水の循環系モデリングと利用システム

 

第2回領域シンポジウム
ポスターセッション

  

船水尚行研究チーム


P049 研究プロジェクトの全体像
P050 バイオトイレ利用における病原リスク評価
コンポスト利用技術
P051 雑排水処理:傾斜土壌システム
微量化学物質のモニタリング技術の開発
P052 サニテーションシステムの流域スケールでの評価手法の開発
霞ヶ浦流域における新システム導入効果
P053 実証実験(秩父、沖縄)
P054 実証実験(インドネシア)
P055 実証実験(中国)


 
P049 研究プロジェクトの全体像
船水尚行(北海道大学)

 本研究プロジェクトの背景となる,なぜ今新しいサニテーションシステムが必要かMillennium Development Goalsの関係から概説し,新しいシステム構築にあたり,二つのキーワード「集めない」,「混ぜない」の重要性,そして,本プロジェクトで開発しようしている排水分離・分散型処理システムの概要とその利点を整理した.
 加えて,本プロジェクトを構成する4つの要素研究グループと二つの実証研究(国内,国外)グループの概要を記した.

 
P050 バイオトイレ利用における病原リスク評価
大瀧雅寛,中川直子,赤石布美子 (お茶の水女子大学)

バイオトイレの微生物学的,衛生学的安全性についてのこれまでの調査,研究成果を整理すると:
・バイオトイレ内の死滅速度はファージが細菌の速度よりも10〜100倍遅い.
・死滅速度は温度が高いほど,含水率が低いほど上昇.ただし,水分活性が重要.
・ファージの担体への吸着能は極めて低く,かつ担体からの溶出もほぼ100%に達する.降雨初期にファージは流出するが,土壌における吸着によって大部分が保持される.

コンポスト利用技術

寺澤 実(北海道大学農学研究科)

・コンポストを直接農地へ施用するだけでなく,付加価値をつけ,かつ,長期的には生物分解性のある資材を製造しようとするものである.
・本研究では,利用キノコの栽培培地,難燃ボードの成形(多量のミネラル,特にリンを含むので難燃ボード作成が可能),農用・植林用ポットの成形(栄養源を含むポットとなり貧栄養土壌での植林活着率向上),梱包材(現在は高価なパルプ.輸送先で有機肥料として土壌に還元できる梱包材),マルチング資材へ成形(公園や各種緑地の雑草防除に利用)への利用を目標とする.

 
P051 雑排水処理:傾斜土壌システム
板山朋聡,田中信幸,斎藤猛,岩見徳雄,水落元之,稲森悠平(国立環境研究所)

 傾斜土壌処理システムは,傾斜土槽とよぶ底面に傾斜をつけた薄層容器に鹿沼土等の浄化担体を充填し,これに原水を浸透流下させて浄化を行うものである.
・本システムにより雑排水中の有機物,全窒素,全リンを効率的に除去できることが2年間の連続運転により示された.
・土壌層内に好気的な部分と嫌気的な部分が適切に形成され,硝化反応,脱窒反応が進行している.

微量化学物質のモニタリング技術の開発

小野田優,山本潤,伊藤竜生,佐藤伸之,伊藤光明(国土環境(株),北海道大学)

・エストロゲン類とそれらの抱合体:本分析法におけるE2,EE2,E1の回収率は,それぞれ70.7%,69.3%,78.1%であった.回収率は良好であり,コンポスト試料中のE1,E2,EE2が妨害物質による干渉もなく検出できた.また,エストロゲン抱合体9種(グルクロン酸,硫酸抱合体)については,標準溶液のLC/MS/MS測定が可能となっている.
・医薬品類:本測定法により,各医薬品を高感度且つ選択的に検出でき,その結果,水質試料では試料濃度でng/Lレベルでの検出が可能となった.固相抽出法を用いた汚水での添加回収試験では,それらの回収率は70〜120%の範囲であり,良好な結果が得られている.
・コンポスト試料を粗抽出後,同様に測定した結果,前述の医薬品の他に抗不整脈薬,脳循環代謝改善薬,抗高脂血症薬なども検出された.これらの医薬品に関しては,現段階で定性のみであるが,標準添加法による測定により定量可能である.

 
P052 サニテーションシステムの流域スケールでの評価手法の開発
荒巻俊也,Mona M. Galal,花木啓祐,長谷川 聖(東京大学)

・マテリアルフローの解析と副次的な環境影響の評価:各種処理方式が地球温暖化,酸性化,富栄養化に与える潜在的な影響を評価するシステムを構築した.
・流域の水文・水質環境にあたえる影響の評価:河川水質モデル(QUAL2K)を用いてサニテーション施設等の汚濁負荷削減対策の評価を行っている.(北京郊外,コロンボ市,Hau川)
・病原微生物による健康リスクの評価とライフサイクルにわたる環境負荷との比較評価:環境水中における病原微生物の濃度から水供給システムを経て地域住民に与える影響をQMRAを用いてDALYs(障害調整生存年数)で評価している(ダッカ市)

霞ヶ浦流域における新システム導入効果

藤井都弥子,高橋正宏,藤田光一(国土技術政策総合研究所)

