1*事業進捗状況及び今後の見通し
INSに「磁場活用研究会」を産学官で創設、コア研である岩手県先端科学技術研究センターの設置等、産学官ネットワーク機能の強化やコア研の整備では有効な手が打たれている。また地元企業のみならず中央の大手企業も参画し、さらに特許・論文ともに量数的には標準レベルに達しており、事業進捗状況として、全体として適切である。
別々のテーマを抱えた何人かの若い研究者が放り込まれている状態は必ずしも望ましくなく、研究者の結集状況は十分とは言い難い。研究/研究体制ではハード面だけでなく研究員の処遇等も含めたソフト面の配慮が望まれる。センター専属の自発的でリーダーシップのある研究者を少数でも育成する等今後に期待する。
研究テーマの絞り込みも一応なされてはいるが、より一層の重点化が必要である。実用化に向けたコスト分析等産業的有用性に関して、磁場のみに限定せず、他の方法との比較が必要である。岩手県の強みである超伝導バルク材の産業応用については積極的に推進することが必要である。研究実施体制を再検討し、充実したスタッフ構成にして、今後新技術エージェントの役割を重視することが必要である。
事業終了後にそれまでに形成された研究ポテンシャルが失われないように、岩手大学、岩手医科大学、超電導工学研究所との密接な連携の元に岩手県先端科学技術センターが磁場活用研究に対する中核機関として活動するための人的、資金的な手当について検討を開始することが必要である。
|
2*研究開発進捗状況及び今後の見通し
(総論)
岩手県のテーマは、磁気を応用した広範囲の技術課題を対象としており、県の技術基盤を生かして多彩な成果が上げられている。研究テーマはプロジェクトの開始時の33から現在の11に集約されてきている。この中で、磁気分離技術は進展が見られるが、磁場応用技術開発に於ける有機集合体、バイオ応用、計測技術の開発、医療への対応は不十分である。また、磁気の食品分野での応用研究についても一段の努力が求められる。その他、研究目的等が未だ定まらない課題も見受けられ、目的・展開方法を再検討する必要がある。
中心課題の一部である磁気による固液分離技術のコストの問題、心磁計のシステム企業化に当たる企業選定の問題等、実用化に当たって最も重要な焦点が必ずしも明確に提示されていない。産業応用を目指した場合、経済性や使い勝手を含めた、より高い目標設定も必要である。テーマによっては食品加工のように中に数種類のテーマを内包しているものも見受けられ、今後の産業応用へのハードルが高いと予想されるテーマも含まれている。学術的成果にいかに独創的で優れたものがあるかは極めて重要であるが、生物系については明らかに問題を抱えており、何らかの対策が必要と思われる。一部研究計画内容の再評価、更なるテーマの絞り込みが必要である。また、一部の小テーマについては研究員の兼任が見受けられることから、補強やテーマの見直しが必要である。
|
(サブテーマごとの留意事項)
サブテーマ名 |
留 意 事 項 |
A 磁場活用技術の開発 |
・ 研究内容は網羅的であり、テーマ間の連携が不十分である。
・ 固液磁気分離技術の開発では、既存技術と比較したメリット、経済的効果等コスト競争力を明確にする必要がある。
・ 薄膜製造は産業展開の可能性が高いものの、磁気の膜形成に対する物理効果が不明確であり、今後の解明に期待する。
・ 食品加工や免疫系の生物的な応用に関しては、磁場の生物、食品への影響について生物的、物理的立場から理論的に考える必要がある。農学部、医学関係との連携をはかり、種々の角度から検討することが重要である。2年間の成果として基礎的部分は不十分であり、学際的な見地から実験データを早急かつ厳密に評価する必要がある。 |
B 磁気計測技術の開発 |
・ テーマの連携は認められるが、テーマが多く各テーマの基礎が幅広いので連携には十分な注意が必要である。
・ 心磁計の開発では、医療関係はいろいろな問題があるので、医学部と良く連携して進めることが必要である。
・ 何れのテーマも産業応用に近いレベルに到達しているが、計測技術の応用には有効と思われるものが多々あり、実際に産業応用に展開するためには、ユーザの意見を踏まえて製品化を強く心がけ、経済性や使い良さなどシステムとしてより一層の検討が必要である。 |
C 磁気活用要素技術の開発 |
・ CはA、Bに対するサポートとして位置づけられ、更にC−1をC−2がサポートしている。C−1についてはAテーマともっと研究員の連携を進め、応用展開に力を注ぐことが必要である。また、強磁場作成には準備が大変なので進め方に十分な注意が必要である。
・ C−2で得られた成果の水準は高いが、基礎データの取得に留まるのか、それとも超伝導バルク材の改良等C−1のサポートも含めて 行うのか、さらに開発した装置の商品化を指向するのか等、位置付 けを明確にする必要がある。 |
|
3*成果移転に向けた活動状況及び今後の見通し
企業との共同研究が9件進行(共同研究員15名)しており、事業化の努力が認められる。磁力選別、心磁計の開発等では着実な技術的成果が上がっているように思われる。特にこれら開発の中心となっている技術については、実用化企業化に向けた取り組みが強く求められるが、その点に関しては、(1) コスト計算等のより具体的評価 (2) 実施可能性のある企業に対する積極的アプローチなどでより一段の努力が求められる。また生物系(食品等)の計画については、一部成果が十分とは言えず、また研究体制にも弱点があるように見受けられる。また、鮭の判別システムのように実用化レベルに達したものもあり、臨床用の低出力MRIなど多方面へ応用も含めて商品化に期待したい。総じて、技術の要点、特徴、展開法を再検討して見通し、目的の要点を絞り込む必要がある。また、それぞれの技術的根拠が必ずしも十分ではないように見受けられるので、今後の成果に期待する。
1つ1つのテーマについて、共同研究や事業化を視野に入れた企業を見い出す意識をもって活動している姿勢は評価できる。磁気の応用技術は特殊性が強いので、シーズとニーズを的確に把握して展開する必要がある。特許等の調査・利用状況は一応行われているが十分とは言い難い。県内のみを対象とせずに、広く企業化を求めた方が良い。コア研究室常勤のエージェント配置が決定されたことは適切であり評価できる。
新技術エージェントは、既存技術に対する競合性を意識した展開プロセス又は方法論の詰めが甘い。更に研究に深く入り、焦点を絞り、事業化への方針をはっきりと定めることが必要である。地場産業における実用化の他にいくつかの中核技術については、全国的規模の企業とのコンタクト、ユーザーとしての医学者等に対するより広い働きかけ等をさらに推進し、ニーズを積極的に探す必要がある。
|
4*都道府県等の支援状況及び今後の見通し
コア研究室として岩手県先端科学技術センターを設置し研究者を集結させ、計画が有効に活用されている。
岩手県の科学技術振興政策として平成12年10月に従来の指針を全面的に見直し、「新岩手科学技術振興指針」を策定し、その中で重点プロジェクトとして「ネットワーク型磁気活用研究拠点プロジェクト」を位置付けている。
フェーズIIでは、今後の波及効果を考え、伸ばすものは積極的に伸ばし、県としての特徴を早急に出すことを期待する。また新しい事業展開にも更に考慮し、他地域から研究者や企業の支援を求めることや、若手研究者の育成についても更に配慮することを期待する。 |