157.時代の転換点

業界や、分野などによって異なるであろうが、現場でなんとなく時代の転換点を感じ、振り返ってみてやはりそうだったという経験は皆持っている。

 エレクトロニクスの分野では1990年あたりが、いくつかの点で潮目になったといえる。時代を変えた技術はアナログからデジタルへの移行である。

 

このこととは単に技術の転換にとどまらず研究開発においても、製造や組織運営、マネージメントなどにも影響を与え結果としてエレクトロニクス業界に時代の転換をもたらしと見ることができる。

 

 たとえば、「テレビかパソコンか?」といった議論はオーデイオ・ビデオの開発部門では不透明な未来論義として繰り返された。マイクロソフトやパソコンメーカーにとってテレビ市場は魅力的であり、家電業界にとって、テレビは顔の事業であり、守らねばならない市場であった。最初から一方的に勝負がつくという考え方は支持されなかったが、テレビの大型画面化は少なくともパソコンとのすみわけを維持するための流れとなったといってよいであろう。

 

 また世界を見渡した時に、キャッチアップで事業を優位に進めることが困難になってきていて、いわゆるトップランナーとしてモデルを提案するハイリスク、ハイリターンに向かわざるを得ない状況が徐々にではあったが色濃くなっていった。選択と集中といったフレーズはもっと前から飛び交ってはいたが、GEのジャック・ウエルチが大手術をやって見せたようなことが日本メーカーでも現実化していった。

 それは自前主義による世界トップの競争力維持を危うくしていき、強者同士の協業が常態になっていったことからも理解できる。当然のこととして特許の強弱は事業の強弱を支配するまでになっていった。

 

 デジタル技術の浸透製品率が急激に増えることで、製造現場は、労働コストのハンデイキャップを負わされると共に、コンベヤに人が張り付くアッセンブリーから、自動化をすすめ人を間引いていく改善にも限界が見え、作業者の創造性によって切り盛りするいわゆるセル生産方式の比率が増していくこととなった。松下電器[現Panasonic]でも、NHKのニュースでセル生産方式が紹介されたのを見た中村邦夫会長(がAVC社の社長であった時に)が現社長の大坪氏に、即電話で指示してセル方式が検討され、2001年にはほとんどすべての拠点に導入が終わっている。人がなす創意工夫の力のすごさを見る思いであるが、モノづくりのスピードは増し、在庫も減るといった製造現場に革命をもたらすことにつながっていった。組織も階層数を減らし、機動性を増すウエブ型、フラット型などが試されている。

 

 これまでみてきたようなことは今まさに、1995年に科学技術基本法が施行され、科学技術創造立国へとかじを切った中で、第3期の科学技術基本計画の中で強調され、それを主役として担う大学や国研の独立行政法人化以降も抱えている課題に相通じたものとして映る。感度を上げて現場でとらえる課題と未来像を対比して、希望を生み出していってほしいものである。

 


                                   篠原 紘一(2009.1.14

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