有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト光センサー
~金属錯体層を利用した光電流増幅により、低電圧駆動・超高感度を実現~
石井 あゆみ(早稲田大学 先進理工学部化学・生命化学科)
背景
弱い光を高感度に検出するために、光により生成した電子(電流)を増幅するアバランシェフォトダイオードや光電子増倍管が一般に用いられている。材料としてはSiやGaAsなどの無機半導体が用いられており、光電流増幅現象を促すためには高い電圧(~数百V)が必要となる。高電圧印加は環境や装置への負荷が大きいだけでなく、ノイズを増大させるなどセンサー性能を悪化させる原因となる。本研究では、高感度・高効率な光検出を低電圧駆動で実現可能な、有機-無機界面で光電流増幅を促す新しい光センサーを開発した。
発明の概要
光電流増幅機能を持つ超高感度光センサーの開発:酸化チタン(TiO2)多孔膜表面にペロブスカイトナノ粒子(CH3NH3PbI3)とEu錯体薄膜からなる受光層を形成
- →可視光(400~800nm)に対し、光電流増幅率2900倍、受光感度1000A/Wを達成。駆動電圧は乾電池レベルの1V以下。
【発明のポイント】
- 薄膜界面を利用した光電流増幅:
- 1. 光吸収(受光)層である有機ペロブスカイト(CH3NH3PbI3)が可視光を効率よく吸収し、キャリア(電子およびホール)を形成
- 2. 形成したホールがTiO2およびEu膜界面に蓄積され、薄膜層に電界が集中
- 3. 外部電極(Ag)から電子が注入され(トンネル電流)光電流が増幅
- 低電圧駆動:
- 5nm以下の薄膜層で電流増幅が生じるため、高い電圧が不要
- 低い暗電流:
- 暗時では、金属錯体の有機配位子とEu酸化物層がブロッキング層として機能し、電流を10-8 A/cm2まで抑制(高いS/N比)

想定される用途
- ①微弱な光を明るく検出可能、ダイナミックレンジも広い(1uW/cm2から10 mW/cm2の光に応答)
- ⇒月光程度の光も感知!弱い光環境下で感度が要求される防犯カメラ、暗視カメラのセンサ素子としても利用可能
- ②低い駆動電圧、低いノイズ(低暗電流)
- ⇒高電圧回路が不要で素子、装置の簡便化、小型化が期待!ロボット用の視覚センサー、IoT機器(携帯、スマホなど)のセンサーなどへの応用
- ③光吸収層の選択により、受光波長は紫外から近赤外領域まで拡張可能
- ⇒あらゆる光に対応可能!衛星用光学センサーから小型のサーモメータ-非接触体温計など幅広く応用可能
ライセンス可能な特許
発明の名称:光電変換素子、光電変換装置、光電変換素子前駆体、光の検出方法、および光電変換素子の製造方法
国際公開番号:WO2020/162317
登録番号:特許第7356157号(367KB)、米国12120891(1.75MB)