技術テーマの詳細

最終更新日:平成24年10月19日

技術テーマ名: 「水産加工サプライチェーン復興に向けた革新的基盤技術の創出」

(1)技術テーマの概要

 昨年3月の東日本大震災そして大津波により、東日本太平洋沿岸の「水産加工」→「加工残滓処理(魚粉化)」→「配合飼料製造、養殖・栽培漁業」→「水産加工」のサプライチェーンは壊滅的に寸断してしまいました。漁港、魚市場、水産加工場、製氷業、冷凍・保管業、船舶・船用機関製造修理業、魚網製造修理業、配合飼料・餌料製造業、運送業など、どれ一つ欠けても夫々の最適な稼働状態は得られません。
 震災から1年を経た今、これまで従事していた人々は、復旧に懸命の努力を注いでいます。しかしながら、「旧」に復するだけなら、右肩下がりの時代を再び甘受しなければならないことは明白であります。被災した東日本太平洋岸沿岸地域が未来型産業のモデル地域として生まれ変わるためには、復しつつ「新」を興すことが不可欠であります。復しつつ「新」を興すことはまさしく「挑戦」であります。
 そこで、本技術テーマでは、水産加工サプライチェーンを我が国が誇れる産業として蘇生すべく、サプライチェーンの各ステージにイノベーションを導入することで、時代と社会の潮流に見合った産業と雇用を創出していくことを目的とします。そのため、大学・公的研究機関等における構想力溢れる基盤的な技術開発・研究を推進し、東日本太平洋沿岸復興に止まらず、我が国の産業競争力の創生と社会基盤の強化に資する成果を得ることを目指します。
 また、運営期間中、「産学共創の場」というプラットホームを設置し、各研究課題の進捗状況や成果創出状況、産業界の要望等を議論し、研究の推進方針に積極的に反映していきます。

(2)POによる公募・選考・技術テーマ運営にあたっての方針

 たとえば、かに風味かまぼこに代表される練り製品開発、見事なまでに効率的なフィッシュミール製造プロセスの開発など、水産加工に係る我が国の技術は、爾来、世界的に見て最先端を走ってきていました。これらの技術は雇用、経済を含め、絶えず我が国の社会基盤に大きく貢献してきていましたが、昨年の大震災、大津波で一転してしまいました。片や海外諸国の追い上げも極めて急速です。もし、水産加工技術全般における我が国の優位性が失われることとなれば、その影響は水産加工分野を越えて我が国の産業全体に広がり、特に東アジア貿易を含め我が国の食関連産業の国際競争力の低下へと繋がることにもなりかねません。
 かに風味かまぼこの場合、製造技術が提案されてから40年が経過しました。この間、水産加工に係る研究は、細分化された学問体系の下でそれなりに深化してきていますが、我が国の産業、経済に影響をもたらす如きブレークスルーを生み出しているかと言えば、必ずしも是認しかねるのが現状であります。食品科学・栄養科学(タンパク質、脂質、糖質、酵素)、健康機能、栄養機能、生活習慣病、生理活性物質、機能性評価、鮮度保持、食品衛生などにカテゴライズされ、加工利用に関する諸問題を産業として取り上げて研究や技術開発を進化させるような土壌が育ち難かったのかもしれません。
 このような状況に対応するためには、加工利用の原点に戻って革新的な実学としての水産加工の未来創生に向け、我が国の産学の英知を結集し戦略的に取り組むことが急務です。今、東日本太平洋沿岸復興だけではなく、日本創生の構想力が問われているのです。

上記背景のもと、革新的な実学としての水産加工の未来創生の基盤技術形成のための技術開発・研究を募集します。 水産加工業界等のリアルニーズに基づく技術課題としては、

  • Category-I.「水産加工」
    •  ・従来にはない次世代を切り拓く水産加工品,付加価値の高い水産加工品開発に係るブレークスルー
    •  ・加工装置の高度化・製造プロセスイノベーション

  • Category−II.「加工残滓処理」
    •  ・新たな魚粉・魚油製造プロセスの提案
    •  ・水産加工残滓の新規高度利用,魚油の新規高度利用

  • Category-III.「サプライチェーン構築関連」
    •  ・長期鮮度保持・輸送,コールドチェーンに係る課題
    •  ・陸上での人工養殖に係る課題

    等が挙げられますが、今混迷している我が国水産加工の関連業界にブレークスルーを生みだすような横断的な新技術を広く想定します。数年後にはこれらに繋げるために、大学・公的研究機関等から下記の例のような提案を求めます。

    • 多様な食感・形状の付与に係る技術開発・研究
    • 発酵技術を利用した新たな水産加工品開発・研究
    • 藻類/魚介類(魚体)処理の高度化に係る技術開発・研究
    • 加工残滓・魚油の利用技術も含めた,処理プロセスの最適化に係る技術開発・研究
    • 藻類/魚介類の鮮度保持・保存/輸送に係る技術開発・研究
    • 高付加価値な藻類/魚介類を対象とした(陸上)促成栽培に係る技術開発・研究

