1*事業進捗状況及び今後の見通し
次世代の半導体生産技術における、現場を踏まえた計測・加工等の課題が選ばれ、大企業・地場企業・大学・公設試がそれぞれの役割を活かした良好な結びつきを見せている。
熊本地域には、大手半導体メーカーの拠点工場や製造装置・検査装置・材料等の各メーカーと、それらメーカーを支える関連地域企業がフルセットで集積立地している。そこからの人材が、各グループのリーダー的立場で参画・支援している。大企業の役割と地場産業の役割は従来の下請け関係とは異なり、大学を交えた新しい技術提案課題を実現してゆく形であり、各々の企業が各々の実体に合った実用的研究開発を熱意を持って推進していることが、現時点でのプロジェクト活性化の原動力であり、地域への波及効果は極めて大きいものと思われる。
県としても、コア研へのクリーンルーム設置、熊本県独自の半導体教育システムによる人材育成事業など、地域挙げてのプロジェクトとして明確な姿勢をもって推進されている。
|
2*研究開発進捗状況及び今後の見通し
(総論)
開発テーマは、企業現場の必要項目を見据えて問題設定されており、それにより、自ずと実用化を指向しているところに特長がある。共同研究の体制としても、既に多くの企業が一体となって研究開発を行っており、実用化に向かって順調に進捗している。
研究統括が研究方向に関する指導を行い、副研究統括が具体的な進行管理及びテーマ間連携を指揮している。両者の相補的役割で、全体としてよく機能している。企業出身のサブリーダー達の果たす役割も非常に大きい。
テーマのうちには、大きな技術的課題を抱えたものもあるが、Phase I としての要点は十分把握されており、問題点への対応も的確である。精力的な研究開発の継続により、課題を解決してゆくことが望まれる。
ただ、活発な研究内容と進捗状況から見ると、さらに多くの特許が取得できるはずと期待される。知的所有権に戦略的な取り組みが重要な分野であるだけに、この点には、今後さらに重点をおいて進めるべきである。
|
(サブテーマごとの留意事項)
サブテーマ名 |
留 意 事 項 |
超精密高速ステージ開発 |
・ 高速性・位置決め性などで当初の目標を達成し、具体的進展が著しい。技術も独創的である。問題点、他技術との比較、今後の進め方などよく整理されている。
・ ただ、半導体に限らずバイオ・IT関連などナノテクの中で広い応用の考えられる有用な技術分野であるだけに、今後の技術競争も激しくなると思われる。理論的解析や制御の面をさらに強化したほうがよい。ここは、大学がリードすべきであろう。
・ 現在取り組んでいる摩耗・発塵の問題に加えて、3次元形状計測装置や液晶検査装置に搭載される段階でさらにいろいろな要求事項が出てくるとも考えられるので、早く搭載して問題点を抽出することが望まれる。 |
計測技術開発 |
・ 順調に進捗しており、成果も認められる。課題が的確に捉えられており、対応も良い。欲を言えば、正攻法であるだけにやや新規性に乏しいきらいがある。新しい手法の導入により大きな発展に結びつければ、半導体工業に極めて有用な技術開発である。
・ 3次元計測手法開発は、オリジナリティある技術であるが、0.1μmφでアスペクト10以上の微細孔の観察まで可能になるだろうか。達成されれば独創的な技術・製品になることが期待される。
・ プローバは、デバイスの高周波化に対応した重要な技術である。ただ、競合企業があるので、特許ゼロのままでは負ける可能性がある。 |
デバイス形成技術開発 |
・ 本研究開発は、総合技術として成立するものであり、集大成して成果の生まれるものである。その点が良く理解されており、研究統括のもとでまとまっていると認められる。進捗について特別遅れているも のは、今のところ見受けられない。
・ エッチング異常放電監視法
プラズマプロセスにおける異常放電は、長年の課題であり、独創的手法でそれを検出する本課題は、実に具体的で有用。異常放電検出手法の開発を、東北大学のプラズマ装置開発における放電原因の撲滅と組み合わせて進めている点も、極めて良い開発形態である。
・ 液晶光プローバ開発
