水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

寶馨研究チーム

【研究の概要】

寶  馨(京都大学防災研究所)

  21世紀における世界的な懸念の一つは、水に関する危機的状況の発生です。気候変動や異常気象、社会の変動が甚大な水災害の危機や水利用に関する紛争をもたらす可能性があります。本研究では、こうした状況を回避するために、従来、個別に開発されてきた水循環解析モデルの共通化と精度向上を目指します。また持続可能な水政策の立案・決定に資するような成果を導き出すことを目的として参りました。
 特に、急激な人口増と社会の変動が予測されるアジア域を対象に、我が国との関係を水循環の観点から考究します。すなわち、(1)我が国およびアジア諸国の社会変動が河川流域の水循環、国際的な水資源循環・収支に及ぼす影響を予測するモデルを構築するとともに、(2)アジアの淡水資源の利用可能性とリスクを科学的定量的に評価・予測し、(3)我が国の水(食糧、産業)政策、国際貢献戦略の持続可能な将来像を明らかにしようと試みてきました。
 以下、本研究チームのポスターの概要を示します。


P021 淀川流域、中国・淮河流域、インドネシア・ブランタス川流域における
水循環モデルの構築
P022 タイ・チャオプラヤ川流域、インドシナ半島メコン川流域における
水循環モデルの構築
P023 水資源ダイナミクス
P024 洪水リスクマネジメント、国際的水循環・水収支と自然環境および
社会経済との連関
P025 国際的水循環・水収支の自然・社会・経済シナリオ分析と貢献戦略


 
P021 淀川流域、中国・淮河流域、インドネシア・ブランタス川流域に
おける水循環モデルの構築
寶  馨・立川康人・中川 一・田中賢治・佐山敬洋・江  申(京都大学防災研究所)、
大石 哲(山梨大学工学部)、谷  誠(京都大学大学院農学研究科)

 淀川流域全体を対象とした広域分布型水循環モデルを構築し、多目的ダムなど人工構造物をモデルに組み込むことにより、流域水循環への人為的な影響評価、社会・環境変動に伴う洪水・渇水のリスク評価を可能とした。このモデルは、温暖化シナリオのもとでの淀川流域における洪水リスク評価や、中小河川を含めた流域一体的な実時間洪水予測システムにも応用範囲を広げている。また、斜面の雨水流動を2次元飽和不飽和浸透流で記述する場合に、地形・土壌・マクロポアーなどの選択的経路の基本的効果をパラメータ化して流出モデルを改良し、土地利用変化の水循環に及ぼす影響をリアリスティックに予測することを実現した。淮河流域では、河川流況に対する土壌特性や地形特性の影響を、土地利用変遷をも配慮して予測するための手法を開発した。多様な農耕地を表現するために、衛星解析より作成した土地利用図を用いた4ヶ月間の解析期間を1年間に延長して計算を行い、利水・治水の両面から行われている現地の流域水資源管理に関する解析を行った。ブランタス川流域では、豪雨の雨滴、雨量、河川流量、濁度などの計測・観測を通して、降雨・土砂流出の特徴を明らかにするとともに、植生指数と斜面の粗度係数とを関連付けた抵抗則を用いた分布型豪雨・洪水・土砂流出モデルを対象流域に適用し、観測値によってモデルの妥当性を確認した。

 
P022 タイ・チャオプラヤ川流域、インドシナ半島メコン川流域における
水循環モデルの構築
吉谷純一((独)土木研究所)、手計太一(福岡大学)、
ヘーラト・スリカンタ(国連大学)

 タイ王国の中央部に位置するChao Phraya川流域を対象として、社会変化と水循環の相互作用の評価を試みた。Chao Phraya川流域は同国最大の流域面積を持ち、GDPの約60%を生産し、人口の約40%が集中地域であるため、同国の社会・経済に多大な影響を持っている。同流域内では1950年代から土地利用が大きく変遷し、水需要の拡大から大ダム貯水池が二つ建設、運用されている。このような大規模な人間活動が水循環へ及ぼす影響を定量的・定性的に評価し、さらに水循環が人間活動へ及ぼす影響も相互に評価した。このような「人間活動と水循環の相互作用」を実際の観測データや統計データから明らかにするとともに、本研究で構築した流域水循環モデルを利用した数値実験を用いて検証を加えた。最終的に、Chao Phraya川流域における社会変化と水循環の相互作用評価シートを構築し、社会変化と水循環の定性的な評価が可能になった。
 東南アジアの大河の一つであるメコン川を対象に、健全な水循環にとって重要な社会変動と自然要素の相互作用、結果として起こる影響の人間および生態系への影響を検討している。国連大学においてはCRESTのサポートを得て、国際河川管理における水科学の役割に関する国際シンポジウムを開催し、そのフォローアップとして地域の水問題研究に関する専門家のネットワークを構築した。リアルタイムの降雨予測システムを開発しウェブ上のデータベースで参照できるようにして、各地域の洪水予測などの便に供し、人間活動と水循環の相互作用の研究を推進している。

