水の循環系モデリングと利用システム

 

第2回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

太田岳史研究チーム


P030 北方林における落葉樹の微気象条件に対する個葉レベルの生理生態的応答
P031 森林構造要素による森林上の空気力学的特性のパラメータ化
P032 東ユーラシア域における水・エネルギー収支の時・空間分布の評価
P033 北海道北部のダケカンバ林における林冠光合成・蒸散に対する
下層植生の影響:個葉から群落まで
P034 気孔・群落コンダクタンスと葉内葉緑素濃度との関係の評価とそのモデル化


 
P030 北方林における落葉樹の微気象条件に対する個葉レベルの生理生態的応答
加藤京子(JST・CREST/北大・低温研),
桑田孝(JST・CREST/名大院・生命農),
三木直子(岡大院・環境),小林剛(香大・農),
松本一穂(名大院・生命農),隅田明洋(北大・低温研),
原登志彦(北大・低温研)・太田岳史(名大院・生命農)

 森林の蒸発散は水循環に大きく関与しているため,樹木の微気象条件に対する気孔調節機能を知ることは,水循環を把握する上で非常に重要である.そこで本研究は,異なる気象条件下に生育する主要樹種の夏期の微気象条件に対する個葉レベルの生理生態的応答を比較検討し,夏期に高温で少雨という特徴を持つ北方林に生育する樹木の気孔の環境応答特性の解明を試みた.測定には,自然条件下の応答を把握するために着枝自然条件下で気孔コンダクタンスの日変化パターンを観測する方法と,潜在的な能力を把握するために切枝制御条件下での気孔コンダクタンスの環境応答特性を観測する方法の二通りを採用した.
 着枝自然条件下測定によって,夏期の乾燥が強い場所ほど,微気象条件に対して気孔が敏感に応答し,蒸発散を活発に行わない傾向が見られ,気孔の振る舞いの地域間・樹種間の差が顕著であることが明らかになった.一方,切り枝制御条件下の測定によって,潜在的な気孔の微気象条件に対する応答特性は,地域間・樹種間で大きな差がないことが明らかになった.以上の結果から,樹木は,微気象条件に対して見かけ上異なる振る舞いをしているのではないかと考えられた.

 
P031 森林構造要素による森林上の空気力学的特性のパラメータ化
中井太郎(JST・CREST/北大・低温研),隅田明洋(北大・低温研),
桑田孝(JST・CREST/名大院・生命農),加藤京子(JST・CREST,北大・低温研),
大黒健一(名大院・生命農),松本一穂(名大院・生命農),太田岳史(名大院・生命農),
兒玉裕二(北大・低温研),T.C. Maximov(IBPC,SD,RAS)

 森林上における空気力学的特性について,森林構造要素を用いたパラメータ化を試みた.これまでの観測結果から,空気力学的特性を表す地面修正量dと粗度長z0には,サイト間で見られる相違と,各サイトで見られる季節変化の2種類の変動が存在することが確認されている.しかし,これまで提案されてきた空気力学的特性のモデルでは,これら2種類の変動を統一的に説明することが出来なかった.そこで,観測結果に基づき,空気力学的特性に対する森林構造の寄与を非同化部(幹,枝)と同化部(葉)に分ける考え方を提案した.すなわち,各森林が持つ基本的な空気力学的特性は非同化部の密度に支配され,季節変化は同化部に支配されると考えた.この考え方に基づき,立木密度(非同化部)とPAI(同化部)を用いた原始的なモデルを構築した結果,CREST5サイト間の相違と各サイトにおける季節変化の実測値をおおむね統一的に説明できた.しかし,立木密度は樹木の大小を考慮しておらず,非同化部の密度を純粋には代表していない.また,d,z0を標準化するための代表樹高の決定方法も確立されていない.これらの問題の解決が今後の検討課題である.

