水の循環系モデリングと利用システム

 

第3回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

木本昌秀研究チーム


P006 気温が氷点付近の地域での降雪、積雪、融雪モデルの構築
P007 夏季東アジア域の年々変動と将来予測
P008 大気海洋結合GCMを用いた温暖化時の成層圏突然昇温
P009 海洋データ同化と気候予測可能性、気候データベースの作成
P010 水平解像度に依存した雲解像モデルの系統的誤差の原因に関する研究


 
P006 気温が氷点付近の地域での降雪、積雪、融雪モデルの構築
熊倉俊郎(長岡技術科学大学)

 気象数値モデルには雪の状態を模擬するモデルが含まれており、さらに、雪害防除などの目的で積雪状態を詳細に表現する数値モデルもある。これらは、積雪初期や融雪期を主とした相変化や熱収支、水収支の状態推移が激しい期間の実験で結果が大きくばらつくことが知られている。本研究では、氷点近傍で降雪、積雪、融雪がおき、世界的な豪雪地帯である北陸地方の気象観測データを用いて、1)精密な多層圧密モデルの構築、2)降水量計の風速による捕捉率補正の重要性、3)雨雪判別の重要性、4)融雪の実態解明、5)湿った雪の圧縮粘性係数の推定、について解析を行った。1)については熱、水収支をより現実に近い形で再現するモデルが構築でき、2)は従来から研究が行われている捕捉率補正が非常に重要な役割を果たすことを示した。3)については、正確な積雪層の算定には氷点近傍の雨雪の区別が重要であることを示した。4)は、北陸地方では多く研究されていなかった底面融雪量に着目し、全積雪層での水収支を明らかにした。それらを基に、積雪層内の液水の含水率を予測し、観測積雪深を境界条件として、5)に示した湿雪の圧縮粘性係数の算定を果たした。

 
P007 夏季東アジア域の年々変動と将来予測
荒井(野中)美紀・木本昌秀(東京大学気候システム研究センター)

 高解像度大気大循環モデルによる夏季東アジアの循環の年々変動再現性を検証した。北東シベリアと日本付近の間での大気中層気圧のシーソーで特徴付けられる観測された年々変動の主変動パターンを水平格子間隔約100km鉛直56層のモデルはよく表現していたが、水平格子約300kmのモデルでは十分でなかった。近年20年の観測された海面水温を与えたアンサンブル実験において、観測された主変動パターンの時系列が0.65の高相関で再現されたことは、境界条件としての海面水温の重要性を示している。しかし、同時に多数のアンサンブル実験結果は、いわゆる冷夏型と暑夏型のパターンの間で二者択一的な出現傾向を示しており、連続的な変化を示す境界条件に対し、システムが非線型な応答をすることを示唆している。このような非線型性の実態は、高緯度偏西風域での波動擾乱の砕波等に伴うものと推察され、したがって高解像度モデルの優位性が現れるものと考えられるが、その実証は今後の興味深い課題である。また、同モデルを用いて二酸化炭素倍増時を想定した実験も行ったが、現在の主変動パターンのうち、冷夏型の出現確率が増大するという形で気候変化が起こることが示唆された。

 
P008 大気海洋結合GCMを用いた温暖化時の成層圏突然昇温
稲津 將・木本昌秀・住 明正(東京大学気候システム研究センター)

 成層圏突然昇温とは、北半球冬季、対流圏の波活動の活発になり成層圏に伝播することが引き金となって、成層圏の極域の気温が急激に上昇する現象である。この現象は、極渦が崩壊を伴うので、極域成層圏のオゾン回復にとっても重要である。大気海洋結合モデル実験の結果によると、現在気候に比べ温暖化すると突然昇温のタイミングが早くなった。モデルにおける突然昇温は観測と同様に対流圏からの波動の伝播によって起こるが、温暖化するとこの波活動が活発になり、初冬に突然昇温が起こりやすくなる。しかし、晩冬には初冬の突然昇温のため極夜ジェットが弱くなり、成層圏への波動の伝播を許さないようになるため、晩冬では温暖化気候で突然昇温は起こりにくくなる。

 
P009 海洋データ同化と気候予測可能性、気候データベースの作成
石井正好(地球環境フロンティア研究センター)

 季節から数年先の気候状態を予測するため、大気海洋結合モデルによる予測可能性の研究を行なってきた。とりわけ海洋モデル側の予測の初期値を精度良く作成するデータ同化の手法を開発した。これに加えて、50年から100年スケールの気候変動の解析と予測研究のための前段階として、観測データに基づいた50 年から100年にわたる海洋の水温ならびに海上気象要素の変動の解析を行なった。予測の初期値として海洋データを同化したものを用いることによってエルニーニョ現象の予測精度が向上することを示すことができた。とくに塩分の取り扱いに敏感である。また、近年50年間の海洋表層水温の解析結果から推定された熱膨張による全球海水位は近年の衛星データにも見られる上昇傾向を示していることがわかった。

 
P010 水平解像度に依存した雲解像モデルの系統的誤差の原因に関する研究
三浦裕亮(地球環境フロンティア研究センター)・関口美保(東京海洋大学)・
木本昌秀(東京大学気候システム研究センター)

 現在、広域水循環予測に用いられる大気大循環モデルは、計算格子の大きさが100km程度であり、個々の積雲を直接解像することができず、なんらかの物理的な仮定に基づいて積雲の集団としての影響を表現する必要がある(積雲パラメタリゼーション)。積雲パラメタリゼーションの改良は、大気大循環モデルによる予測精度の向上のために重要な課題である。一方、計算機の進歩に伴い、個々の積雲を直接解像できる雲解像モデルの3次元計算が行われるようになってきた。雲解像モデルを用いることで、積雲パラメタリゼーションの曖昧さを排除した、より正しい積雲の影響評価ができるのではないかと期待されている。将来的に積雲パラメタリゼーションと雲解像モデルの結果比較を行う上で、正解として参照されるべき雲解像モデルの側にどの程度の誤差があるかを認識しておく必要がある。
 雲解像モデルの不確定性のうち、本研究では水平解像度に対する依存性に着目した。既存の大気大循環モデルの1格子に相当する水平領域(200km x 200km)について、水平格子間隔2km,4km,8kmの3次元雲解像モデルを用いて放射対流平衡実験を行った結果、表現される積雲の形や数に違いが生じ、大気大循環モデルの1格子内における熱・水蒸気収支や降水量が系統的な影響を受けることが見出された。このような違いは、雲モデルで解像される自由大気と雲内空気の交換効率に起因するものである。




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