Project

近年のバイオテクノロジーの発展に伴い、生物による物質生産技術は、エネルギー供給や創薬等、様々な分野で脚光を浴びている。特に植物は、葉緑体や液胞といった固有の細胞内小器官(オルガネラ)を保有し、光と二酸化炭素を基にした光合成を行なうほか、液胞に物質を貯蔵するなど独自の反応経路を利用している。このような植物の特性を踏まえ、物質生産の場として植物を利活用することへの高い期待が寄せられている。

また、昨今のゲノム編集技術の著しい発展を契機に、植物細胞における遺伝子改変の研究が盛んに進められているが、有用物質の合成系を組み込んだ植物において、生育阻害が起こるなど、その技術は産業上利用可能な段階には至っていない。その理由の一つとして、植物細胞中では複数のオルガネラが、相互に影響しあい、物質生産や代謝、植物個体の機能維持を担っているが、現在の技術は単一オルガネラの改変に留まっていることが挙げられる。また、オルガネラの局在と相互作用、物質生産への影響についても、その多くが未解明のままであり、物質生産の場として植物を複合的に最適化できる状況には到達していない。これらの問題を解決するため、本プロジェクトでは、多様な機能を持つオルガネラの相互の反応を一連の集合体(クラスター)として総合的に理解を深め、操作・利用する技術を確立することにより、「オルガネラ反応クラスター」という新たな概念を構築し、植物を物質生産の場として自由自在に利用できる技術基盤を創生する。

本プロジェクトは、以下の4つの研究グル-プにより推進する。

  1. 融合ペプチド設計グループ(高分子化学、有機化学、高分子物理、高分子構造)
  2. オルガネラ改変グループ(植物組織培養、分子生物学、植物育種)
  3. オルガネラ相互作用グループ(オルガネラ動態、3Dイメージング、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、計算科学)
  4. 融合ペプチド利活用グループ(微生物・微細藻類学、形質改変、物質生産)

本研究の究極の目標は、先に述べたように、オルガネラの機能や相互作用を総合的に明らかにするとともに、オルガネラを複合的に改変する技術を確立することにより、植物による物質生産を産業利用可能なレベルまで高めるための科学的基盤を作るものである。とりわけ、オルガネラ間の距離と代謝を定量化し、数式化するコンセプトは極めて意義深い。その為、本プロジェクトは、高分子科学、有機化学、植物科学、植物組織培養、計算科学、バイオイメージングなど、多彩な分野から研究者を結集して、個々のグル-プ研究の遂行だけでなく、得られた成果を互いに利用しあいながら、有機的連携を保って研究を進めることを基本方針とする。

植物を反応場として最適化するオルガネラ反応クラスター