水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

恩田裕一研究チーム


P061 森林荒廃が洪水・河川環境に及ぼす影響の解明とモデル化
窶矧マ測ネットワークと2004〜2006年の観測結果窶・/a>
P062 流域の降雨流出応答と同位体・水質を用いた表面流寄与率の推定
P063 森林荒廃と流域の水流出プロセスのモデル化
P064 リモートセンシングによる森林情報の把握と森林維持管理指針
P065 表面流発生及び表面侵食の素過程の解明


 
P061 森林荒廃が洪水・河川環境に及ぼす影響の解明とモデル化
窶矧マ測ネットワークと2004〜2006年の観測結果窶・/td>
恩田裕一(筑波大院生環)・Roy C. Sidle(京大防災研)・
小杉賢一朗(京大院農)・北原曜(信大農)・寺嶋智巳(千葉大院理)・
平松晋也(信大農)・蔵治光一郎(東大演習林)・五味高志・水垣滋(JST)

 日本の国土の約40%は人工林であり,そのうち半数以上がスギ,ヒノキ林である。植栽後に間伐などの保育作業が十分に行われてこなかったヒノキ林では,林冠が閉塞し林床植生が少なくなり,土壌浸透能の低下によって表面流の発生や表土流亡が起こっていることが指摘されてきた。これまでは主に斜面の一部区間(プロット)で研究されてきたが,近年,流域を対象とした水資源管理,土地利用,河川生態系保全計画の必要性が指摘されていることから,斜面スケールから流域スケールでの人工林管理と水流出の関係を評価し,水流出予測を行う必要がある。そこで,高知県大正町,三重県大紀町,長野県伊那市,愛知県犬山市,東京都青梅市の山林に,斜面プロット(0.5×2m),山地源流域(0.1から10ha),大流域(10〜1000ha)に入れ子状の観測施設を設定し水流出を観測している。植栽年や保育作業履歴の異なるヒノキ林および各地域に特徴的な人工林(カラマツやスギ林)と広葉樹林に覆われる源流域において水流出と水質の比較対象を行なっている。各観測流域では,観測期間で2〜5の降雨イベントでヒノキ林と広葉樹を比較する流出データや水サンプルを蓄積することができた。特に,高知サイトでは,2005年9月4日から7日にかけて,台風14号により大規模な降雨イベント(総降雨量646mm,最大時間雨量 31mm),長野サイトでは,2006年7月の降雨災害時における,流出計測と水サンプル採取を行うことができた。各サイトで総降雨量や地質が異なるにもかかわらず,広葉樹と比べて,林床が裸地化しているヒノキ林で,より多くの表面流が発生し,かつ侵食土砂量も多いことが認められた。

 
P062 流域の降雨流出応答と同位体・水質を用いた表面流寄与率の推定
五味高志(JST)・浅野友子(東大演習林)・
張朝(筑波大院生環)・水垣滋(JST)・
福島武彦・恩田裕一(筑波大院生環)

 降雨に対する流出応答を流域毎に比較すると,総降雨量が比較的小さく集中的な降雨イベント(総降雨量<50mm)では,ヒノキ林の流出ピークが広葉樹林の流出ピークに対して大きくなり,かつ降雨に対する応答も早く,森林状態の異なる降雨流出過程の違いが影響していることと予想された。より大きな降雨イベントでは,岩盤からの流出などの寄与もあり,広葉樹流域とヒノキ林流域の流出波形に大きな違いは認められなかった。そこで,高知サイトにおいて 2005年9月5日から7日の台風14号時の降雨イベント(総降雨量646mm)で,「新しい水(今回の降雨によってもたらされた水)」と「古い水(降雨前から流域に貯留されていた水)」の2成分に分離した。広葉樹では,降雨量に対応して新しい水成分の変動が大きいものの,ヒノキ林とくらべて新しい水成分の寄与は少なくなっていた。とくに,流出ピークの近傍では,ヒノキ林流域で新しい水成分の寄与が大きかった。同様に,他のサイトでもヒノキ林での新しい水成分は,広葉樹林と比べて多くなっていた。流域の流出における表面流の流出の寄与を推定するために,同位体に加えて表面流トレーサを探索する必要がある。そこで,表面流出水の水質特性を,降水や地中水,河川水と比較した。地表面流下過程で,K+やPO4-P,Ca2+,Mg2+,DOCやTDP,Siなどが溶出していた。その中で,K+,DOCは地表面流で特異的に濃度が高いことから,K+,DOCは表面流を分離するトレーサとして有効であると考えられた。三重サイトの降雨イベントについて,この方法で推定した各流域における地表面流の寄与は大きく見積もって35%となっていた。現在,流域間比較を行うために,手法の確実性を検討している。

 
P063 森林荒廃と流域の水流出プロセスのモデル化
Roy C. Sidle(京大防災研)・小杉賢一朗(京大院農)・
近森秀高(岡山大院)・五味高志(JST)・
宮田秀介(京大院農)・恩田裕一(筑波大院生環)

