水の循環系モデリングと利用システム

 

第2回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

古米弘明研究チーム


P056 リスク管理型都市水循環系の構造と機能の定量化
P057 河川水質との比較からみた新たな都市水資源の評価
P058 雨水浸透施設における浸透能の定量的評価と汚濁物質の動態解析
P059 実下水処理水の通水による土壌微生物群集への影響評価と
土壌中の17β-エストラジオール分解微生物群の解析
P060 居住者意識に基づく水環境評価モデルの構築:
水環境創出と地下水涵養の両立


 
P056 リスク管理型都市水循環系の構造と機能の定量化
古米弘明(東京大学大学院工学系研究科)

 流域圏外からの水の導入に依存したフロー型都市水利用システムには限界があり、持続可能な水資源確保や健全な水循環系を構築するためには、都市域における雨水・涵養地下水利用や排水再利用が求められる。そこで、都市自己水源の「質」の動態変化を理解するために、微量汚染物質の雨天時流出挙動の評価、道路排水や下水処理水の地下浸透に伴う浄化機構の解明、医薬品を含めた微量汚染物質の分析、様々な水試料についての水質リスクの多面的な評価を行い、水利用におけるリスクと許容性の判断基準を明示して、都市自己水源の再利用と適正配置を提案することを目指している。
 本研究チームでは、研究期間の前半(H14.11〜H17.9)に、汚濁流出解析および水収支モデルの構築作業、地下水涵養のカラム実験、処理場や環境試料の採水調査・分析を実施した。後半(H17.10〜H19.10)では、水質リスクの評価のあり方、再利用や適正配置など実社会を想定したケーススタディへの展開を進める予定である。

 
P057 河川水質との比較からみた新たな都市水資源の評価
原田 新  科学技術振興機構、(独)土木研究所水循環研究グループ
中田典秀  (独)土木研究所水循環研究グループ
山下尚之  京都大学大学院工学研究科
宮島 潔  (独)土木研究所水循環研究グループ
佐藤修之  国土環境株式会社
伊藤光明  国土環境株式会社
鈴木 穣  (独)土木研究所水循環研究グループ
田中宏明  京都大学大学院工学研究科
古米弘明  東京大学大学院工学系研究科

 近年、雨水や下水処理水および涵養地下水等の新たな都市水資源を利用することが求められている。これらの水の利用を推進するためには、そのリスクや許容性を検討することが重要であると考えられる。このため、新たな都市水資源の水質リスクについて相対的な評価を行う際に用いる“物差し”となるものが必要となる。そこで、水質リスクのラベリングに資するための基礎データを構築することを目的として、全国河川の水質分布を調査した。
 ここでは、調査対象を全国の直轄河川から37河川を選び、これらの選択した河川の代表性をみるために、主要な水質項目について、平成16年度に調査した 19の河川群と全国河川群の間で濃度分布の差異を比較した。また、河川群の濃度分布の中で、新たな都市水資源として想定される水の水質がどのような位置付けになるかを考察した。
 この結果、調査した19河川の水質分布は、全国河川の場合とほとんど同じ分布になり、選択河川群によって全国の河川群の水質分布をほぼ代表できることがわかった。また、下水処理工程や地下水涵養によって、新たな都市水資源が、選択した河川群の中においてどの程度の水質レベルになるかを明示することができた。
 今後は、リスク評価項目を増やし、また河川以外に比較対象とする水の範囲を拡げ、利用実態も考慮して基礎データの構築をはかる。

 
P058 雨水浸透施設における浸透能の定量的評価と汚濁物質の動態解析
村上道夫  東京大学大学院工学系研究科
Rupak K. Aryal  科学技術振興機構、東京大学大学院工学系研究科
Haltota K.P.K. Jinadasa  科学技術振興機構、東京大学大学院工学系研究科
中島典之  東京大学先端科学技術研究センター
古米弘明  東京大学大学院工学系研究科

