14. ネットワーク社会


 ブロードバンドとか、Everything over the Internetとかいう言葉をよく見聞きする。よく言われることであるが情報通信技術(IT技術)の世界は時間が5から7倍の速さで実質回っていて、ドッグイヤーと呼ばれているくらい、変化が速い。したがって、この世界は10年間を振り返ると隔世の感ありとなる。12年ほど前になるが、新しい構成の磁気テープをコンピュータのデータをバックアップするテープフォーマットに持ち込もうとして、フォーマットリーダーのHP(ヒューレット・パッカード)社と仕事を始めた。そのとき初めて、電子メールを使った。日本での会議の宿題についてメールを打つと即座にイギリスから現在海外に出ていて1週間後に戻るとの返信メールが返ってきて、興奮した。今はどこにいてもメールでやり取りが可能になっていて、研究開発の業務のかなりの部分は研究者が今どこにいるかと無関係になって、仕事のスピードは明らかに速くなっている。特に物理的に離れたチームとの連携はネットの進化によって、より広く、高度化している。

 1995年1月17日の明け方神戸で暮らしていた筆者はあの阪神・淡路大震災を経験した。すでにトップダウンのナノテクノロジーがふんだんに使われている代表選手の携帯電話はまったく普及していなかったし、iモードでネットにつながることなど誰も考えていなかったことである。そもそもWEBのコンセプトが危機管理における分散手法の適用にあったことを思うと、(あの状態で今のネットワークが張り巡らされていたとしても、十分機能し得なかったぐらいの破壊であったかもしれないが)公的な対応は、二次災害を抑制し、被害を少しでも小さくしえたのではなかったかの思いが残っている。

携帯電話はナノテクものづくりが得意だという日本が産業でリードできていない。もともと北欧の過酷な気象条件が生み出した携帯電話はノキアが今も圧倒している。しかし用途は一変しているのである。用途の変化拡大は、まさにWEB的で想像を超えて共進的で、何が出てくるか、生き残れるか興味が尽きない。残念ではあるが、ハード志向からなかなか脱皮できない日本メーカの苦戦はまだまだ続きそうである。

 今後のネット社会もハードと、ソフトのブレークスルーが押し上げていくことは間違いない。ネットワークのハードで印象に残っているのは、シスコシステムズのルーターである。ルーターはネットワーク(LANとLAN,LAN,とWAN)間をつなぐデバイスであて先に配送したり、特定の情報単位を配送制限したりするフィルタ機能などを基本の機能とするもので、ハードビジネスで利益が30%を超えるということで衝撃を受けた。成功したベンチャー企業で、勢いを実感したのはハードディスクの仕事でカリフォルニアのミルピタス市にある企業を何度か訪ねてるうちにその企業の前の畑にいつの間にか、シスコのオウンビルが3棟建ち、通勤用に鉄道まで引き始めたのを目の当たりにしたときである。シスコも順風満帆とは推移していないようであるが、ネットワーク社会に重要な貢献を目指して活動していくことであろう。

話を最初に戻す。ブロードバンド、インターネットは進化を続ける。その基盤の技術がナノテクノロジーであることは確実であろう。確かに交換される(ネットを走り回る)情報の量的拡大は爆発的とたとえるのがふさわしい状況は続くだろう。しかし、ネットワーク社会が、地球規模の深刻な問題をかいぜんしつつ、より好ましい社会に変えていく上で、重要なのは、情報の質である。企業での研究をどう運ぶか考える立場のときに、朝一番にデスクで電子メールにアクセスするのを意図的にやめた。考える脳がどうも弱っていきそうな不安を感じたからである。電子メールのメリットはたくさんあることを認めた上で、メールと距離を置くことも考えたいものである。

                                              篠原 紘一(2002.10.3)

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