158. 新結合

 

1930年代の世界的な大恐慌以来の恐慌が世界を襲う。これは景気循環論から見ても避けがたいとみられているようである。さまざまな要素が引き起こす景気循環が重なって、大きな周期で起こるコンドラチェフの波というのがあって、その周期は50年から60年で、今まさに下降期にあると分析されている。ことはそう単純ではなくもっと短い周期のいくつかの波が重なり合って景気は、ローカルにも、グローバルにも動いていっているのだと言われている。

 

この景気循環については1929年米国に端を発した大恐慌の時代に活躍したオーストリア出身の経済学者シュンペーターが「景気循環の理論」で看破していることを最近知った。大恐慌の時にイノベーションの必要性を強調したという慧眼に感心していたが、ほぼ同時代に活躍したケインズとは異なる視点で鋭い考察をした学者であったといえよう。

 

イノベーションが技術革新と解されていることは誤りだといったことがごく最近語られること自体がシュンペーターにしてみれば本意ではないのだろう。シュンペーターの理論の中心にある重要なコンセプトこそが「イノベーション」であり、それをわかりやすく説く上で使われたキーワードが「新結合」である。

イノベーションについては、その後も研究され、特に最近一層活発に研究がなされその成果が論文、著述などで公開され、方法論についてもどれがこれからの時代に有効なのか選択に迷うほどである。

 

 イノベーションは、普通の人(この定義がよくわからないが)が主役を担うといった考えもあるが、やはり天才といわないまでも変人が考えたことを強力にプロモートし支援する人の組み合わせがイノベーション成功への近道ではといった気がしないでもない。

 

天才と同類の頭脳は望んでも得られるものではないだろうが、シュンペーターの言うところの「新結合」を常識的な組み合わせをはるかに超えたところまで意図的に広げていくことで、思いもよらない有効な「変化」を獲得できる可能性はあるだろう。

 

 ナノテクノロジーなどで盛んにつかわれる「異分野融合」などといった、わかりにくいキーワードより、いままで組み合わされなかったこと、(もの)(考え)を組み合わせてみる「新結合」のほうがシンプルで、かつ現実的と言える気がする。

 経済学者の多くは分析は得意だが、予測は苦手だとか言われるが(ノーベル賞学者でも)、シュンペーターが鳴らした警鐘は数十年を経ても核心を突いているのである。

 

特別な才能がなくても、日常生活においてでもシュンペーターの残してくれた概念の「新結合」をあれこれ組み合わせてみて(最初は二つの組み合わせから始めたらよいといっても、新しい組み合わせが、新しいもの(こと)を生み出すかは感覚的な評価でよいから評価してみて、やるやらないを決めるか、やってみて有効性を見たらよいくらいの気軽さで)「変化」を楽しむのも、イノベーションに対する抵抗勢力にならない秘訣かもしれない。

 


                                   篠原 紘一(2009.1.21

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