水の循環系モデリングと利用システム

 

第2回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

丹治肇研究チーム


P044 ナムグム川流域における水循環モデルの構築
P045 水稲栽培の特徴を考慮したCROPWATモデルによる
ラオス・KM35地区における灌漑水量推定
P046 メコン川下流域における塩水遡上に対する淡水流量の影響評価
P047 メラルーカの炭化と用途開発
P048 カンボジア・トンレサップ湖周辺における水産資源と漁業の実態


 
P044 ナムグム川流域における水循環モデルの構築
吉田貢士(東京大学大学院農学生命科学研究科),
戸田修(東京大学大学院農学生命科学研究科),
宗村広昭(島根大学生物資源科学部),
丹治肇(農業工学研究所)

 本研究ではメコン流域における水循環モデルを構築し、将来シナリオに基づいた水資源開発の影響を評価するため、支流のナムグム川流域を対象にプロトタイプのモデルを構築した。モデルは流域の降雨窶迫ャ出の関係を解析するグリッド型水循環モデルと、流域開発が河川水温環境に及ぼす影響を解析する水温モデルにより構成される。さらに水循環および下流の水利用・河川環境に大きな変化を及ぼすダムの影響を評価した。水循環モデルでは、各グリッドからの流出計算に TOPMODELを、河道における洪水追跡はマスキングガム・クンジェ法により解析を行った。また、ナムグム流域内には有効貯留量47億トンのナムグムダムおよび、ナムソン川からナムグム川へ導水を行うナムソンダムが存在するため、ダムの貯留効果を考慮した。水温解析においては、気温や湿度、風速などの気象データから、水塊と大気の間での熱交換を計算し、1次元熱輸送方程式により計算を行った。その際、葉面積指数LAIの季節変化を考慮し、河畔林植生による日射遮断効果を組み込んだ。ダム建設に伴う流量変化が水温に及ぼす影響は、乾期において顕著であり、河畔林密度が低いほどその影響は大きい。

 
P045 水稲栽培の特徴を考慮したCROPWATモデルによる
ラオス・KM35地区における灌漑水量推定
戸田修(東京大学大学院農学生命科学研究科),
吉田貢士(東京大学大学院農学生命科学研究科),
樋口克宏(農業工学研究所),
宗村広昭(島根大学生物資源科学部),
丹治肇(農業工学研究所)

 国連によると2050年のラオスの人口が現在の約2倍になると予測されており、それに伴う食料需要量の増大は不可避である。灌漑率が総じて低いラオスでは食料生産を増やす方法として灌漑導入は極めて有効であるが、過去の灌漑水量データが利用可能なほど蓄積されていることは少なく、潅漑を評価するのは困難であった。そこで本研究では、比較的豊富にあるコメの収量データから灌漑水量を推定する手法の確立を目指した。研究対象地は耕地面積、収量ともラオス国内最大であり食料生産にとって極めて重要なサバナケット県KM35潅漑地区である。これにFAOのCROPWATモデルを適用し、実収量から2004年雨期の灌漑水量を推定した。畑作に適したCROPWATに栽培形態の異なる水田の特徴である畦畔の高さを組み入れ、13エリアに分割し、収量、畦畔、耕盤をそれぞれ測定し、各エリアの灌漑水量を推定した。結果、延べ灌漑日数は平均で34日間、日灌漑水量は収量が低いエリアではほぼゼロ、最も収量が多いエリアで 5.5mm、エリア全体の総灌漑水量は約623,000m3であった。これは、有効貯水量の約7%であり、計画の要求用水量627,000m3に極めて近い。一方で、実収量と、畦畔高さ・耕盤深さの関係から、畦畔が高いと水分ストレスが掛かりにくいことが判明した。

 
P046 メコン川下流域における塩水遡上に対する淡水流量の影響評価
久保成隆(東京農工大学大学院農学教育部),
Kwon Sung Ill(東京農工大学大学院連合農学研究科),
Hoang Ngan Giang(東京農工大学大学院連合農学研究科),
矢澤雄介(東京農工大学大学院農学教育部)

