95. ドリームチーム

ワールドベースボールクラシック(WBC)の初代王者に日本チームが就いた。筆者にとってはテニスコートに携帯ラジオを持ち込んで時折戦況を確認した程度の関心事でしかなかったのではあるが、9回裏はテニスを中断してラジオを聴き、クローザーの、メジャーリーガーである大塚投手が最終打者を三振に打ち取った瞬間はみんなで拍手をして喜んだ。

今の計画では、次回は2009年で、以降は4年に一回の開催ということである。なぜWBCなのか?クラシックは、夏に開催されるアメリカのオールスターが、Mid Summer Classic,秋に行われるワールドシリーズがFall Classic と言われている(アメリカのマスコミが、今回のWBCの結果を受けて、もうワールドシリーズというのは不遜だといったりしているが、これは商標登録されていて、その価値が時とともに変わるのは特に不思議なことではない)ことから類推してこの大会が定着し、伝統的な意義を深めていってほしいとの思いが込められた呼び名なのであろう。

WBCは早稲田大学ボーリングクラブであったり、世界ボクシング評議会であったり、さまざまの略として使われている中でのWBCって何(?)であったのが、勢いに乗って開幕した日本のプロ野球では、頻繁にWBCの言葉が飛び交い、今やWBCといえば日本人の多くがこの大会のドラマを思い出すなじみのある略語になってしまったようである。とはいえ野球人気がすぐサッカーに追いつくことはないだろうが、オリンピックの公式競技から野球がはずされた下降ムードにあって、復活の後押しにはなるであろうし、野球少年にとって大きな夢が一つ増えたのは間違いなさそうである。

 個人的には、活躍した選手の名前を半分もわかっていないくらいのプロ野球への関心度であるから、WBCの一次リーグから決勝まで夢中になって一喜一憂してきたわけではないが、いくつか感じたことがある。運営方法などにはまだまだ課題があるようだが、結果的に6勝1敗の韓国がぶつぶついうのがわからない。最初から、リーグ戦とトーナメントの組み合わされた大会で勝率を競うだけの大会ではなかったのである。初めての国別、地域別大会ということで議論してやり方を決めてやったことなのだから、韓国のマスコミが「でたらめな大会」と主張したのには、当事者と、そうでない集団のギャップがここでも出たなという気が強くしている。結果論としてのでたらめはないであろう。

大会の約束事にしたがって進めた結果、3回負けても日本が優勝し、初代世界王者なのである。今回ばかりは計算してやったことではなかったのは確かで、日本の誰もが(選手、監督を含めて)2次リーグで終わったと思ったに違いない。しかし、首の皮一枚でつながって、決勝リーグでは強い日本がいたのである。プロ野球関係者はキューバが優勝しなくてほっとしたことであろう。野球、大リーグ、アメリカと連想されるが、大リーグの選手には多くの外国籍の選手がいるし、「今回の勝利で、日本の野球が世界の野球になったと」の長嶋さんのコメントも、気持はわかるがそんな結論が出たわけではなく、悲喜こもごもの大会であった。

こういった大会になると必ず出るのがドリームチーム論議である。その論から行けば、現役大リーガー全員が参加した韓国はまさにドリームチームで一敗地にまみれたのであるから悔しさは尋常ではなかったのかもしれない。仮に、日本が松井(ニューヨークヤンキースとメッツに所属するそれぞれの)、井口、城島らが参加していれば内容がもっと良かったかといえば、そうは言い切れない。では今回の日本チームはドリームチームであったのかどうかと問えばドリームチームだったといえると思うのである。ドラマを越えたドラマを演じきった王ジャパンの面々の感動語録がチームの何たるか、ドリームチームの何たるかを如実に語っていると思うのは筆者だけではないであろう。スーパースターを集めれば、ドリームチームが出来るかといえば、むしろそうでないように思う。どんなに力を持った人が集まってもチームの力はチームメンバーが発揮した力によって(勿論スポーツと、研究開発では異なった側面を持つが)決まっていく。力のある人が、同じところを目指していないような態度を取ると、チームに与える負の影響が大きくなる。肝心なのはチームの関係者が皆同じところを目指した当事者となったとき、最強のドリームチームが誕生するこになるのだと思う。

 第3期の科学技術基本計画が決まった。第2期はおよそ21兆円の公的資金が投入され、第3期は初めて目標金額が示された。25兆円である。ナノテクノロジーに対しては、敢えて「TURUE NANO」<不連続な進歩(ジャンプアップ*1)が期待できる;大きな産業応用が見通せるナノテクノロジーをこう呼ぶことにしたらしい>以外は対象でないと厳しい注文がついた。今進んでいるナノテクノロジー研究が「FAKE」だと言われているわけではないが、期待が更にましたものと受けとめたい。

筆者も、領域にある11のドリームチームの一員のつもりで支援を続けるつもりである。

*1)この言葉は、なんとなく気持ちが伝わる言葉だが、完全な和製英語でアメリカでは、「LEAP」(LEAP  FROG)を使うそうである。

 


                              篠原 紘一(2006.3.31)

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