として、免疫・アレルギー総合研究の推進(理研)、免疫・アレルギー疾患予防・治療研究(厚労省)がある。理研では、免疫システムを構成する個々の細胞・応答過程の解明とその異常に起因する疾患の原因解明を行っている。これに対して、本戦略目標は、免疫反応全体の制御に着目し、統合的に免疫制御細胞の働きを利用した医療技術開発を目的としたものである。このような医療技術開発に関しては、全国各地の大学で臨床に近い研究者が取り組んでおり、臨床研究への橋渡しまでを目指している本戦略目標では、研究の効率性の観点から理研のみならず大学の既存の研究環境(附属病院等)を活用した研究開発体制を考えている。
 さらに免疫に関係する既存の様々な治療法との組み合わせにより、効果の高い免疫療法の確立が期待され、本戦略目標は理研を含むこれまでの免疫研究の成果と相互補完的に位置づけられると考えられる。
 なお、厚労省では免疫・アレルギー疾患の予防、診断、治療その他、疾患対策の推進に資する研究を主に臨床の観点から推進しており、本目標の研究段階とは異なっている。

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5.この目標の下、将来実現しうる成果等のイメージ、他の戦略重点科学技術等に比して優先して実施しなければならない理由、緊急性、専門家や産業界のニーズ

 花粉症等のアレルギー性疾患や難病の多くが含まれている自己免疫疾患等は、著しくQOL(quality of life 生活の質)を低下させ、国民を悩ます疾患である。しかし、病態が致死性ではなかったり、根治ではないものの対症療法が存在するため、根治的治療につながる対策が後回しになりがちであった。本戦略目標により免疫応答の強弱を自由に制御する医療技術が確立すればワクチンで花粉症が根治する等革新的な治療法や予防法の確立が期待され、根治につながると考えられる疾患は多い。
(1)花粉症では、少なくとも1700万人、日本人の16%(2005年版鼻アレルギー診療ガイドライン)が罹患し年々増加傾向にある。また、花粉症のみならず食物アレルギーなども含めたアレルギー性疾患は、国民3人に1人(平成4〜6年アレルギー疾患の疫学的調査)が罹患している。アレルギー性疾患は幼児から成人まで罹患し、生命の危険は少ないとされるが、原因物質を回避しなくてはならない(アレルギー給食の選択等)ため日常生活に大きな負担があり、有効な治療法が少ないためその開発が望まれている。
(2)人口の約5%が、発症から長期に渡り自己免疫疾患(自己反応性リンパ球による自己組織破壊による関節リウマチ、多発性硬化症、自己免疫性胃炎、I型糖尿病など)に罹患している。これらは免疫抑制剤等の対症療法に限られており、易感染等の副作用の問題や高額な薬剤費による医療経済的国民負担が大きい。
(3)臓器移植に伴う移植片への拒絶反応を免疫制御細胞により抑制する次世代免疫制御療法がドイツ、アメリカで臨床試験に入ろうとしている。日本でも生体肝移植で免疫制御細胞の働きの重要性が示されており、免疫制御による革新的医療技術開発が一部の領域では現実化しようとしている。

 アレルギー、リウマチなどは21世紀に克服すべき重要疾患として戦略重点科学技術の対象となっており、主として疾患原因からの予防、治療法等の研究開発が進められている。しかし、本戦略目標は患者自身の免疫制御機能を活用する技術開発であり、この確立は相互補完的な役割を果たす。従って、緊急性が高く、かつ社会のニーズは大きい。

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6.本研究事業実施期間中に達成を目指す研究対象の科学的裏付け

 免疫制御細胞に関しては、平成19年3月、免疫制御細胞の一つである制御性T細胞で特異的に発現しているタンパク質、Foxp3がT細胞群の機能発現に不可欠な転写因子に直接結合して抑制することが証明された(Nature,2007)。これは、細胞レベルの制御のみならず、分子制御(阻害や促進)によって制御性T細胞の機能制御を的確に行う薬剤開発への確実な道が開かれたことを意味する。これは我が国の研究者の業績である。
 また、医療応用面では、米国において、皮膚がん患者の腫瘍内に浸潤したリンパ球を試験管内増殖させ、外科手術後に患者に戻したところ、高い確率でがんの退縮がみられたとの報告がある。
 日本においても、昨年、臓器移植における免疫抑制剤による副作用をおさえるため、免疫抑制剤を使用しなくても免疫寛容(移植臓器特異的に免疫が制御され拒絶が起こらない状態)を誘導することを目指した制御性T細胞の働きを利用した免疫療法を大動物で有効性と安全性を確認したところである。
 免疫制御細胞を含め一般に免疫分野は、理論体系が明晰、具体的で、競争的研究資金が研究を推進する効果が高い。科学研究費特定研究「免疫系ホメオスタシスの維持と破綻(平成13年〜17年。領域代表:坂口志文京都大学教授)」、JSTの「免疫難病・感染症等の先進医療技術(平成13年〜20年。研究総括:岸本忠三大阪大学教授)」では上述の成果を含む多数の優れた研究成果があった(終了またはほぼ終了)。振興調整費「免疫システムの構築・作動の分子機構とその制御技術の開発(平成12年〜17年。代表者:高津聖志東京大学医科学研究所教授)」で関連若手研究者の育成等も実っている。これらの研究成果を踏まえ、我が国発の「免疫制御医療の展開」という新しいイノベーションに至る条件整備が整った状況にあるといえる。
 一方で、免疫システムを構成する個々の細胞・応答過程の機構解明とその異常に起因する疾患の原因解明に関する研究成果に比べ、臨床研究につなげるための医療技術開発の研究成果は少なく、国民への成果還元を強化する意味でも今後重点的に進める必要がある。

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7.この目標の下での研究実施にあたり、特に研究開発目標を達成するための留意点

 本戦略目標の達成の中核は大学にあるが、その成果をイノベーションに繋げるためには、理研等が実施している関連分野の研究や臨床研究とのコミュニケーションを密にし、成果が得られれば研究開発期間内であっても臨床研究や企業化研究など次のフェーズに迅速に橋渡しすることが重要である。特に、本戦略目標では、実際の診療に携わる臨床に近い研究者も参加すると考えられ、基礎研究にとどまらない展開が期待される。
 さらに、優れた成果が得られた場合、その一部を切り出してでもその研究開発と基礎的研究とのコミュニケーション・ループを形成することが必要である。


(参考)本研究事業実施期間中に達成を目指す政策的な目標

 免疫制御細胞の量と働きを体内または体外で自由に操作する方法を確立し、免疫反応を強化または弱化させ花粉症等のアレルギー性疾患やリウマチ等の自己免疫疾患の治療法を開発するための例として以下のような課題につながる基盤技術が挙げられる。
(1)免疫制御細胞自体の増殖あるいは減少、その抑制能の強化、減弱化を図る薬剤開発。
(2)粘膜等の免疫応答の盛んな組織に着目した免疫制御細胞を利用した治療法の開発。
(3)自然免疫と獲得免疫の共同制御などによる従来にない新しいワクチン開発。

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