水の循環系モデリングと利用システム

 

第4回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

鈴木雅一研究チーム


P041 インドシナ半島の雨量計展開とその結果
P042 (その1)タイとマレーシアの熱帯林における水・炭素収支
(その2)コグマ、ランビルの水文観測結果
P043 (その1)マレーシア・サラワク州ランビル国立公園の水質調査結果
(その2)サラワク熱帯雨林の土壌呼吸の空間変動
P044 チーク人工林の熱収支・炭素収支の季節変化
P045 (その1)タイ北部のチーク人工林における水収支と炭素同化期間
      窶粘PACモデルを用いた解析窶・br /> (その2)チーク人工林の間伐実験計画と間伐前の調査結果


 
P041 インドシナ半島の雨量計展開とその結果
里村雄彦(京都大)・横井覚(東京大)・安形康(東京大)・木口雅司(東京大)、
松本淳(首都大学東京)

 北緯18度線に沿ってインドシナ半島を横断するように高時間分解能雨量観測網を展開し、降水日変化の季節・地域特性を明らかにすることが本研究の目的である。2005年度中に雨量観測網はほぼ完成した。昨年度から本年度にかけて2006年雨季のデータを順次回収し、降水日変化地域特性の解析を行った。
 西海岸に最も近いミャンマーのGwa観測点では、日変化の振幅が小さく、降水量は未明に極大をとる。そこから100km、200km内陸の Tharrawaddy、Shwedyin観測点では、内陸ほど振幅が大きくなり、極大をとる時刻も午前中から午後になる。さらに、半島中部では、降水のピーク時刻は午後から夜半となり、南北に走る山脈から東に遠ざかるほどピーク時刻が遅くなる様子がタイ・ラオスの各観測点のデータから確認された。これらの結果と、衛星データ、地上レーダデータ、数値モデルを用いた既往の研究で指摘されている特性との比較も行った。
 ベトナムでは降水日変化特性が月毎に大きく異なることが、2004-2006年のHiep Duc観測点のデータから明らかになった。南西モンスーン後期の9月には午後遅くに降水量の極大をとるが、北東モンスーン期に入った10・11月には夜半と午後早くに極大が見られるようになる。また、今後、日変化特性の年々変動に着目した解析も行っていく予定である。
 一方、データの品質チェックのために必須となる各国現業機関による観測データの入手も同時に進めている。雨量観測網の観測データを最大限に活かすため、観測生データ、およびその観測生データから作成した10分値データ、観測に関する多岐にわたる情報をデータベース化した。研究チーム内での観測点情報の共有化は研究推進において効率化や精度確保に貢献するとともに、インドシナ半島の領域・地域横断的な研究の推進に寄与することが期待できる。


 
P042 (その1)タイとマレーシアの熱帯林における水・炭素収支
鈴木雅一(東京大)

 タイの熱帯季節林(丘陵性常緑林)とマレーシア・サラワク州の熱帯雨林における様々な現地観測に基づいて推定した年間の水・炭素収支を示す。水収支については、降水量、蒸発散量、流出量について、炭素収支についてはGPP、NEE、土壌呼吸量などの各項目である。また、年平均値、年々変動について、世界各地における既往の熱帯林における値と比較する。

  (その2)コグマ、ランビルの水文観測結果
白木克繁(農工大)・若原妙子(農工大)

(1)タイ北部コグマD流域における地形計測と水文観測結果
 タイ北部コグマD流域(8.79ha)において、微地形測量調査、表層土層厚分布調査、流出量調査を行った。簡易貫入試験による土層厚分布調査より、この流域の平均土層厚は4.5mで、比較的厚い土層があることが分かった。流出量の連続観測から、安定した基底流出の存在が確認できた。乾期ではほとんど降雨がないにもかかわらず、流量観測地点付近の流域下部では一年を通して飽和帯が存在し、地下水位が常時観測されている。これは厚い土層を通じて常時水が飽和帯に供給されるためだと考えられる。また、大降雨時において流域内の飽和帯に降った降雨が直接流出成分となるものが、直接流出成分全体の約57%を占めることが分かった。
(2)マレーシアサラワク州ランビル国立公園における地形計測と水文観測結果
 マレーシアボルネオ島サラワク州ランビル国立公園内で水文試験流域を設定し、微地形測量調査、表層土層厚分布調査、流出量調査を行った。流域は二つ設定し、北側のCL流域(26.5ha)、南側のTL流域(26.2ha)である。CL流域で行った簡易貫入試験から平均土層厚は2.3mであることが分かり、タイのコグマ流域と比較すると浅い土層厚である。しかし最大土層厚は5.5mで、渓流沿いでは基岩が露出している個所もあった。CL,TLともに測器の不調等により流出データに欠測が生じているが、測定期間においてCL流域での流出率(総降雨量に対する総流出量の比率)は10から15%、TL流域では 37%であった。CL流域とTL流域の流出特性の違いとしては、CL流域では無降雨期間が続くと流出量が0となることがあるのに対し、TL流域では常時渓流水が存在した。また、CL流域では流出の2次ピークが存在することが観測された。

 
P043 (その1)マレーシア・サラワク州ランビル国立公園の水質調査結果
五名美江(東京大)・蔵治光一郎(東京大)・鈴木雅一(東京大)・
Lucy Chong(Sarawak Forestry Corporation)