 雨水浸透施設は、地下水涵養、ノンポイント汚染物質の捕捉、雨水流出ピークの低減といった機能がある。従来は特に流出ピークの低減に着目したモデル計算がなされてきたが、浸透・流出の水収支や流れに伴う汚濁物質の動態に関する研究は限られている。本研究では、さまざまなタイプの降雨における種々の雨水浸透施設における浸透量を定量的に評価し、同時にノンポイント汚染物質がどのように捕捉されるかをモデル計算により推定した。さらに現場調査により、雨水浸透マス内にどのように重金属類が捕捉されているか明らかにした。
 計算結果によると、雨水浸透施設のうち特に浸透LU側溝は降雨パターンによらず顕著な浸透効果を示した。汚染物質の動態に関しては、掃流と再懸濁の機構が重要であり計算プロセスのさらなる検討が必要であるが、小降雨で浸透マス内に捕捉・蓄積された汚濁物質が、強い雨により巻き上げられて流出することが示唆された。
 浸透施設が設置され20年以上経過している東京都内の排水区において雨水浸透マスを調査した結果、堆積物中の重金属類濃度はクロム6〜143μg/g、ニッケル1〜84μg/g、銅49〜331μg/g、亜鉛210〜2186μg/g、鉛2〜332μg/gであった。これらは道路塵埃中含有濃度と同程度であった。

 
P059 実下水処理水の通水による土壌微生物群集への影響評価と
土壌中の17β-エストラジオール分解微生物群の解析
坂田佳子  科学技術振興機構、東京大学大学院工学系研究科
栗栖 太  東京大学大学院工学系研究科
矢木修身  東京大学大学院工学系研究科
古米弘明  東京大学大学院工学系研究科

 都市域での地下水涵養による水源を確保するためには、浸透させる水の確保と土壌浄化力の維持が必要である。都市域での安定な水源の一つとして下水処理水が挙げられるが、多様な化学物質や微生物が含まれている。本研究では、小型土壌・地下水カラムシステムを開発し、下水処理水を涵養した場合の土壌微生物相への影響及び化学物質除去能について検討した。化学物質として、二次処理水中に含まれる微量化学物質の一つである17β-エストラジオール(E2)を対象とした。
 実験方法としては、土壌30gを充填した小型カラムに東京都内の下水処理場の処理水(未消毒・塩素消毒・UV消毒)および水道水を流速約1mm/hrで1〜2ヶ月間通水した。1条件につき2本のカラムを用いた試験結果から、通水による土壌微生物相への影響評価手法として再現性のよい系が構築できたことが示された。流出水の溶存態有機炭素濃度(DOC)は、流入水から平均して未消毒、UV消毒、塩素消毒それぞれ20%、27%、29%の減少が認められ、土壌によるDOCの除去能が約2ヵ月後も保たれていることが確認できた。分子生物学的手法を用いて微生物群集構造解析を行った結果、下水処理水を通水することにより一部の土壌微生物群にわずかに影響があるものの、土壌環境は大きく攪乱されることなく、土壌微生物相が保持されることがわかった。現在、土壌中の E2分解微生物の分類・同定を行い、土壌によるE2浄化力を定量的に評価する手法の開発を進めている。進捗状況についても併せて報告する。

 
P060 居住者意識に基づく水環境評価モデルの構築:
水環境創出と地下水涵養の両立
谷口 守  岡山大学大学院環境学研究科
古米弘明  東京大学大学院工学系研究科
小野芳朗  岡山大学大学院環境学研究科
大久保賢治 岡山大学大学院環境学研究科
諸泉利嗣  岡山大学大学院環境学研究科
氏原岳人  岡山大学大学院環境学研究科

 確固たるリスク管理型都市水循環系をつくりあげていくためには、水資源の再利用と適正配置に関する計画的視点に基づく評価システムの導入が必要不可欠である。特に対象地域の都市構造や地域特性に配慮し、居住者の観点から適正な水循環、水環境の創出や地下水涵養のあり方を検討するためのツールの開発が強く求められている。
 本研究では2,000人以上に及ぶ都市居住者の身近な水環境評価に対する意識調査結果をもとに水環境評価モデルを構築し、あわせてまちなかの水環境に対する意識面での水質要求特性の分析を行った。分析の結果、まちなかに「流れ」が不足している地区への「流れ」の導入が特に効果的で、多少の化学的水質を落としても居住者の生活の質(QoL)という観点から、評価意識上問題は発生しないことが定量的に示された。具体的な政策提言として、下水処理水の一部を地下涵養し、再び居住者評価の低い流域に上流還元することで、水環境評価を効果的に改善できる(水環境創出と地下水涵養の両立)可能性を明らかにした。あわせて、本研究では水環境評価がQoL評価全体に対して高い比重を占めることも初めて定量的に明らかにしており、今後のまちづくりにおける地下水涵養を軸とした水環境整備の重要性を明確に規定するものである。




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