水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

楠田哲也研究チーム


P011 農業・乾燥地の観測・モデル化
P012 都市の水循環・水質の観測・モデル化
P013 土砂輸送の観測・モデル化
P014 流出・水資源・モデル化
P015 全体を統合する流域水マネジメント

 
P011 農業・乾燥地の観測・モデル化
渡邉紹裕(総合地球環境学研究所)小林哲夫(九州大学)

 農業・乾燥地グループ研究は、灌漑を中心とする農業における水利用の改善と灌漑に起因する環境問題の解決をめざして、調査研究を進めてきた。内蒙古自治区の大規模灌漑地区である河套灌区を対象とした調査研究では、圃場から地区全域までの各レベルでの水収支の構造と塩分動態を調査分析し、問題の解決に向けて、圃場の1回の灌漑水量の減少と排水改良の継続が、節水と塩分管理に有効であることを示した。また、土地利用や作付け体系の変化など様々な管理の変化が、地下水流動に及ぼす影響を定量的に評価することの重要性を確認した。
 また、内蒙古自治区フフホト市托克托県に設置した実験トウモロコシ圃場において灌漑実験を行った(2003〜2005)。その成果のキーポイントは、(1)節水灌漑技術の開発、(2)塩類化防止型灌漑技術の開発、(3)圃場の水収支モデルの構築ごとに整理すると、それぞれ(1)動的圃場容水量の定義、秋灌漑の水利用効率の評価、(2)塩類化プロットの生成機構、効率的な除塩法、(3)2層BBHモデルとBBH-Bモデルの構築となる。


 
P012 都市の水循環・水質の観測・モデル化
楠田哲也(九州大学) 東  修(科学技術振興機構)

 黄河流域は、元来降水量が少ない地域であるが、農業・工業生産の増大、都市への人口流入、市民生活水準の向上等により水利用量が大幅に増加しており、これに伴い、流域の水資源不足と水環境汚染が深刻化している。この条件下で流域の経済成長を持続していく為には、水資源利用の効率化を図ることが不可欠である。そこで、黄河流域における水量水質統合モデルを開発し、セクター別水利用形態及び汚濁物質負荷過程を把握した上で、水流域の水循環システムと水質汚濁状況を解明した。また、支流渭河における現地水質観測を定期的・継続的に実施し、河川汚染状況の実態を把握した。次に、節水及び処理水の再利用等の水資源開発を念頭に置き、将来の有効な水資源配分手法を提示すべく、将来シナリオの設定を行った。気象シナリオは、確率統計的手法を用いた気象推測モデルにより行った。社会経済シナリオは、水供給制約を前提とした効果的な水資源配分シナリオを策定し、各シナリオの評価手法を開発した。最後に、複数の将来シナリオのもと水量水質計算を実施し、水資源配分効用の最大化を図るための黄河流域における水利用効率化計画を提案した。

 
P013 土砂輸送の観測・モデル化
橋本晴行(九州大学)

 本研究は、黄河中流支川を対象とし、現地河道における洪水流の抵抗と流砂量則の解明を基礎とした土砂輸送モデルの構築を図るとともに、任意の河道地点における土砂流出量の評価法を明らかにしたものである。
 まず、黄河中流支川の水理・水文資料を入手するとともに、高濃度洪水を実験室に再現した。その結果、材料として細砂を用いた高濃度洪水の水路実験や窟野河の現地河道においては、泥流型土石流モデルが流れの抵抗と流砂量を良好に説明することができた。一方、材料としてシルト、微細砂を用いた高濃度洪水の水路実験や、禿尾河、佳芦河、大理河に対しては、泥流型土石流モデルは適合せず、流れの抵抗則についてはニュートン流体モデルが適用され、流砂量については経験式を用いることが示された。
 さらに、観測雨量を用いて貯留関数法による水文観測点での流出解析を行い、パラメ-タ同定を行った。その結果、水文観測点での流出予測が可能となった。さらに、先に解明された抵抗則と流砂量式とを用いることで流砂量ハイドログラフの予測を可能とした。最後に、水文観測点での流量ハイドログラフを境界条件とした河床変動シミュレーションにより、観測点間の任意の河道地点における流量、流砂量ハイドログラフを予測することができた。

 
P014 流出・水資源・モデル化
竹内邦良・石平博(山梨大学)

 1)水文流出と、2)土砂生産・輸送の2つに関して黄河流域を対象としたモデルを開発し、シミュレーションを行った。
 水文流出モデルYHyMの開発には、まず、流出発生・流下サブモデルBTOPMCを黄河流域に適用できるように精緻化し、土壌タイプや土地被覆に応じたパラメータ設定を行った。次に、衛星観測データを活用した可能蒸発散量推定サブモデル、衛星観測データと統計的に大気外力データを推定する手法を熱収支法に応用した積雪・融雪サブモデルを開発し、YHyMに組み込んだ。
 YHyMによる長期シミュレーションからは、黄河流域の上流端と下流端ならびに流域の南側において降水に対する流出感度が高いことが示された。また、黄河上流の積雪面積はエルニーニョ年に多くラニーニャ年に少ないという関係が見出された。
 土砂生産・輸送に関しては、中国水利水電科学研究院泥沙研究所の一次元土砂輸送モデルを黄河中・下流流河道区間に適用し、流砂量及び土砂堆積量の推定を行った。推定結果と実測値との比較結果より、モデルが土砂輸送量を高い精度で推定可能であることが示された。
 この土砂生産・輸送モデルを用いた長期シミュレーションからはXiaolangdi貯水池の建設により黄河下流域の河床上昇が今後21年から28年くらいは防げることが示された。また、Xiaolangdi貯水池の持続的な貯水池の運用のためには毎年21kg/m3の土砂を排砂する必要があることが提言された。
 黄河流域という乾燥地と積雪地域を含む大河川流域を対象として水文流出モデルを開発したことにより、黄河流域のみならず他の河川流域に適用可能な流出素過程の理解が進んだ。特に、山岳地域など観測データが得られない場所においてや乾燥地流域における適切な水文流出シミュレーションが行える手法が開発されたことが本グループの最大の成果である。

 
P015 全体を統合する流域水マネジメント
井村秀文・白川博章(名古屋大学) 金子慎治(広島大学)

 黄河流域では、人口増加、灌漑農業の発達と工業化、都市化の進展によって水需要は増加する一方である。こうした条件下に置かれた流域の水資源管理のためには、流域を構成する各地域・各セクター(農業、工業、生活)の水資源需要の変化を把握しつつ流域全体の需給バランスをいかに達成するか、地域間・セクター間の公平性を考慮しつつ各地域・各セクターにどのように水を配分するのが物理的・経済的に効率的かといった問題を分析する必要がある。
 そこで、本研究では、黄河流域の県市を基礎単位として、上流からの取水・耗水・還元の水資源カスケードを明示的に扱いながら水資源需給の空間的構造を分析するための分析方法を開発し、黄河流域の水資源需給バランスを把握した。また、それに基づき将来の水資源需要を予測した。
 研究の結果、1997年から2000年までの水資源需給構造を再現したところ、降水量の減少と下流域での水消費量の増大が、断流現象の大規模化につながったことが明らかになった。また、経済成長にともなう食料需要の変化が流域の水消費に与える影響は、小麦について最も大きく、その大部分は省内の小麦需要に起因していることが分かった。




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