独創的形態の蒲鉾型センサーのみならず、検出アルゴリズムの開発など研究開発の水準は高い。論文はないが、特許件数が多いことが良い。多様な「ムラ」の判断能力を高めて、全自動レベルまでを期待したい。
・ 次世代対応めっき技術開発
実装が益々重要になる昨今、独自の研究開発でポリマー上への実装用Cu配線を可能にするめっき技術は評価される。実用化の見極めに進んでほしい。
・ レジスト塗布・現像プロセス開発
今取り組んでいるレチクルに対する塗布のほか、液晶用大面積基板への塗布も、この技術の視野にはいるはず。早く大面積化・高速化に取り組み、新たな技術課題を抽出すべき。おそらくは、そこから多く の特許技術が生まれる。ただし、一定時間をかけて塗布した後ゆるやかに減圧乾燥するこの方式において、膜質の均一性はどうなるかを、今のうちに突き詰めて考えるべき。ここに本質的な問題があるならば、開発見合わせもありうる。
・微細加工・計測技術開発
レチクルレス縮小露光をステッパーに応用する点は独創的。
WN薄膜については、データがないのが現状で、挑戦的であるが実現性は不明。スパッタのみでなく色々な方向からアプローチしないと、本事業の難点になる可能性あり。産学共同研究の観点からも、学中心であるところが他のテーマと異なっている。 |
|
3*成果移転に向けた活動状況及び今後の見通し
半導体・通信・電気・制御・精密機器等の分野を専門とする特許コンサルタントや弁理士をスキルバンクとして十分に活用し、全テーマについて、事業化に向けた研究成果の権利化を検討しつつ進められている。
8研究テーマのうち、基本的な特許の国内および国外出願の進んだ3テーマ、超精密高速ステージ、異常放電監視装置、液晶検査装置については、特に事業化可能テーマと位置付けされている。
超精密高速ステージは、圧電振動子による駆動機構をプロジェクトの特長として、CD−SEMやステッパーへの搭載を目標に開発が進められているものであり、ユーザー候補企業への現状開発状況の報告や要求仕様の情報収集などが活発に行われているが、半導体装置は、高速動作・高精度とともに高耐久性・高信頼度が求められる用途であることから、技術的に見ても、今後長期にわたり実用化推進活動を継続する必要があると思われる。
この一方で、比較的低速の動作・軽加重である細胞手術用途に、ステージ駆動機構の原理を展開して別の共同研究を発足したことなどは、自己技術の応用範囲の広さを正しく捉えた望ましい取り組みといえる。
異常放電監視装置については、試作した監視装置のユニットを、共同研究参加企業の実際のプラズマ装置に取り付けて性能評価する段階に入っており、早期の実用化が期待される。
液晶検査装置についても、メカニズムの開発・ソフトの開発とバランスのとれた研究開発に加え、キーデバイスの入手・商品化予定企業の戦略立案などで、新技術エージェントを軸としたプロジェクト全体の支援効果が認められ、実用化に向けて着実に進んでいることが認められる。
あらかじめ実用化を視野に入れた課題設定、新技術エージェントの活発な活動、共同研究参加企業の旺盛な実用化志向などから、この他のテーマも、実用化段階に進んでゆくことが期待できる。
|
4*都道府県等の支援状況及び今後の見通し
大企業と地場産業の結合や、県の各組織・機構との連動、熊本大学など学との連携など、よく整合された産学官連携の枠組みをつくり、県産業・シリコンアイランド九州・日本の半導体産業振興のなかに常に位置付けた全面的な支援が行われている。
事業開始時のコア研の設置やその後のクリーンルーム化による機能強化など研究環境の整備、県工業技術センター研究員の積極的参加、周辺のインキュベーション環境の整備、セミコンジャパン等の機会を捉えた積極的広報など、県の重要な産業である半導体分野に関する科学技術政策・産業政策を反映し、明確な姿勢をもって推進されている。
なかでも、熊本県独自のネットワーク型半導体教育・研修システム事業は、研究開発と並行して人材育成を進めることにより、半導体産業の集積を人材供給面から支える施策であり、地域の技術レベル向上に極めて有効と思われる。
|