     応募いただく提案は例示に限定するものではありませんが、審査に際しては、研究目的、独創性、計画の妥当性、実現性等に加えて、本技術テーマとの関連性および復興への情熱を重視します。若手研究者を含め、工学、農学、薬学等、広範囲な研究領域の研究者からの応募を期待します。
     本プログラムで対象とする研究は、大学・公的研究機関等の研究者による基盤研究であり,将来的には研究成果が必ずや我が国の水産加工関連産業の未来を創生し、被災地がそのモデルとして復興するという視点に立脚して取り組んでいただくことを目指しています。この目的の達成を促進するために、「産学共創の場」というプラットホームを設けます。この場において、各研究課題の進捗状況や成果創出状況、産業界の要望等を議論して頂きます。各研究者には、そこで、産業界からのリアルな要望も取り入れながら研究を進めていいただくことになります。

(3)研究課題

採択時のプレスリリースは、こちら

(氏名五十音順)

  • 研究代表者: 安達 修二(京都大学 大学院農学研究科 教授)
  • 研究課題名: 亜臨界流体処理と粉末化技術を活用した水産加工残滓の新規高度利用法の開発

  • 研究概要:
    水産加工残滓を原料とした魚粉や魚油の生産は、水産加工サプライチェーンにおいて主要な位置を占めています。本研究開発では、魚粉の「亜臨界流体を用いた短時間抽出処理」と魚油の「ナノ油滴化による粉末化技術」を活用して、たんぱく質純度の高い高機能化魚粉と酸化安定性に優れた魚油粉末を製造する技術を確立し、これらを新たな食品素材として活用する道を開くことにより、水産加工業と関連産業の復興に寄与することを目指します。



  • 研究代表者: 上田 宏(北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 教授)
  • 研究課題名: 東北地方の高回帰性サケ創出プロジェクト

  • 研究概要:
    東北地方のサケ(シロザケおよびサクラマス)の回帰率向上が求められています。本研究では、東北地方の復興への寄与を目指して産学共創の場を活用し、サクラマスの環境負荷軽減型閉鎖循環式陸上養殖設備を開発します。また、シロザケの稚魚およびサクラマスのスモルトの降河行動の発現要因を解析し、高回帰率に結びつく試験研究を行います。また、東北産サクラマスおよびシロザケの全国的利用を促進するための調査研究を行います。

  • ※産学共創の場等における議論により、当初の研究概要および研究課題名が変更されました。



  • 研究代表者: 植村 邦彦(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所・食品工学研究領域 上席研究員)
  • 研究課題名: 短波帯交流電界を用いた包装済み水産物の常温流通のための殺菌技術の開発

  • 研究概要:
    被災地域の水産業振興のために、水産加工品の高付加価値化や省エネ技術が求められています。本研究では、短波帯の交流電界を用いることにより、プラスチック包装した水産物を均一・迅速にレトルト処理する技術開発を行い、常温流通が可能な高品質水産加工品を製造することを目指します。さらに、復興への寄与のために、被災地域の水産業者との対話を通して、水産物の鮮度保持技術開発を行います。



  • 研究代表者: 袁 春紅(鹿児島大学 水産学部 准教授)
  • 研究課題名: 多獲性赤身魚(サバ)の高付加価値化を実現するための革新的な原料保蔵と加工システムの構築

  • 研究概要:
    魚類の死後数時間以内は、ATPが数mMの濃度で維持されています。本提案では、魚肉に含まれるATPのたんぱく質変性抑制作用を利用することによって、凍結保蔵、解凍後も高鮮度鮮魚と同等な高品質を実現するサバの高付加価値化を目標としています。産学共創により国際競争力を持ち、世界をリードする水産物の新規な原料保蔵加工システムの技術構築を実現し、付加価値が高い高品質刺身、無晒しすり身製品、高品質干物、ならびに輸出向け製品などを製造することにより、東北水産業の振興、地域活性化に貢献します。



  • 研究代表者: 君塚 道史(宮城大学 食産業学部 助教)
  • 研究課題名: 低温技術が切り拓く次世代型水産加工

  • 研究概要:
    被災地域でバラエティーに富む水産加工品の創造が可能となるよう、近年蓄積されつつある低温技術を応用して、新しい観点による鮮魚用凍結機の開発や、氷結晶に作用する特殊な多糖類を用いた凍結鮮魚の高品位化、さらには簡便でコストパフォーマンスの高い活魚輸送法の検討など、次世代水産加工の基盤となりうる技術を研究します。得られた知見は速やかに製品化できるよう、加工従事者からの実用面での品質評価を踏まえて開発を進めます。