 メコン川下流域では淡水流量が減少する2〜5月に塩水が遡上して、下流沿岸では淡水利用が困難になる。塩水の混合形態は強混合で、淡水流量・季節風・潮汐等によりその程度は異なる。今回は、これらの中で上流域での水資源開発に伴う淡水流量の増減が塩水遡上に及ぼす影響を、主として数値シミュレーションにより検討を行った。対象区間はMyThuan橋から河口までの区間で、検討期間は2003年1〜6月の半年間である。河川流量、塩分濃度は共に激しく変動するため、それらの準定常成分を抽出して比較した。数値シミュレーションでは、MyThuanと河口部での水位を境界条件として与え、流水はSaint- Venant方程式を、塩水は移流分散方程式を数値計算した。その結果、2境界点間の水位差の平均値が淡水流量に比例すること、河川流量の変動幅は淡水流量の10倍程度になること、等が判明した。このことは淡水流量が多少増減しても、分散係数に殆ど影響を与えないことを意味する。また、5月以降、分散係数をそれ以前の6割程度に減少させないとシミュレーション結果が、観測結果と良く一致しないことが判明した。これは優勢な東風の季節風が5月頃に収まるためと推測される。これらの結果により、淡水流量の増減が塩水遡上の程度に及ぼす影響を定量的に評価することが可能となった。

 
P047 メラルーカの炭化と用途開発
逆瀬川三有生(東京大学大学院農学生命科学研究科),
飯田俊平(東京大学大学院農学生命科学研究科),
谷田貝光克(東京大学大学院農学生命科学研究科)

 プロジェクトの対象地域のベトナム、メコンデルタでは、早生樹のメラルーカが植林されている。メラルーカの主な用途は杭材であるが、近年ではコンクリート製杭の登場により、需要は減少傾向にある。杭材に代わる新たな利用法を開発することは、植林地に経済的利益をもたらし、メラルーカ林の持続的な森林管理とさらなる造林面積の増加に対して、強い訴求力となることが予想される。そこで、本研究では、既存の炭窯に比べて高性能な炭窯(SSY-1 type kiln)を開発、導入し、実際にメラルーカの炭化を行い、得られた炭の品質評価を行った。その結果、SSY-1 type kilnによる製炭で得られた炭は、既存の炭化法で得られる炭に対して、精錬度、硬度、固定炭素量、灰分等で向上が見られ、品質が向上していることが確認された。この結果は、メラルーカ炭を高品質燃料としての輸出産品、燃料に比べてさらに高付加価値を持つ土壌改良材、水質浄化材等として取り扱うことを可能とする。また、この炭窯では、製炭と同時に木酢液の回収、廃熱を利用した精油蒸留装置の運転が可能である。現在は、製炭実験が終了し、用途開発のため、水質浄化、土壌改良試験を行っている途中である。

 
P048 カンボジア・トンレサップ湖周辺における水産資源と漁業の実態
石川智士(科学技術振興機構),
高木映(東京大学大学院農学生命科学研究科),
堀美菜(東京大学大学院農学生命科学研究科),
榎本憲泰(東京大学大学院農学生命科学研究科),
ナオトック(カンボジア水産局),

黒倉寿(東京大学大学院農学生命科学研究科)
 永続的な開発を考える際に、利用されている生態系の役割と機能をマネージメントユニット(集団)ごとに明らかにし、そこでの住民の営みを分析することで全てのステークホルダー(利害関係者)の合意を取り付けることが最大の課題である。そこで、メコン流域の水循環変動が水産資源と水産によって生計を立てている人々の生活に及ぼす影響を評価し、永続的な資源利用と住民の生活向上を両立させるための方策を見出すために、カンボジア・トンレサップ湖周辺を対象として、魚類の資源構造ならびに多様性評価、漁労活動の実態調査ならいに漁獲量動向調査を実施した。その結果、トンレサップ湖とメコン本流域では幾つかの魚種において集団が別れていることが明らかとなり、資源評価は集団ごとに行う必要性があることが分かってきた。また、トンレサップ湖の漁獲量は、これまで湖の最大水深と深い関係があるとされていたが、大規模漁業に関しては雨季初期における水位上昇の時期と安定性が資源変動と漁獲量変動に大きな影響を与えることが明らかとなった。トンレサップ湖周辺における小規模漁業は、これまで自家消費的な側面が強調されてきたが、実際には不足する米を購入するための現金を得るための手段としての役割が大きいことが明らかとなった。




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