 
P032 東ユーラシア域における水・エネルギー収支の時・空間分布の評価
朴 昊澤(JST・CREST/地球環境観測研究センター),
山崎 剛(地球環境観測研究センター),
山本一清(名大院・生命農),太田岳史(名大院・生命農)

 世界の森林の約1/3を占めている北方林地帯における水・エネルギー収支の時空間分布を推定するために,陸面モデルの開発とパッチスケールでの生態生理学的パラメータの構築を進めてきた.これらのカップリングは水・エネルギーの陸面過程に関わるパラメータの空間分布や地域においての陸面過程の循環特性と環境要因に対する応答の相違の評価を可能にした.Yamazaki et al(1992)の2層モデルを用いて北緯30〜72°,東経90〜180°の領域を対象に水・エネルギー収支の時空間分布を推定した.データは地上気象観測を基に作成した0.5×0.5°スケールのグリッド日単位気象データを用いた.
 気候環境が異なるヤクーツクと瀬戸サイトを含む両グリッドを対象に計算値と実測値との比較を行った.その結果,晴天・降雨条件においてもエネルギーフラックスの計算値と実測値がよく一致することを確認した.純放射量は場所による相違はあまり見られなかったが,潜熱と顕熱においては地域性の特徴が明確に見られた.降水量が比較的に多い地域で潜熱の増加が明らかであった.特に,葉面積指数が大きいところでその傾向は顕著であった.林分密度が低い高緯度では全体的に顕熱が高かった一方,高い林床面蒸発で特徴づけられる潜熱の空間性も確認できた.

 
P033 北海道北部のダケカンバ林における林冠光合成・蒸散に対する
下層植生の影響:個葉から群落まで
小林 剛(香大・農),三木直子(岡大院・環境),
加藤京子(JST・CREST/北大・低温研),
久保拓弥(北大院・地球環境),植村 滋(北大・雨龍研究林),
隅田明洋(北大・低温研),原登志彦(北大・低温研),
太田岳史(名大院・生命農)

 森林全体の水循環や炭素収支を評価するうえで,上層木に対する下層植物の影響を診断することは重要である.東ユーラシア冷温帯〜亜寒帯の落葉広葉樹林では,ササ類(Sasa spp.)が主要な下層(林床)植物の一つである.我々は,この地域の代表的な森林の一つである北海道北部のダケカンバ(上層)窶買`シマザサ(下層)から成る森林を舞台として,林床のチシマザサの有無(ササ除去区vs対照区)の下でのダケカンバの個葉の植物生理生態学的特性を比較した.また,森林の上層部(林冠)における葉量と光強度を測定し,ダケカンバの光合成生産と蒸散量を個葉からシュート(枝条)および群落レベルへ積み上げ法によってスケールアップした.
 ダケカンバの個葉の生理機能に対するササの有無の影響は,予想に反して必ずしも明瞭ではなかった.これに対し,ササの除去によってダケカンバの当年枝の開葉数は増加するとともに,生育期の後半まで葉の光合成・蒸散能および栄養状態(窒素濃度)が高く保たれる傾向にあった.これにともない,ササの除去によってダケカンバ林冠の生産量は2.16倍,および蒸散量は2.50倍に増加するという計算結果が得られた.

 
P034 気孔・群落コンダクタンスと葉内葉緑素濃度との関係の評価とそのモデル化
松本一穂(名大院・生命農),
太田岳史(名大院・生命農),
田中隆文(名大院・生命農)

 気孔コンダクタンス(gs)は,植物窶泊蜍C間の水・熱・炭素交換における植物による制御度合を表わすパラメータである.本研究では植物の生理特性を考慮した森林の水・熱・炭素交換過程の評価・モデル化を行なうための基礎研究として,個葉レベルの生理特性(葉緑素濃度;C)とgsとの関係の評価および,モデルへの導入を試みた.対象木はコナラ苗木を使用した.観測の結果,Cは春季・秋季に低く,夏季に高い季節変化を示し,Cの低下に従ってgsの取りうる最大値が低下するという特徴が認められた.これを基にgs-C間の関係を関数化し,Jarvis型コンダクタンスモデルに導入した.その結果,従来型のモデルではgsが春季・秋季に過大評価されていたが,Cの関数を導入することで大幅に精度が向上した.また,gsの変動へのCの寄与度は夏季には低いものの,C が大きく変動する春季・秋季には非常に高くなった.このことから,Cはgsの季節変化を評価する上で非常に有効なパラメータであることが示された.現在は群落スケールでの検証を行なうべく,リモートセンシング情報による葉の葉緑素濃度の評価手法の検討や,群落コンダクタンスと葉緑素濃度との関係についての解析を行なっている.




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