 
P023 水資源ダイナミクス
小尻利治・石川裕彦 (京都大学防災研究所)、堀智晴(京都大学地球環境学堂)

 水資源分布状況が社会の成長に与える影響を定量的に把握するため、水資源と社会の相互関係を軸にしたダイナミクスモデルを開発している。経済部門間の連関構造と需給関係の価格を通じた調整機構をモデルに反映するため、3つの産業部門と水部門との連関構造を応用一般均衡モデルで表現し、日本を対象として検討した。1995年を基準均衡年とし、輸入関税率を考慮して水部門の売上を計算した結果、関税の増加に伴って国内生産が増加し、水にかかる国内コストが増加する傾向が表現できた。
 アジアの大河川の源である青海チベット高原を対象に、衛星観測データから地表面水文フラックスを算出する手法を開発している。現地での地上観測との比較でも良好な量的対応が得られた。衛星観測データによる降水量推定と、本手法で算出される蒸発量を用いれば、河川あるいは地下水への流入量が面的に算出できるようになる。また、乾燥地帯における表流水・地下水を有機的に結合した広域流出モデルの開発に着手し、不飽和流モデルを簡便化したプロトタイプを提案した。3次元計算への予備検討として仮想傾斜地の広域断面二次元解析を行った結果、提案モデルは広域乾燥地の流出計算に適用可能と言える。

 
P024 洪水リスクマネジメント、国際的水循環・水収支と自然環境および
社会経済との連関
岡田憲夫・多々納裕一・畑山満則・竹内裕希子(京都大学防災研究所)、
中山幹康(東京大学)

 行政による公助だけではなく、地域コミュニティによる共助、個人や家族単位で責任を持つ自助も含めた複数の当事者が参加する形で洪水災害リスクの分担を図ることが、洪水マネジメントにおいて不可欠となってきている。このような観点から、本研究では、参加型洪水リスクマネジメント実現していくためのツールとして、洪水リスクコミュニケーションシステムの開発を行ってきた。その上で、地域住民を対象としたワークショップを通じて住民間のリスクコミュニケーションを支援し、コミュニティベースの洪水対策について検討を行う機会を設定した。その結果、本研究で構築したシステムが洪水リスクの認知に関する改善をもたらすとともに、実行可能な対策案を住民自らが獲得する一助と成ったことが実証された。
 自然環境および社会経済と、水循環・水収支を含む水資源との相互の連関とそのダイナミズムを、海外の事例から解析・解明している。アフガニスタンへの「バーチャル・ウォーター」への供与がアラル海流域関係国間の係争を防ぐ役割を果たしていること、中米サンファン川流域とシクスアオラ川流域では、市民参加のターゲット選択、情報チャンネル、市民参加プロセスを開始する時期などにおいて改善の余地があることなどを明らかにした。サグリン・ダム(インドネシア)に関する住民移転と生活再建に関しては、村落共同体への影響、情報欠如への不安、住民相互の不信、建設工事による雇用、代替農地の提供などの補償において、プロジェクト前後の相違が観察された。

 
P025 国際的水循環・水収支の自然・社会・経済シナリオ分析と貢献戦略
大平一典・金木誠・安田成夫・多田智和(国土技術政策総合研究所)、
萩原良巳・坂本麻衣子(京都大学防災研究所)

 西欧とは異質の自然条件と文化をもつアジアモンスーン地域諸国は、自然・社会条件が日本と類似している。日本は、河川流域管理に関して100年の経験を有しているが、現在の姿が開発途上国にすぐに適用できるとは限らない。各国の現状について文献調査及び現地調査を行い、治水、利水の歴史的背景、諸制度の変遷等について概括しつつ、各国の社会規範や実情と乖離した法制度を単に移植しても機能しないという認識のもとに、地域固有の法制度や組織、治水・利水技術、経済力等の実情を踏まえた各国の水問題解決方策について検討した。
 世界的に今後頻発することが予想される水を巡る争い(水資源コンフリクト)は単に量的な水不足によってのみ生じるものではない。社会的背景(政治経済力・貧困・ジェンダー)や地理的関係(上下流関係)がコンフリクトを激化させる原因となる。こうした水資源コンフリクトの構造を明確にし、将来的なマネジメントの可能性を分析するために、第3者機関の介入によるコンフリクトマネジメントのシステムを体系化し、分析の枠組みを構築した。そして、社会的安定性と数学的安定性についての考察を行い、これを踏まえた上で、構築した分析体系をガンジス川水利用に関するインドとバングラデシュのコンフリクトに適用し、コンフリクトマネジメントの実行可能性とその条件を検証した。




矢印このページの先頭へもどる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Copyright(C)Japan Science and Technology Agency.All Rights Reserved.