  • 研究代表者: 黒倉 寿(東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授)
  • 研究課題名: 電子商取引を利用した消費者コミュニケーション型水産加工業による復興

  • 研究概要:
    被災地の水産加工サプライチェーンでは、複雑で非効率な流通経路、消費者の放射能への不安、魅力的な商品の不足に対処するための取り組みが求められています。本研究では、これらの諸問題に対して、予約注文・トレーサビリティシステムを整備した大規模電子商取引市場の構築、市場構造・消費者ニーズの経済分析を通じた消費者コミュニケーション型水産加工業の仕組みの確立を実現することで、東北の水産業が国際競争力を有した産業として発展していくための基盤を整備します。



  • 研究代表者: 高木 浩一(岩手大学 工学部 教授)
  • 研究課題名: 交流電場を用いた水産物の鮮度保持および熟成・ドリップレス解凍技術開発とメカニズム解明

  • 研究概要:
    被災地域の雇用と経済の回復、その基盤の水産加工業の復興・発展のため、簡便で安価な鮮度保持技術や、凍結・解凍プロセスが求められています。本研究では、交流電場を利用し、水産物の鮮度保持やドリップがでない(食感を損なわない)解凍技術を開発します。交流電場での細胞の振る舞いがわかると、新しい学問や応用にもつながります。官能評価は、商品価値の高いウニやアワビで、水産加工の現場で実施し、水産技術センターを通じて成果を公表し、さんりくブランドの知名度向上につなげ、復興を後押しします。



  • 研究代表者: 宮澤 陽夫(東北大学 大学院農学研究科 教授)
  • 研究課題名: 徐放性粉末魚油の製造技術開発・研究

  • 研究概要:
    粉末油脂は、多様な食品素材に混合でき、食品の物性や加工特性を向上させます。魚油はDHAやEPAなどの機能性高度不飽和脂肪酸に富むので、とくに中・高齢者の健康増進の視点から食品への一層の利用が望まれています。本研究では、被災地食品産業の復興を目指して、産学共創で地域企業と連携しつつ徐放性粉末魚油を開発・製造します。これにより、魚油の食品への応用展開を容易にし、魚油需要を一気に加速させ、被災沿岸部水産業の活性化に寄与します。



  • 研究代表者: 森山 俊介(北里大学 海洋生命科学部 教授)
  • 研究課題名: サケ頭部の未利用資源およびマイクロバブル発生装置を高度有効利用することによる三陸特産の魚介類の陸上増養殖システムの開発

  • 研究概要:
    被災地域において、水産資源として重要な魚介類を効率よく再生・回復させることにつながる水産増養殖の果たす役割は極めて重要です。本研究は、これまで利用価値の低かったサケ頭部の未利用資源および魚介類の肥育に有効であるマイクロバブル技術を活用することにより、サケやアワビなどの魚介類6種の増産に資する水産増養殖技術の開発を目指します。本研究で得られる成果は、三陸沿岸における水産業の復興を支え、将来の発展に寄与するものと期待します。



  • 研究代表者: 吉松 隆夫(三重大学 大学院生物資源学研究科 教授)
  • 研究課題名: 廃棄海苔スフェロプラスト飼料を用いた二枚貝・ナマコの共棲畜養システムの開発

  • 研究概要:
    本研究では、低グレードの海苔から調製された単細胞化産物(スフェロプラスト)を素材とした二枚貝用新規配合飼料を開発し、海底の有機物粒子を餌とするナマコを貝の畜養水槽で共棲させ、二枚貝畜養中に発生する投与飼料残渣や糞がナマコ用餌料として有効かどうかを検討します。そして最終的には、冷水域の東北地方の寒冷で平地部が狭隘な気候風土に合致した共棲による集約的な二枚貝とナマコの高効率養殖生産システムを構築します。

(4)PO・アドバイザー

  • プログラムオフィサー(PO):

    鈴木 康夫 (宮城大学 地域連携センター 教授)


  • アドバイザー:

    (氏名五十音順・敬称略)

    稲井 幹男 (石巻魚糧工業株式会社 代表取締役社長)

    大島 忠俊 (株式会社二印大島水産 代表取締役社長)

    岡部 敏弘 (地方独立行政法人青森県産業技術センター 理事/同センター工業総合研究所 所長)

    北川 尚美 (東北大学 大学院工学研究科 准教授)

    木村 郁夫 (鹿児島大学 水産学部 教授)

    坂本 義信 (株式会社極洋 塩釜研究所 所長)

    藤井 智幸 (東北大学 大学院農学研究科 教授)

    山内 晧平 (愛媛大学 社会連携推進機構 教授/同大学 南予水産研究センター センター長)

    脇屋 和紀 (株式会社大川原製作所 取締役 開発本部長)

事業内容

  • 研究成果最適展開支援プログラム
  • 復興促進プログラム