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プロジェクト概要

研究総括からのご挨拶

柴田 直哉
東京大学 大学院工学系研究科 教授

人類が「顕微鏡」という極微世界の観察技術を発明してから既に400年以上が経過しています。この間、顕微鏡による極微世界の探求は、物事の本質を明らかにしたいと欲する科学の営みそのものを体現してきました。現在、最も高い空間分解能を誇る顕微鏡は電子顕微鏡です。電子をプローブとして用いる電子顕微鏡は20世紀前半に開発され、21世紀に入り収差補正技術の実現に伴って飛躍的な性能向上が進み、現在では物質を構成する原子1個1個を直接観察することも可能になってきました。しかし、現在の世界最高性能の原子分解能電子顕微鏡ですら未だ理論性能に比べて20倍以上性能が悪く、まだまだ発展途上にある技術です。

一方、原子の直接観察を可能にした電子顕微鏡ですが、私はその先に一体何を観るのか、という問いを長年追い続けてきました。結論から言えば、未だ観えていない重要な構造・現象が多すぎる、と感じています。例えば、原子と原子を繋ぐ結合電子や個々の原子の振動、原子周囲に発生する電磁場など、未だ電子顕微鏡で観察することは極めて困難です。しかし、物質・材料の性質や機能を根源的に理解するためには、これら未だ観えていない構造・現象を可視化し、極微世界の描像を精緻に解明する必要があります。

本プロジェクトでは、現状の原子分解能電子顕微鏡の限界を突破し、世界に先駆けて科学の未踏領域を開拓することを目指しています。「超」原子分解能電子顕微鏡による極微世界への挑戦にご期待ください。

プロジェクト概要

全ての物質、生命は究極的には原子で構成されており、物質・生命機能を根源的に解明するためには、原子スケールの構造や現象に遡った精緻な理解が必要です。走査透過電子顕微鏡法(STEM)は、収差補正技術の発展によって、原子1個の大きさよりも小さな分解能を実現しました。さらに、研究総括らによって、原子レベルの電磁場観察手法および磁場フリー対物レンズが開発され、世界で初めて原子スケールの電磁場観察に成功しました。本研究領域では、極低温から高温までの広い温度領域において原子スケールの構造・電磁場観察を実現し、物質・生命機能の起源を直接「観る」ことを可能にする「超」原子分解能電子顕微鏡とも呼ぶべき新たな計測手法の確立を目指します。 

本研究を通じて、物質・生命現象の真の理解とナノ界面研究の新たな学問領域の創出を促し、さらに物質科学、材料科学、有機・生命科学等の学術分野からエネルギー材料、脱炭素技術、低電力デバイス等の産業分野まで広く普及させることで、科学技術の発展に貢献することを目指します。

研究グループ(グループリーダー)

①手法開発・アプリケーショングループ(柴田 直哉 / 東京大学)
 イメージング手法開発・材料界面応用

②装置開発グループ(河野 祐二 / 日本電子株式会社)
 極低温化技術開発・検出器開発

③クライオSTEMグループ(吉川 雅英 / 東京大学)
 クライオSTEM開発・生物応用

④量子・薄膜創製グループ(大矢 忍 / 東京大学)
 量子デバイス開発・モデル界面作製

プロジェクト愛称とロゴについて

マカルー(Makalu)はヒマラヤ山脈にそびえる世界第5位の高峰で、特にその西壁はデスゾーンに位置する難所で未踏の課題となっています。本プロジェクトで挑む装置開発をこれまで一流のクライマー達が挑み敗退してきた難攻不落の課題になぞらえ、プロジェクト愛称をMACALU (MAgnetic field-free Cryogenic Atomic resoLUtion electron microscope) と命名しました。ロゴはマカルーから昇る朝日をモチーフとして、電子線によって原子の磁性に関する情報を抽出するという本プロジェクトの主要目標を表しています。

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