 本研究では、ボルネオ島サラワク州ランビル国立公園の低地熱帯雨林の2流域を対象として、降雨・林内雨・渓流水に含まれる各溶存物質濃度を明らかにし、降雨の水質形成要因、渓流水の平水時、出水時の濃度変動から渓流水の水質形成要因についての考察を試みた。
 降雨のCa2+濃度は顕著に高く、Na+濃度とCl-濃度は1年を通して高い相関(r=0.990 n=85)があり、濃度比が海塩組成比(Na+:Cl-=1:1.16)に近いことがわかった。Ca2+が顕著に高いのは、周辺地域の森林が農地へ転換された影響で、大気中に浮遊したエアロゾル等に吸着されたCa2+を降雨が取り込んでいる可能性が高いと推察される。また、Na+とCl-の濃度比が海塩組成比に近いのは、ランビル国立公園は海岸線からの距離が約10kmと近く、Na+とCl-のほとんどが海塩起源であるためと推察された。
 渓流水の水質形成には降雨の水質に加えて、植生・水文・土壌・地質等の様々な要因が関係しているが、ランビル国立公園では平水時に特にSO42-とMg2+が高濃度で流出しており、出水時にはSO42-とMg2+濃度の低下が顕著であることがわかった。これは、第三紀堆積岩に含まれるパイライト(FeS2)から化学的酸化と微生物による酸化を経てSO42-が生成し、土壌中の塩基性物質、特にMg2+と共に平水時に序々に渓流水中に流出しているためと推察された。

  (その2)サラワク熱帯雨林の土壌呼吸の空間変動
大橋瑞江(兵庫県立大)

 熱帯林における炭素収支は、温暖化などの気候変動と密接な関係がある。特に土壌からのCO2放出(土壌呼吸)は生態系全体の炭素放出量の50-95%を占め、重要である。土壌呼吸は、根や微生物の呼吸などの生物活動に起因し、温度や水分など多様な要因によって変動する。そこでマレーシア・サラワク州の熱帯雨林で、土壌呼吸の変動特性の解明を試みた。土壌呼吸の全平均値は5.9μmol m-2 s-1で、1-30μmol m-2 s-1の範囲の大きな変動が認められた。34測定日中19測定日で、土壌呼吸が極端に高い測定点(空間的ホットスポット)が1-4ヶ所出現した。25測定点中17 測定点で、土壌呼吸が一時的に急増する現象(時間的ホットスポット)が認められた。時間的ホットスポットの場合、土壌呼吸は最大で通常の6倍に達した。ホットスポットを除いた場合の平均値は5.4μmol m-2 s-1に低下し、ホットスポットが土壌呼吸全体に与えるインパクトは8.4%と見積もられ、生態系全体の炭素収支にも影響する可能性があると考えられた。

 
P044 チーク人工林の熱収支・炭素収支の季節変化
吉藤奈津子(JST)・田中延亮(東京大)・
田中克典(地球環境フロンティア研究センター)・
Chatchai Tantasirin(Kasetsart大/タイ)・鈴木雅一(東京大)

 タイ北部の落葉性のチーク人工林において、2005年11月より乱流変動法による顕熱・潜熱・炭素フラックスの連続計測を開始し、これまでに1年以上のデータを得ることができた。顕熱・潜熱・炭素フラックスの時系列変化をフェノロジーや樹液流のデータとともに示し、本試験地における熱収支・炭素収支の季節変化の特徴を示す。

 
P045 (その1)タイ北部のチーク人工林における水収支と炭素同化期間
      窶粘PACモデルを用いた解析窶・/td>
田中克典(地球環境フロンティア研究センター)・
吉藤奈津子(JST)・田中延亮(東京大)・
Chatchai Tantasirin(Kasetsart大/タイ)・鈴木雅一(東京大)

  SPACマルチレイヤーモデルをタイ北部の落葉性のチーク人工林に適用し、土壌水分が樹冠での炭素同化に及ぼす影響を明らかにするために、LAIを一定(落葉しない)とした場合とLAIを季節変化させた(落葉する)場合の2通りの条件下で、炭素同化量の数値シミュレーションを行った。その結果、本研究で用いたモデルで展葉開始のタイミングをおおむね予測可能であり、土壌水分がそのトリガーとなっていると思われること、また、乾季初めの炭素同化量の低下は土壌水分の低下によってコントロールされており、落葉が完了するよりも早く炭素同化量がプラスでなくなること、が分かった。

  (その2)チーク人工林の間伐実験計画と間伐前の調査結果
田中延亮(東京大)・吉藤奈津子(JST)・
Chatchai Tantasirin(Kasetsart大/タイ)・鈴木雅一(東京大)

 タイ北部のチーク人工林において、森林状態の人為操作(人工林経営の一環としておこなわれる間伐)が同森林の水収支や炭素循環に与える影響を調べることを目的として、間伐実験の準備を進めてきた。同じ林齢のチーク人工林に4つの調査区を設置し、今後、各調査区で別々の強度の間伐操作を行う予定となっている。間伐前の各調査区間の差異を明らかにするために、これまでに、4つの調査区内の全ての樹木の基礎情報(位置、樹高、胸高直径)の収集が完了し、また、現在、4つの調査区間の土壌水分・地温・林内日射量などの熱や水環境に関する比較調査、樹木の肥大生長・リターフォール量・土壌呼吸量といった炭素動態の比較調査を進めている。




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