・本研究では,霞ヶ浦流域を対象として,各排水処理システムを整備することによる湖沼への流入負荷量や湖心水質の変化をシミュレーションにより検討した.
・下水道は,COD,TN,TP全てで処理能力が高く,負荷量削減効果が高い.特に,霞ヶ浦流域の処理場はリンの高度処理を行っているため,リンは約95%除去されている.
・また,いくつかの下水処理場では,処理水を流域外へ放流しているため,他の処理方法と比較して流域内の河川,霞ヶ浦へ流入する水量は少なくなる.
・高度処理合併浄化槽は,下水道よりはやや処理能力が劣るが,従来の合併処理浄化槽よりTN,TPの除去率が高いため,湖心水質は下水道整備の場合と同程度改善される.
・バイオトイレは,し尿を完全に取り除くことができるためTN,TPの削減効果は非常に高い.

 
P053 実証実験(秩父,沖縄)
北海道大学,お茶の水女子大学,国立環境研究所

 ポスターにあるような実証実験施設を設置している.秩父ではバイオトイレと傾斜土壌処理システム,沖縄(名護)ではバイオトイレを運転し,多様な観点から総合的に検討している:
・分離・分散型処理システム導入に関する仕組み作り
・総合的にシステムとして評価・実証する(エネルギー・物質(有機物・栄養塩)・病原微生物,おが屑性状)と分散型システムの維持管理方策の提案(センサーリング+情報+社会システム)
・コンポスト型トイレ(し尿と厨芥)+生活雑排水処理の処理性能,負荷変動への対応,維持管理性
・使用者の評価,自治体としての評価
・流域の水管理としての評価

 
P054 実証実験(インドネシア)
東京工業大学,インドネシア科学技術院

・ボルネオ種オガクズを用いて125日間(総量約128kgの汚物投入),コンポストトイレは順調に運転されている.
・宗教学校に設置した大型トイレに関しては現在データを蓄積中.科学技術院のスタッフが宗教学校参加者にSustainable Sanitationに関する紹介を行っており,社会的認知度が非常にゆっくりとではあるが上昇している.
・KiaraCondongのスラム地区における聞き込み調査では,水使用量の原単位が一人当たり89リットルでうち約40%にあたる36リットルがトイレで使用されていることが分かった.インドネシアでは習慣として用を足した後に水で洗浄するので,水を使わないコンポストトイレを導入しても36リットル全量の使用を削減することはできないが,少なくとも半分程度は水使用量を減らすことができると考えられる.
・スラム地区を流れる水路と家庭排水の汚濁負荷を比較したところ,水路汚濁負荷の大部分が家庭からの排水,特にトイレの排水から生じていることが分かった.特に屎は流量が少ないときには水路内に滞留し,増水時に一度に流れ出す傾向が見られた.
 
P055 実証実験(中国)
東京工業大学,南京大学,西安建築科技大学,東北師範大学

・本研究では,中国社会へのSustainable Sanitation導入の可能性を検討するために,現地の研究機関と共同で技術的視点のみならず,社会文化的宗教的視点から考察をしている.
・南京大学:南京市内および郊外の公衆トイレについて,使用頻度,建設時期,建設費用,維持費,様式などについて調査した.大学の研究室内に小型のコンポストトイレを設置し,南京の気候下でコンポストトイレが日本と同程度に機能するかどうかを検証した.その経験と実績に基づき,代替マトリクスとしてモミガラを用いた実験を現在行っている.また,できたコンポストで発芽試験を行った.一方,大型のコンポストトイレはYixing市の小学校に設置し,児童による共用を開始し,アンケートや授業内でSustainable Sanitationの紹介を行っている.
・西安建築科技大学:西安市内および郊外の公衆トイレについて,使用頻度,建設時期,建設費用,維持費,様式などについて調査した.大学の研究室内に小型のコンポストトイレを設置し,西安の気候下でコンポストトイレが日本と同程度に機能するかどうかを検証した.西安は森林資源が比較的豊富で,オガクズの入手が容易であるので,オガクズの粒度分布などの物理的特性によってマトリクスとしての性能に変化があるか等を検討している.日本製の大型のコンポストトイレを西安市郊外にある森林公園に設置し,使用頻度,マトリクスの成分変化分析,使用者アンケートなどを行っている.また,現地で入手可能な材料を用いて,鋳鉄製の大型コンポストトイレの製作を試みた.
・中国東北師範大学:まず,長春市内の41箇所の公衆トイレについて,使用頻度,建設時期,建設費用,維持費,様式などについて調査した.また,中国東北地方は森林資源に乏しいため,オガクズの入手は容易でない.そこで,農作物残渣として大量に発生しているコーンストーク(トウモロコシの茎や葉)をマトリクスとして使用する可能性について検討した.研究室内にコンポストトイレを設置し,人の汚物および家畜糞尿とコーンストークとオガクズの混合物を混ぜて実験を行った.また,大型のコンポストトイレを長春市内の公衆トイレとして設置し,使用者アンケートや使用頻度調査などを行っている.




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