 モデルの開発に当たり,斜面や流域スケールで観測されたプロセスを考慮し,モデリングにおける新たなパラメータの設定を行うことによって,フィールド観測とモデリングの相互連携の強化を重視した研究を進めている。対象とするスケールにより,小スケールの飽和・不飽和浸透モデル,小流域スケールでの分布型流出モデル,大流域を対象としたタンクモデルに分けられる。斜面スケールでは,現地の観測によって,ホートン型表面流の発生に土壌撥水性が密接に関与していることが明らかとなってきた。そこで,撥水性を考慮にいれた飽和不飽和浸透モデルを開発し,実際の現地実験による表面流量と比較したところ,表面流出量を再現することができた。小流域スケールでは,斜面大プロットの表面流量は斜面小プロットの表面流量より少ないことから,表面流の流下過程で空間的な浸透にばらつきがあり,必ずしもキネマティックウェーブ的な流下素過程ではないことがわかってきた。そこで,TOPOTUBEを開発し地形要素分割を行って,分布型流出モデルを適応することによって,表面流の流出過程の再現を行った。TOPOTUBEは,地表面の構造に沿った水や土砂の移動ベクトルの方向,尾根部や谷部の適切な表現に適しており,斜面で発生する表面流の流下方向や連続性を再現することができる。大流域の四万十川流域を対象とした,過去40年間の降雨・流量データ解析から,過去10年間の日流量の最大値が大きくなってきている傾向にあることがわかった。そこで,4段タンクモデルを,各10年間の降雨・流出データに対してそれぞれ進化戦略の手法を用いて最適同定したところ,日雨量と日流量を見る限り,近年の流量の増大傾向には,降雨流出機構の変化に加えて降雨パターンの変化なども影響していることが予想された。

 
P064 リモートセンシングによる森林情報の把握と森林維持管理指針
山本一清・竹中千里(名大院農)・伊藤俊(筑波大院環)・
恩田裕一(筑波大院生環)・水垣滋(JST)

 水・物質循環の観点から荒廃したヒノキ人工林を適正な状態に維持管理していくためには,人工林の広域的現状把握と対策必要箇所の抽出,そして維持管理指針が必要となる。リモートセンシングによる広域的かつ高精度な森林情報の把握と,浸透能を指標とした維持管理指針の策定を進めている。疎な林分での広域的樹高測定には航空機LiDARが有効であるが,うっ閉したヒノキ林分では地上までレーザーパルスが届かず,地表面モデル(DTM)の精度が低下する可能性がある。そこでDTMに拠らないTop Surface(樹冠頂部のみを通過するサーフェス)という新たな概念を提案した。それに基づく林分平均樹高は現地調査による実測値と有意な差が認められず,Top Surface がヒノキ林における樹高推定に有効であることが示唆された。林床被覆は雨滴衝撃を緩和し,土壌表面から土壌層への浸透を促す効果がある。この林床条件と土壌浸透能の関係を定量化するため,東京,信州,三重,高知各サイトにおいて振動ノズル式散水装置による原位置散水実験を行った。植生被覆が小さい林床の浸透能は39〜110mm/hと,林床植生のあるヒノキ林や広葉樹林とくらべて小さかった。浸透能は,下層植生およびリター乾重量の増加に伴い上昇する傾向が認められた。下層植生とリター量が1000g/m2以下で浸透能が低くなることがわかり,今後の森林管理における下層植生とリター量の指針を示すことできた。現在も,散水実験はすすめられており,より具体的な森林管理の指針を示すデータを提示していく予定である。

 
P065 表面流発生及び表面侵食の素過程の解明
水垣滋(JST)・南光一樹(東大院農)・恩田裕一・伊藤茜(筑波大院生環)
浅井宏紀(筑波大環)・二塚勇吾(岐連大院)・北原曜・平松晋也(信大農)

 均一な降雨の空間分布が想定される林外に対し,実際の林内では降雨が林内雨と樹幹流に再分配され,降雨量や雨滴エネルギーなどに空間的な不均一性が生じると考えられる。荒廃したヒノキ林を対象に,林内における表面流発生及び表面侵食の素過程を解明するため,人工降雨実験及び現地観測をすすめている。大型降雨実験施設(防災科学技術研究所)における植栽ヒノキ(樹高11m,3m)を用いた人工降雨実験では,樹冠下の降雨量に空間的・時間的なばらつきがあること,雨滴1粒あたりのエネルギーが裸地よりも大きく,浸透能が低いことがわかった。このことは,樹冠での雨滴生成による雨滴エネルギーの増大が浸透能を低下させるため,裸地よりも,手入れの悪いヒノキ林において表面流が発生しやすいことを意味する。樹幹流下量は,樹木サイズが大きくなるにつれ増加する傾向がみられたが,樹木ごとのばらつきが大きいことから,再分配される林内雨量に空間的なばらつくが生じることが示唆された。現地観測では,林内雨の雨滴エネルギーは1時間雨量との回帰係数が高く,斜面の平均雨滴侵食量は最大1時間雨量との回帰係数が最も高かったことから,雨滴衝撃による土砂生産への寄与が大きいことが分かった。また,緩傾斜ほど短時間(10〜30分)の降雨強度に強く関係する傾向が示された。以上の結果から,斜面での雨滴侵食は降雨特性と微地形によって空間的に不均一に生じることが示唆された。また,観測期間を通して見ると,表面流による土砂流出量は,雨滴侵食量が最大を示した時期に比べて,遅れて増大したことから,雨滴による土砂生産と表面流による土砂流出に時間差があることが認められた。表面流出土砂量に,樹幹流の有無による大きな違いは認められなかったことから,樹幹流による土壌侵食・運搬量に及ぼす影響は小さいものと考えられる。




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